【緋彩の瞳】 ずっと、笑ってて ①

緋彩の瞳

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ずっと、笑ってて ①

セーラーVの絵が描かれてあるお弁当箱の蓋を開けると、色とりどりの野菜、タコのウインナーがとても美味しそう。
「相変わらず、お姉ちゃんの作るお弁当は美味しそうね」
「ちーちゃん、お料理上手なの」
せつな先生が背後からお弁当を覗き込んできて、ちーちゃんをほめてくれたから、レイは顎を上げてそれに答えた。
美奈ちゃんの料理はちーちゃん曰く芸術的で爆発的っていうものだから、キッチンに立ってはいけないらしい。レイは食べたことがないけれど、ちーちゃんが味見をして悲鳴を上げて、その日一日顔色が悪かった。口の中で芸術が爆発して、不味いという言葉さえ出せなかったらしい。
「見てみて~~、セーラーV!」
「私、セーラームーン!」
「私も」
4人グループの班の女の子たちが、何やらお弁当箱をせつな先生に見せつけている。レイはプチトマトを食べながら、レイのセーラーVのお弁当箱も自慢した方がいいのかな、って思ってみたけれど、もうずっとこのセーラーVのお弁当箱を使っているから、珍しいわけじゃない。
「あらあら、可愛いわねぇ」
見てみてとみんなが主張しているのは、どうやら蓋の絵じゃない。お弁当箱の中身だ。レイは他の子たちのお弁当の中身なんて興味ないけれど、セーラーVとかセーラームーンとか、何が入っているのだろうか。
「……あ」
チラリと見えた前の子のお弁当箱には、セーラームーンがいた。いたっていうか、おかずとご飯がセーラームーンに見える。まるで粘土みたいな、なんていうか、とにかくセーラームーンなのはわかる。
その隣の子のお弁当箱には、たぶんカニカマっぽいので赤いリボンみたいなの。セーラーVがいて、海苔で目とかが描かれている。
「………凄い」
思わず呟いた。つい1分くらい前まで、レイのお弁当のおかずが世界で一番おいしいし、せつな先生に自慢できるって思っていたけれど、レイにはまだまだ知らない世界がたくさんあるみたいだ。
みんな、お弁当の中に正義の戦士がいる。




「レイ、お帰り」
TA女学院付属幼稚舎前で待っていると、レイが駆け足で美奈子に向かってきた。相変わらず可愛い妹だ。もう何て言うか、こんなにたくさんの女の子たちがいるけれど、ぶっちぎりでかわいすぎる。
「美奈ちゃん」
「レイ、今日もせつな先生の言うことをちゃんと聞いた?」
「うん」
「よしよし、流石、私の妹」
ハグしてキスして、柔らかくて心地いいほっぺにすりすりしたいのを我慢する。差し出してきた小さな手を握りしめて、妹の歩幅に合わせてゆっくりと歩いた。
「美奈ちゃん、今日のお弁当にしいたけ入ってたね」
「……まったく、そうなのよ」
「ちゃんと食べた?」
「仕方ないでしょう?」
「美奈ちゃんがテスト隠してるせいじゃない?」
「大人には色々と都合があんのよ」
「美奈ちゃんは、大人じゃないって、自分でいつも言ってるのに」
「……この、愁いを帯びた高校生の大事な時期はね、大人でもあり子供でもあり少女でもあり、とても複雑な青春時代なわけよ」
じっと見上げてくる純粋無垢な瞳の光が、時々痛いって思う。
「今のは、難しい言葉を並べただけ?」
おねぇがいつも、美奈子に向かって言うセリフ。“知ってる難しい言葉を取りあえず並べたところで、お姉ちゃんには無駄な攻撃よって”。
最近、妹が下から突き上げてくるのが悩み。

10歳以上離れてるのにさ。
まったく。

「あ、セーラーV!」
「ん~、私に何かようかい?」
レイはセーラーVが好きだ。他の同年代の子たちよりもおとなしくて、元気に公園に行って走り回って欲しいけれど、そう言うことをしたがらない。ただ、唯一、無邪気になるのがセーラーVなのだ。
「美奈ちゃんじゃないもん。美奈ちゃんがリボン真似てるだけだもん」
「へいへい、そうですよ~そうですよ~」
本屋の前に張られてある少し古いポスターに、セーラーVの絵が写っている。もちろん、変身しているときに写真を撮られたものなんかじゃないから、微妙に違うんだけど。
「かっこいい~」
「ははは照れちゃう」
「………」
「何よその目」
「ううん……」
本物だって知ったら、レイは喜ぶのだろうか。それとも夢が壊れたって泣いてしまうのだろうか。
いや、夢が壊れるって。自分で思いながら自分で突っ込んでみる。
「今日、みんなのお弁当の中にね、セーラーVとかセーラームーンがいた」
「お弁当の中?お弁当箱じゃないの?」
「ううん。えっと、海苔とかで顔が描いていたの」
「あぁ、キャラ弁」
今、幼稚園とか小学校のお弁当で、キャラ弁を持ってくる子が多いって言うのを、どこかしらから情報をもらった覚えがある。世のお母さんたちが、必死になって早朝からキャラ弁を作って、そんな暇のない親が、キャラ弁禁止を幼稚園に訴えたとかなんとか。
「キャラ弁?」
「うん、まぁ、キャラ弁ってやつよ」
美奈子はレイの手を引いたまま、取りあえず本屋の中に入った。お母さん世代が読みそうな雑誌コーナーに行って、お弁当のおかず情報みたいなものを手にしてパラパラめくると、出てくる出てくる。
「こういうのでしょ?」
「うん!これ!セーラーV!」
「………だね」
そして雑誌を買うこともなく、また手を引いて店を出た。あんなに手の込んだものを、朝早く起きておねぇが作るっていうのは、ちょっとどうだろう。
ただでさえ忙しいのに。レイのお弁当は週に3回で、その曜日には出来る限り早朝の仕事を入れないようにしているみたいだけど、美奈子とレイのお弁当と朝食、仕事が遅くなるときは、夕食の支度をしてから出て行くのだ。完璧主義なところがあって、朝昼晩のメニューは同じものがない。同じ食材を使っていても、同じおかずは絶対に並ばない。
「レイ、お姉ちゃんがクレーンゲームで新しく出たセーラーVのキーホルダー取ってあげる」
「………うん!」
妹は空気を読む上手さがある。美奈子が作って欲しいか?って聞かないことを、作れないと解釈したみたいで、物欲しそうな瞳は“我慢色”に変わった。
母親と父親がいないことで、レイを悲しませたり、苦しめたり、我慢させたりすることがないようにって、おねぇはいつもそう思っている。
美奈子もそう思う。
心からそう思う。


だけど、美奈子にとっておねぇはレイと等しく愛しい人。親がいないことで背負う重荷は出来る限り軽い方がいいって思う。おねぇはきっと、意地になってキャラ弁を作るだろう。熱心に雑誌を読んで研究する姿なんて簡単に想像できる。寝不足になるのも目に見える。
「遊んだら、買い物して帰ろう。特別にセーラーVの飴も買ってあげる」
「うん!」
朝、渡されたおねぇからの買い物リストは、ポケットの中。おつりの一部は美奈子のものだ。まぁ、レイのために使っちゃうんだろう。
キーホルダーを幼稚園の鞄に取りつけて、スキップする妹の気遣いが可愛らしくて申し訳なくて。

どっちも大事って、困ったものなんだから。





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Date:2015/05/06
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