【緋彩の瞳】 tender ⑩

緋彩の瞳

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ポイ捨て小説

tender ⑩


地球をとても薄い灰色の何かが覆っているようだと、監視をし始めたのは、それから間もないころだった。外から見る限りでは、これと言った原因を突き止められるようなこともなかった。
ただ、マゼランからきているという兵士の数が増えているらしい。マーキュリーによると、その兵士の増員と共に、地球を覆う何かが色濃くなってきているという。
マゼランに向かおうかと悩んだが、結局思いとどまってしまう。
ジュピターを送り込んだこともあったが、どうやら中には入れてもらえないようだった。鍵をかけたとでも言うのだろうか。
「……ベリルが何かをしかけているに違いないわ」
「お心当たりは?」
ない、という前にあの一度だけ見たヴィーナスの黒い宝石のチョーカーが記憶によみがえった。
「あのチョーカーが原因ではないかしら」
「あの?お心当たりがあるのですか?」
マーキュリーの“なぜ、言わなかった”と言いたげな顔。
「……そうだとは言い切れないのだけれど。あの時、一目見て嫌な予感はしたの。やはり……聞いておけばよかったわ」
マーズが見逃したのが原因で、よからぬことが始まっているのではないか。
そう思うとじっとしていることもできない。
「ネプチューンとウラヌスは月に報告を。現状を説明すれば、私が動くこともやむなしとお考えになるでしょう。月の後ろ盾があれば、ヴィーナスの兵士の引き上げ要請もしやすくなるわ」
「承知しました」
「まず、マゼランの兵士がどれくらい地球に降り立っているのか、この目で確かめないと」
だからと言って、争いを望まない月が難色を示せば、軍事介入は難しい。地球とマゼラン以外の国に影響が及んでいるという報告はない。どこまで干渉が許されるのか。
「マーキュリー、ジュピター、ついてきなさい」
地球へと続く回廊の途中、マゼランの扉の前を通る。
「開けてみますか?」
「無駄でしょう」
内側から鍵がかけられているようだ。
「……そのようですね」
ジュピターが先回りをして身体を使って押してみたが、ピクリともしない。
「回廊をつなぐ星は、他国への通達なしに扉に鍵をかけてはならない。……間違いなく彼女の罪を確認できたわ」
マゼランに何があったのだろうか。
ベリルが何かをしでかしたのか。それとも彼女の意志なのか。


「……ご立派になられたようで、ベリル」
「老けたとでも言いたいのか?」
「まさか」
地球国ではあれから数年。ベリルはあの時の幼さを捨て去り、綺麗な容姿になり替わっていた。だが、この星を重苦しい空気が包み込んでいるのは確かで、経験したことのない不穏な熱が肌を撫でまわすように感じる。
「ヴィーナスがずいぶんと地球国軍の再建に励んでくれたおかげで、軍力も増してきた。さすがに優秀なマゼランの兵はよいものじゃ」
何をしたのだろうか。成長した四天王からはそれほど邪悪な気配を感じることはないが、それ以外の兵士の姿が見えない。
「ベリル、マゼランからの兵はどちらに?アドニスという男です。一度顔を見たいのですが」
「さぁ、どこぞにおることだ。勝手に探すとよい」
「ヴィーナスからは、彼をとどめるのはほんの少しの間と聞いております。あれから数年以上は経っています」
「ヴィーナスが軍の強化に協力的でな。頼んでもおらんのに、次から次へと優秀な兵士をよこしてくれる。こちらが何かを言った覚えもない以上、困惑はしたが。……まぁこれも友好関係の証として、ありがたく思っておるところではある」
そんなことをするわけがない。何をそそのかされたのか。いずれにしても、やはりヴィーナスに会わなければならないのだ。あの扉をこじ開けなければ。
「軍神としては、いくら地球とマゼランであったとしても、銀河の秩序を乱す行為については、認められないのです」
「マーズには関係のないことであろう?マゼランが何をした?地球が何をした?マーズの同盟国をおびやかしてなどおらん」
彼女の背後には、大きな水晶がある。その王座の椅子よりも大きく、そして黒々と光を放っている。この前来た時にはあんなものはあっただろうか。黒く輝く水晶など記憶にはない。
ヴィーナスのチョーカーもあんな色だった。
「……今は確かに。ですが、ベリル。一体あなたは何を望んでマゼランから兵を?どこかと戦うおつもりですか?」
「さぁ、な。ただ、このメタリア様という素晴らしい助言者がそばにおるのだ。この星が長寿を得たその時こそ、月をも上回る大国になると予言されておる」

メタリア?
聞いたことのない名前だ

マーズの第六感が警告を発している


「月は絶対的で神聖なる国。地球もまた、尊く美しい国です。地球は今のままで、何一つ足りないものはありません」
「綺麗ごとを並べて、……地球国が神の国を超えることが悔しいのか、マーズ」
そんなことはあり得ない。できるわけがない。
ただ、メタリアというものの正体がつかめない。魔術なのか、信仰なのか。
「悔しいなど。私は青く輝く美しい地球が平和であることを望むだけです」
「心配するな。ヴィーナスも同じことを言っておったわ」
利用したいだけに違いない。
愛の女神の、その優しさをうまく使って、軍事力を高めて何を望むというのだろうか。それとも別のところに思惑があるのだろうか。
「……そうですか。それを聞いて安心しました。数多くのマゼランの兵を地球国へ送り込んだのはヴィーナスの好意と言うことですが、ベリルも困惑しているということですので、こちらから引き上げるように、強く要請します。このことは月の王国に伝えてあります。独立国同士の問題とはいえ、ヴィーナスの行いは他国の誤解を与えるものです。ヴィーナスにはそれ相応の処分をすることにいたしましょう」
余裕の笑みを浮かべているベリル。
険しい顔になると思っていたのに、想像とは違い、さらに余裕という様子でふんぞり返って声高らかに笑っている。
何が狙いなのだろうか。
「マーズにそんな権利があるというのか?マゼランと地球のことだというのに」
「マゼランにのみ、手を出します。出したくはないのですが、銀河の秩序を守るというのが私の役目。独立国が秩序を乱すような行いをするのはもってのほか。もちろん月の承認を得たうえで適切な処分をくだします」
「できるものならしてみるがよい。………マーズ、いずれ後悔するぞ」

それこそが罠だとでも言うのだろうか。

きつく閉ざされたマゼランの扉の向こうに何が待っているのだろうか。




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Date:2013/12/05
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