【緋彩の瞳】 恋をしている。 ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

恋をしている。 ①


繋いだ指の隙間の空気
互いの袖がこすれ合う音
ヒールを履いた彼女の歩幅に合わせる律動
ふわりと風を受けて舞う毛先の波
好きという想いの言の葉は日ごと萌ゆる







日曜日。
みちるさんのお仕事が終わったあと、待ち合わせをして外で食事をして、日付が変わる前に神社に帰った。また学校が始まり、みちるさんも週末まではずっと、予定が埋まっている。

会えないわけじゃない
会いたいと言う気持ちがないはずもない

だけど、じゃぁ次は金曜日の夜にね、と先に言われたから、レイはそれに頷くだけ。みちるさんの都合を聞かなくても、ちゃんと言ってくれるからそれに従う以外、レイからあまり会いたいっていうことを口に出したりしない。

出せないというか
出しにくいっていうか
我儘だとか迷惑だとか、忙しいのにって思われるんじゃないかとか


とか
とか、とか、とか、とか


携帯電話の着信履歴は海王みちるという名前がずらりと並んでいる。
でも、発信履歴は、それほど同じ名前が並んでいない。愛野美奈子、水野亜美、月野うさぎ、木野まこと。ずらりとそれらが並んでいる間に、ポツポツとみちるさんの名前がある。でもこれは、単にレイが電話に出られなくて折り返したものばかり。

掛けたくないっていうよりも、かかってくることが多い。
一日に1度は必ず、電話をくれるから。

それで満足っていうか
それでいいって言うか

何て言うか




月曜日。
新しい教科書を開いて受ける授業。教室の窓からは桜の最後の一輪が、葉っぱに囲まれながらも、なお、しがみついている。新しい教室に移った始業式の時には、もうすでに満開になっていた。1週間ほど寒かったせいで、思った以上に桜の花は持ちこたえたけれど、その後に降った花散らしの雨が、ぽたりぽたりと咲いた形のままの花を落としていった。
ただ、なんとなく窓の外眺めることに時間を費やしてばかり。
授業を聞いていないわけじゃない。
景色の移り変わりを見つめながら、たぶんずっと、みちるさんを想っている。

具体的にみちるさんの何を思い描いているのか、レイ自身もちゃんとわかっているわけじゃない。

声を思い描いているかもしれないけれど、どんなことを話している時かなんて言えるものでもない。
笑顔を思い描いているかもしれないけれど、それがいつくれた笑顔かなんてわかっているわけじゃない。
優しさを思い描いているかもしれないけれど、抽象的過ぎて、“なんとなく”以上のなにものでもない。


ただ
想ってる



世界史の教科書の中の、地中海の写真も
英語の教科書の中の、沖縄の海の写真も
青い表紙のノートでさえも

みちるさんを何となく思い描くものに見えてしまう

2人組で廊下を歩いている隣のクラスの子や
コンパクトの鏡を開いて、リップを塗るクラスメイトや
“火野さん”と他人行儀に呼んでくる、見知った先輩でさえ

なぜか、みちるさんの声や仕草を思い描いている自分がいる



みちるさんに会えない時間の過ごし方は
みちるさんと付き合うようになって変わっていった

『好き』という想いをくれたのは、みちるさんからで
『私も』というとても大事な一言を、その時に言い逃して
1か月が過ぎてしまった
上手く伝える代わりの言葉なんてなくて
だけど、面と向かって言えないような気がして

こんなに想っているのは、気持ち悪がられるかもなんて
もう、何だかよくわからない



学校から帰る途中に、ショーウィンド一面にどこか南の島国らしいポスターが貼られていて、思わず立ち止まった。GWの旅行は是非わが社へなんて書いてある。
そのネプチューングリーンの海と真っ白い砂浜を眺めて、ほとんど無意識に携帯電話を鞄柄取り出していた。
「……あれ……」
携帯電話を握りしめて、誰に電話をしようとしていたのか。
自分に問いかける必要なんてない。
思い描く人なんて、1人しかいない。


自然の風景の中でも
人と人との隙間の中でも
写真にしか過ぎない海の景色の中でも

今のレイは、何を見ても聞いても感じても

携帯電話に登録された海王みちるという文字を、ディスプレイに表示させてしまいたくなるのだ。

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Date:2015/04/19
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