【緋彩の瞳】 あなたのリズムで

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

あなたのリズムで

この距離が好き
この空間が好き
こんな風に思える自分も、ちょっと好き
そんな風に美奈子は思う

「じゃぁね」
「バイバイ。亜美ちゃん、まこちゃん」
クラウンを出たところで2人と別れた美奈子は、手を振って振り返ったレイちゃんを待って、並んでから歩幅を合わせた。
「レイちゃん、この前行った映画、パート2の公開が明後日からよ」
「そう。初日は込むわ。出来れば落ち着いて見たいわよね。サスペンスだし」
鞄から手帳を取り出して、フリーの日を確認し始める。
美奈子はその手元を覗きこんだ。
過去を辿ると、オレンジ色のペンで“ミナ”の文字がいくつも並んでいる。心が飛び跳ねて、宙を舞って世界に愛の星がいっぱい舞い降りた気分になる。だけど、そんな素振りは見せることもない。
「この日は?」
「あぁ、この日はちょっとね。昨日、はるかさんから電話があって。ナンパされているから」
「またぁ?みちるさんにばれても知らないわよ?」
「まぁ、1ヶ月前にはみちるさんにつき合わされたからいいわよ。それに、ほたるも一緒のデートなの。みちるさんとせつなさんが仕事だから、だって」
忘れないうちにと、黒のペンで“子守”と書き込む。
美奈子は他に空いている日を探した。
「なら、平日の夕方とかは?」
「学校帰りに?でも、制服はマズイわよ」
「んー、じゃぁ日曜の朝一番を見るのは?指定席のチケットを買えばいいから」
週末の日曜日、予定が白い枠を指差すと、レイちゃんは軽く頷いた。
「どこに行けばいい?」
「銀座の映画館だから。朝、階段の下で待っているわ」
「わかったわ」
今度はペンの色を変える。“ミナ”と決めた時間を書き込む手元を見つめた。
「はるかさんのナンパ、美奈も付き合ってくれない?ほたる、まだ小さいくせにアチコチ動き回って、保護者のはるかさんもアチコチ動き回るから、私ひとりじゃ面倒見られないのよ」
「いいわよ、別に。どこに行くのよ?」
鞄に手帳をしまったレイちゃんは、苦笑して溜息を漏らした。
「ショッピングセンターですって。やってられないわ」
「レイちゃんを選んだはるかさんの選択は、合っているわね」
「興味ないとでも言いたいわけ?」
春の暖かな風が桜の花の残骸を二人の足元に運ぶ。髪を片手で押さえながら、それを踏みしめて歩く。

寄り添わず、見詰め合わず
だけど同じリズムで
同じ歩幅で

「でもレイちゃん、大きなショッピングセンターとか、興味ないでしょ?ほたるを見ていればいいわけだから」
「つまらないのよ、それはそれで。はるかさんは勝手にうろつくだろうし。まぁ、みちるさんほど酷くはないけれど」
「あぁ、わかる。私も付き合わされたわ。散々振り回された上に、自分から迷子になったのに、私を迷子として呼び出したのよ、みちるさん。携帯電話があるっていうのに、恥を掻いたわ」
風に靡いた漆黒の髪が、蜂蜜色の髪に混じる。
「美奈、土曜日は10時にはるかさんたちの家の前だから」
「お昼はおごり?」
「当たり前よ。プラス報酬は別でもらうことにしているの?」
「何?」
尋ねると、考えていなかったらしく、首を傾げる仕草を見せた。
「さぁ?なるべく困らせるのがいいわよね。今、特に欲しいと思うようなものはないのよ」
和らいだ風が、二人のとても綺麗な髪の絡みを解いた。
レイちゃんがさらっと自分の髪を手櫛で揃えて、そしてついでのように美奈子の髪を撫でる。
「私、この前レイちゃんと一緒に入ったお店においてあった髪飾りが欲しいわ」
「あぁ、あの?高かったわよね。それにするわ。あれの、私はシルバーにするわ」
「じゃぁ、私はゴールドなの?」
美奈子が尋ねると立ち止まって撫でていた美奈子の髪を掌の上に載せた。
「似たような色じゃない。あなたもシルバーよ」
「なるほどねぇ。おそろいってわけね」
「私にはゴールドは似合わないだけよ」
風が美奈子の大好きなレイちゃんの掌の蜂蜜色の髪を持っていく。
すこしスピードが落ちた歩くリズムは、風にせかされるように、またペースを速めた。
風が子供を喜ばせて、キャーッと声をあげる。
鞄で短いスカートが捲れないように、押さえる仕草を見て、彼女が風のいたずらで困らないように、そっと風上を歩く。
そんな空間がたまらなく好き。
こんな距離も。
春に吹く風も。
ローファーのリズムも。
そして今訪れている沈黙も。
凄く楽しくて、好き。

「じゃぁね。また明日」
「うん、また明日。まこちゃんちの勉強会、時間通りに来なさいよ」
「わかっているわよ」
神社の階段を3段ほど上ってから、レイちゃんが振り向く。すこし美奈子より目線が高くなった。ほんの少しだけ前かがみになって、人差し指をピンと立てているレイちゃんに、美奈子は親指を立ててみせる。
「遅刻したら、神社の桜の残骸をきれいに掃いてもらうから」
「ご褒美くれるのなら、いつだってやるわよ」
「報酬なしよ。嫌なら遅刻しないこと。じゃぁね、美奈」
「バイバイ、レイちゃん」
駆け上ってゆく背中を瞳が追いかける。
また、明日も会える確信があるから。
楽しみがあるから。
美奈子は回れ右をして、レイちゃんがまだ作り出している同じリズムで、家に向かって走り出した。





HAPPY BIRTHDAY TO YOU
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Date:2015/04/17
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