【緋彩の瞳】 恋試し ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

恋試し ①

TA女学院の火野レイ


みちるの好きな人



メールアドレスも知っている。
電話番号だって知っている。
デートだってしたし、その他大勢もいたけれど、一緒にピクニックにも行った。

”また、電話するわ“
とか
“じゃぁ、またね”
って言ってくれるけれど、ピクニックから1週間、それは全くない。
いえ、でも、たったの1週間。

勝手に思い悩んでいるだけだって、一生懸命心に言い聞かせている。


「あ、みちるさん」
なかなか時間が取れなくて、久しぶりにあのゲームセンターの上にあるパーラーに寄ってみると、美奈子たちがいた。
「ごきげんよう」
レイだけがいない。みちるはさらっと見渡して、腰を下ろすかどうかほんの少しだけ悩んだ。「ごめんね、レイちゃんいなくて」
「……レイは?」
「うーん、来るのかなぁ」
視線が全員の確認をしていたことを、美奈子はすぐに分かったらしい。みちるは咳払いすらしないで、空いている席に腰を下ろした。パーラーに寄ったのは、みちるの前を歩いていたTA女学院の生徒が何人もこのお店に吸い寄せられたから。だから、レイがいるのだと思った。
「今日、何かTAの子たちが多いのは気のせいなの?」
みちるたちのいるコーナーのソファー以外、5つくらいのグループがTA女学院の生徒。そしてそれ以外も男女とも学生らしい子たちがチラホラ。
「いやまぁ、たぶん学生服の子たちはレイちゃん見たさなんじゃない?」
「……どうして?」
火野レイという人物が一定数のファンを背負っていると言うのは、出会ってすぐに知った。それでも、こんなにあからさまに分かりやすいものだったなんて、ただ、みちるが知らなかっただけなのだろうか。
「どうしてって……何、知らないわけ?」
「何を?」
美奈子がニヤリと笑う。亜美が冷ややかな視線を投げてくる。
「明日、みちるさんがお気に召している火野レイ様のお誕生日なのですよ」
「……誕生日なの?」
それは、まったく知らなかった。
本人に聞いたことなんてないし、話題に出したこともない。
「つまりは、明日顔を見られない可能性があるかもっていう連中が、ここでレイちゃんを待ち伏せしてるわけ」
まことが腕を組んで、自分は一歩リードしていると言うような視線をみちるに投げた。たしかにみちるは、この中で一番レイの情報を持っていない。
何か、ムッとしてしまう。
「………レイは、こういう状況だってわかってるの?」
「一応、さっき電話しておいた。めんどくさそうな声だったから、来ないかもね」
前も、同じ学校の生徒がいるのを嫌がって早々にお店を出ていたから、わかっていたら来ないかもしれない。みちるはコーヒーを頼んでしまったけれど、さっさと飲み干してしまおうなんて考えていた。プレゼントを買いに行かないと。
「みちるさん、何ソワソワしてんの?プレゼント用意してない、とか焦ってる?」
「美奈子、人の心を読み取るのは、おやめなさい」
「顔に書いてあるわよ」
美奈子ではなく、亜美がとても冷静な声で答えてくれた。この子たちはみちるで遊びたいのかも知れない。でも、もう、今更と言うか。レイのことが気になっているのは、レイのことをよく知っているこの子たちには、簡単に見抜かれてしまっているのだから。
「教えてあげようか、レイちゃんの好きなもの」
胸を張っている美奈子に、その横でうさぎも上から目線でみちるを見つめている。
「………教えてください」
「あらあら、あっさり敗北ね」
亜美はもう少し、みちるが悩む姿を見たかったとでもいうのかしら。だから、少しでも早く負けを認めないとって思った。亜美の表情がずっと視界の中に入っていたから。
「猫」
「うさぎちゃん、レイちゃんは烏が好きなの」
「美奈子ちゃん、烏が好きじゃなくて、ただフォボスとディモスが傍にいるだけ。動物でレイちゃんが好きなのは猫よ。冬にルナだけ10連続お泊りしてたでしょ?」
亜美は冷静に突っ込んでいるけれど、プレゼントの参考になってないって、わかっているのかしら。別に猫のキャラクターとかが好きって言うことでもないでしょうし。
「あと、おにぎりの具は鮭が好きだよな~」
「そうそう、あと明太子は焼いたら怒るわよね」
「うん、文句言われたことあるな」
それは次にみちるがレイと2人で、お弁当を持ってどこかに行く時の参考になるけれど、だからプレゼントとは関係ない。まことも美奈子も知っていると言うことを自慢したいだけに違いない。
「レイの好きなブランドとかは?」
仕方がないから、もっと具体的なことを求めないと、永遠に自慢を聞かされるだけになると思った。
「レイちゃんは、流行りものには疎い。高そうなマフラーとか巻いていても、どこのブランドなのか知らないって平気で言うから。ブランドのものにお金かけたって、喜ばれないよ」
ストローを振り回しながら、うさぎが教えてくれた。
「ピアスを集めているとか、そういうことは?」
「あぁ、わりと色々持ってたわ。でも、みちるさんはすでにピアスをあげたじゃん」

そうだった。

初めて2人でデートしたときに、レイが自分で買おうとしたピアスを無理やり買ってあげたのだった。美奈子が覚えていて、みちるがすっかり忘れているなんて。
「別に、みちるさんがあげたいって思うものでもいいじゃない?みちるさんの趣味を知ってもらうにもちょうどいいし」
「でも、嫌がられるものは避けたいでしょ?」
「は~、お嬢様も我儘なんだから。そもそも、プレゼントをいつ渡すつもり?明日のレイちゃんの予定、知ってる?当日に会えるとか、高をくくらない方がいいと思うよ。あちらのお姫様だって、お誕生日にお祝いしてもらう人はすでにいるんだからね」

レイにはすでに、誕生日当日にお祝いをしてもらう人がいる。
美奈子たちのことかと解釈しようとしたけれど、亜美もまこともうさぎも、それが自分たちだっていう優越感のような主張をしてこない。

「………あなたたちは、いつレイのお祝いをするの?」
「土曜に」
誕生日は金曜日。学校から帰って来て、レイは誰かとお祝いをする、ということかしら。
「じゃぁ、明日は誰と?」
「男の人よ」
亜美はメガネのフレームを指で上げて、みちるをとても冷静なまなざしで見つめた。

誰とも付き合っていないと言ってたはずなのに。
それでも、そんな人が現れたらボコボコにする、と言ったけれど“いない”と勝手に解釈をしたのはみちるで、みちるを牽制することが目的だったとでもいうのかしら。
レイに直接、聞いておけばよかった。
それこそ、亜美の言葉を聞いて安心しきっていたから。

「……お先真っ暗、みたいな顔ね」
「別に」
ストローで氷をかき混ぜながら、美奈子のしてやったりの顔。
この子たちは、みちるの気持ちで遊んでいる。みちるが振られるのを見て、笑いたいとでもいうのかしら。
「一つ、レイちゃんが好きなもので間違いないのは、カサブランカっていう花かな」
まことは他のグループの子たちに聞こえないように、声を潜めてみちるに教えてくれた、
「……それは本当なの?」
「うん。だって、本人から聞いたから。大好きだって」

花は無難かもしれない。今更手作りの何かを贈ったり、そこそこ値段の張るものを贈ったりっていうのは、まだやめた方がいい。
それにレイは、誕生日には男の人とデートをするのだ。

でも、だからってみちるが何もしないという選択ができない。
もう、なかったことになるほどの気持ちじゃないっていうのは、みちるなりに自覚はある。

レイと言う存在を知って、1か月なのに。

「もし、本当は嫌いだったら、許さないから」
「いや、間違いない。って言うか、レイちゃんの部屋の本棚に、ユリ科の花の写真集みたいなのがあったじゃん。チェックしたなかったの?」
そんな、部屋の中を見て回るなんて余裕があるはずない。でも、この中では一番まことが役に立ちそうな気がして、その言葉を信じることにした。

すぐにメールを打った。本当に明日、誰かとデートをするとしても、10分でも会えたりしないのかしら、と。
5分しないで返信が返ってくる。”明日は予定あり、今日なら空いてる“と。本当はここに来るつもりだったから、今の時間なら空いている、ということなのだろう。
遠まわしに明日の誕生日に会うのを拒否されたことは、それなりに心にダメージはあったけれど、それでも今日空いていると言う返事は、会っても構わないという意味。
「ちょっと、今日は失礼するわ」
「何、レイちゃんは今日がいいって?」
「えぇ」
「……ふーん。じゃぁ、神社にいるんだ。よし、みんな移動する?」
なぜ、付いてくるの。
美奈子に思い切りにらみを利かせて、立ち上がろうとする子たちを制した。
「こわっ!」
震えながら、美奈子はわざとらしく声を上げてみる。邪魔はされたくない。
「あなたたちは、ここでもう少しお茶をしていなさい」
「おごってくれるなら、いいけど」

……仕方ないわね

みちるは心の中でため息をついて、財布から3,000円を出して、知性ある人間の手に握らせた。
「別に、私はいいわ」
「いいの。情報を提供していただいたお礼として」
亜美が返そうとするのを拒否して、みちるは鞄を手に早々出ていく。
「美奈子ちゃん、しばらく贅沢できるね」
「うさぎちゃん、タダはそれなりにリスキーよ。あのお姉さま、結構本気だから」
うさぎと美奈子のやり取りを背中で聞きながら、みちるはまず、花屋さんを探しに行かなきゃと、急ぎ足でパーラーの階段を降りた。



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Date:2015/04/17
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