【緋彩の瞳】 Crazy for you ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Crazy for you ①

「………ごめん、もう一回言って」
「だ。だから……キスってどうすればその、雰囲気を…作れるの?」
みちるの瞳がきょろきょろと左右に泳いでいて、それでいて挙動不審。はるかは何度も目をパチパチさせて、みちるの言葉を頭の中でリピートさせた。
「えっと、それはつまり、君の恋人とだよね?」
「あ、当たり前よ」
「レイのことだよな?」
「………もちろん、そうに決まってるわ」
わかっていて聞いている。会うたびにみちるの口から”レイが、レイが“っていう惚気ばっかりだから。ある日突然、恋人を変えられたら笑いごとになんてならない事件だ。
「えっと、………あれ、付き合うことになったって聞いたのは。3か月くらい前じゃなかったか?」

地雷を踏んだらしい。右往左往していた瞳が苛立ちというか情けなさというか、とにかく切羽詰っていると言わんばかりにはるかを睨み付けてきた。

「………………だから、恥を忍んではるかに聞いているのでしょう?」
「えっと、キス……してないんだね」
3か月も?って言おうとしたセリフを飲み込んで、何か励ます言葉を探そうとしてみるけれど、浮かびそうにない。
「なんで?デートしてるだろ?」
「してるわよ」
「どこで?」
「美術館に行ったり、植物園に行ったり、お買い物に行ったり、コンサートを聴きに行ったり」
きっと、手を繋ぐなんて言うこともせずに2人並んで歩いているんだろうなって、簡単に想像できる。雑踏の中でも、2人は手を握ったりしないだろう。
「家は?」
「………来てくれたことはあるわよ、もちろん」
「2人きりだっただろ?」
「…………そうだけど………」
みちるの顔には惨敗って書いている。レイに一目惚れだったみちると、みちるのことをそれとなく気にしていたレイをくっつけたのは周りの仲間で、もちろんはるかだってそれに参加した。みちるは一生懸命レイに想いを伝えていたし、レイだってあまり自分のことを語らないけれど、それに応えることで想いをレイなりにみちるに預けているようには見えていた。
「みちる3か月何をしていたんだよ」
「……ソファが大きすぎるのよ」
確かにみちるのマンションのソファは3人掛けだ。ベッドもクイーンサイズ。
「いや、何だその言い訳」
「レイったら……いつも端っこに座ってしまって、避けているように見えるんだもの」
「恥ずかしがってるだけじゃないのか?」
「そうかもしれないけれど」
「みちるから行くしかないだろう」
「……………相手はレイなのよ?」

だから、知ってる。

「レイを好きになったのはみちるだろ?」
「………えぇ」
「あの鉄壁を乗り越えるって、相当体力と知恵と努力と勇気と、とにかく一筋縄じゃいかないことくらい、わかってただろ?」
「えぇ」
見る見るうちに小さくしょげていく、プロのヴァイオリニスト。
レイのことになると、みちるはもう、冷静沈着ではいられなくなるのだ。

うさぎのように、わかりやすく恋愛する乙女もいれば
みちるみたいに、とんでもない相手を好きになってしまい、四苦八苦する乙女もいる

恋とは何ぞや

はるかは想いながらも、そんな仲間が傍にいるという平和を愛しく思ってしまう。

「僕なら、部屋でデートをして、そうだなぁ、レイが端っこに座るのなら、そのすぐ横に座るし、泊まっていけばいいと言うし、一緒にお風呂に入ろうって誘うし、なんだったら、キスしたいって言うかな」
「………レイによ?」
「レイだろうと誰だろうと、恋人なんだろ?求めて何が悪い?」
「そうだけど」
「求めを拒否するのなら、レイがみちるを好きじゃないっていう証拠だろ?大丈夫だよ、それはないはずだから」
「そ、それはないかもしれないけれど、それとこれは別って、レイなら言うかもしれないわ。だって、レイよ?」
いや、レイよ?って言われても。
どうしろって言うんだか。

「………キスして欲しいって、はっきり言ってみたら?好きなら、キスして欲しいってねだればいいじゃないか」
「…………適当なことを言ってないでしょうね?」
「レイはみちるが好きだよ。あいつは、みちるが悲しむことは絶対にしない」
レイがみちるを好きだって言うことくらいはわかるけれど、レイが好きな人に対してどういう接し方をするのか、よくわからない部分もある。
まだまだ、初々しい感じなのだろう。
仲間といるときは、絶対にみちるの隣に並ぼうとしないし、視線さえ合わさないようにしている。それはレイだけが意図的にそうしているように思える。付き合うことになったその日から、そうなった。それまでは普通に隣を歩くこともあったのに。照れているだけなのだろうけれど、みちるは少し寂しい瞳でレイを追いかけていることがある。
それを美奈子が慰めたことも聞いている。あれは、好き避けってやつよ、なんて。
とにかくまぁ、メンドクサイ相手なのだ。
「キスして欲しいって……言えばいいのね?」
「……どうしてもしたいのなら、レイからしてもらうのも、一つの方法っていう意味で」
「…………泣かれそうで怖いわ」
「いや、そりゃないだろ?」
「泣かれたら、もう私……」
あいつは、簡単に人に涙を見せる人間じゃない。
人に弱さを見せることも嫌うだろうし、心を許すこともあまりない。限られた仲間だけだろう。
「それでも、レイじゃないとダメなんだろう?」
「だって、仕方ないじゃない」
たとえ1年キスができなくても、みちるはそのことで別れたいなんて思うタイプではないだろう。
「………レイがあんな風だから、余計ダメなのよ」
「傍にいたいって思ってしまうんだ」
「えぇ。ますます好きになってしまうわ」
どっちもお嬢様だし、どっちも変わってる。ある意味でお似合いだ。



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Date:2015/05/05
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