【緋彩の瞳】 Crazy for you ③

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Crazy for you ③

「あの、えっと……これ」
「気を使わなくていいのに」
「でも……」
「これから頻繁に来てってお願いしようと思っているのよ?次からは気を使わないで。お願いだから」
「………わかった」
みちるさんのマンションに来るのは、これで5回目。毎回、お菓子を買って持って行っている。今日はマダム・ジュンコのタルトを買った。一応、部屋にお邪魔するわけだし。毎回、気を使わないでほしいって言われるけれど、今日は何て言うか、呆れた顔をされてしまった。
もう、やめた方がいいかもしれない。
「レイと私は、付き合っているのでしょう?」
「え?……えぇ」
「恋人の家なのだから、もっとその、気を使わないで、気軽な気持ちで来て欲しいの」
「……そうね」
「嫌って言うわけじゃないのよ?ただ、形式的っていうか、他人行儀なことをしないでって言う意味よ」
「………わかった」
頭を撫でてくれて、それだけで背筋に緊張が走る。

やっぱり、馴れない。
この心臓のドキドキする音が、身体中を駆け巡る血液が
レイをおかしくしてしまいそうだ。

抱き付きたい衝動に駆られてしまう

おかしくなってしまいそう

触れてみたいという気持ちが、抑えられなくなりそうで
キスもしたいって思えてきて

美奈が言ってた、絶対キスだけでもしなきゃダメっていう言葉が何度も頭の中でリプレイされていく。



相変わらず、視線を合わせようとしないのは照れているのだろう。それくらいはわかっているつもり。みちるは向かい合わせに座るレイの前に、頑張って作った手料理を並べた。
「美味しそうね」
「口に合うといいんだけど」
小さく見せる笑顔が本当に可愛らしくて、絶対に誰にも見せたくはないって思ってしまう。
だけど、食事を進めていて、レイのフォークがほとんど口元に運ばれていない気がした。
「レイ?」
「ん、何?」
「美味しくなかった?」
「え?美味しいわ」
「……あんまり、進んでないわ」
「え?そう?なんか、お腹……いっぱいっていうか」
そんなに沢山作っていないのに。切り分けてもあんまり口に入っていっていない。
「レイ?具合でも悪いの」
「ううん、全然」
「………無理に食べてとは言わないけれど……」
「だい、大丈夫…美味しい。その、だから、ゆっくり」
緊張させてしまっているのかもしれない。泊まってもらえると嬉しいって言っていて、そのつもりで来てもらえると、意を決して伝えたことが、やっぱりレイには大きなプレッシャーを与えていたのかも。
「残してもいいから」
「…………ごめん、なんか、お腹、いっぱいかも」
やっぱり、キスさえできない関係のレイには、圧力だったかもしれない。
みちるは溜息をついて、自分を罵倒したい気持ちを押し殺して、レイに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



吐きそう。
思いながら、美味しいんだけど、食べている場合じゃないっていう気持ちと戦っていた。何かみちるさんは、うつむいて考え込んでいる。レイが美味しそうに食べてあげないから、落ち込ませているのだろう。本当に、緊張して胃が受け付けてくれないだけなのに。
「…………レイ、無理に食べなくていいの、本当に」
「無理とか、その、してないし」

緊張して、吐きそうっていうだけで。
フォークとナイフを動かそうっていう気持ちはあるけれど、心臓があまりにも血液を全身に勢いよくめぐらせすぎて、指先が震えてきた。
このままだと、お皿をフォークでカタカタと叩いてしまう勢いだ。ゆっくりとフォークとナイフを手放して、落ち着きなさいって自分に何度も言い聞かせた。
「………レイ」
「……………何?」
「私といて、楽しい?」
「…………た、楽しいわ」
心臓に悪いけど、って心で付け足す。
みちるさんをどうして好きなのか、よくわからない。
顔も好きだし、声も好きだし、レイの頭を撫でてくれるような人は、レイに赦しを与えてくれるような人は、みちるさんだけ。
与えられた赦しに、どこまで甘えていいのか、その加減がよくわからない。
「そう?本当に?」
「えぇ」
「…………じゃぁ、私とキスしたいって思う?」


……
………


思うって、声に出せない

みちるさんのことを想っている気持が、どうして声に出せないのか
自分でもわからなくて
息が苦しくなった


「思わないの?」
「…………」

丸いテーブルの上には、冷え始めている美味しい料理

ただ、緊張しているだけなのって
それだけでも言わなきゃって思うのに


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Date:2015/05/05
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