【緋彩の瞳】 ずっと、笑ってて ③

緋彩の瞳

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ずっと、笑ってて ③

「ちーちゃん!」
相変わらず、本当に可愛い妹が手を振りながらかけてくる。昼間に買ったキャラ弁の本は、かなりみちるにダメージを与えて、しばらく憂鬱だった。
「お帰りなさい、レイ」
「ちーちゃん、ケーキ!」
「はいはい。お弁当、美味しかった?」
「うん。インゲン食べたよ」
「そう?レイは好き嫌いの少ないいい子ね」
「うん」
手を繋ぎたがるレイから、軽くなったお弁当箱を受け取る。美奈子が買ってきたセーラーVのお弁当箱だ。子供が喜ぶものを持たせてあげなって、美奈子が色々買ってきてくれる。そのあたりに疎いみちるは、美奈子に言われたとおりにしている。レイにキャラ弁を作って欲しいか聞こうかと悩んだけれど、まず美奈子に聞いてみなければ。
「ショートケーキ!」
クラウンに入って、ケーキセットを1つとレイはオレンジジュース。大きな苺と半分くらいをレイが食べて、みちるはその残りを食べた。美奈子の追試が終わるのを待っている。
「今日は、幼稚園で何をしたの?」
「折り紙と、紙芝居読んでもらって、鉄棒もしたよ」
「そう」
「前にくるって回ったの」
「上手にできた?」
「うん」
運動神経は美奈子ほど天才的ではない。それでも、おとなしい割には何でもできる方だろう。水泳だけはどうしてもできなくて、水を見た瞬間に泣きだして、入れたら真っ逆さまに沈んでいっちゃうから、夏の海には連れていけないまま。
「可愛いんだから」
真っ直ぐな髪を撫でて、子供らしいあどけない笑顔のその柔らかい頬を指先でつつく。まだまだ子供でいて、甘えんぼでいて、出来ればもっと、我儘になってくれてもいい。
「あ、美奈ちゃん」
「やほ~い。追試終わったよ!さて、ゲーセンで遊ぼうか!」
こっちはもっと、賢くいてもらいたい。



公園で遊ばせた美奈子とレイは、汗と泥にまみれて帰ってきた。お風呂に入れて三人で夕食を囲み、レイが先に眠るのを待って、美奈子に話があるとソファーに座らせる。
「何?」
「美奈子、幼稚園でキャラ弁って流行っているらいしの、知ってる?」
「……あぁ、キャラ弁ね」
「知ってるの?」
「実物見たことないけど、レイの周りで持ってきている子がいるみたいね」
「レイから聞いたの?」
「うん」
みちるはキャラ弁特集の本を美奈子に見せた。受け取ってパラパラめくった美奈子は“へぇ~”って呟いている。
「おねぇ、作るつもりでいるわけ?」
「………レイは欲しそうにしていたのでしょう?」
「うーん、さぁね。食べたいなんて、一言も言ってなかったけど。持ってきている子がいた、って言う話しを聞いただけよ」
「言えないだけでしょう?」
「そうかもね。悪いけど、私はこれを作ることを勧めない」
美奈子は本を投げるようにテーブルに置いた。みちるはこれなら作れるかもっていうものをある程度ピックアップしてブックイヤーを付けていた。
「どうして?」
「無理よ、こんなの。暇な専業主婦ならともかくさ、おねぇはママじゃないんだから。そりゃ、年に数回くらいは作ってあげてもいいって思うけど、毎回作るなんて。そんなことに時間取られるなら、寝てた方がいいって」
確かに、用意するために色々グッズをそろえる必要もありそうだし、それらを駆使したところで、いつもの2倍以上の時間はかかるだろう。日付を跨いで帰ってくることはそれほど多くはないけれど、それでも寝る時間は日付を大分超えてからのことは割と多い。
「……レイ、最近お弁当を隠すようにしているみたい」
「せつな先生がそう言ってたの?」
「えぇ。周りの子がキャラ弁を持ってきているから、見せたくないのかもしれないって」
「だからってさ。レイはおねぇが作れないことの理由は、ちゃんとわかってるはずよ。いいんだって、それで。おねぇがムキになって作っても、レイは無理をさせたって思うだけよ」
まだ、作ってもいないのに作れないなんて思われたくもない。
「美奈子、レイに何かそういうことを言ったの?」
「何も。ただ、作ってもらえばいいとは言わなかった。あの子はあの子なりに、無理なことは無理なのだと、わかっただけよ」
母親になれない。あの子の母親ではないけれど、あの子がそのことで何かを我慢しなければならないのは、可愛そうでならない。
「………また、レイに我慢させるの?」
「作らない親だって沢山いるんだから、特別なことではないわよ」
「でも」
早く起きて作れないわけじゃない。そう言おうとしたら、さえぎられた。
「おねぇのお弁当、レイは美味しいって食べてるんだから。完璧なママを演じる必要なんてないわよ。おねぇは今のままで十分、レイに愛を注いでる。レイだって言っていい我儘とダメな我儘くらいわかってるんだから。知らないフリしてたらいいの。お弁当のことでからかわれたりいじめられたりしたとしても、それくらいで私たちの妹はメソメソ泣くような子じゃないでしょ?もし、仮にいじめられたって、レイはそのことで悲しむ子じゃないわよ。無視すると思う」
いじめられるほどのことは何もないって、せつな先生は教えてくれている。レイは何となく気まずいだけで、お弁当を隠しているのかもしれない。どういう気持ちなのかは、ちゃんと聞いてあげないと分からない。
でも、知らないフリをした方がいいという美奈子の考えも、わかってあげたい。
美奈子はみちるのことも気にかけてくれているのだろう。無理をさせたくないっていう気持ちが伝わってくる。
「………わかったわ。少し様子を見ることにするわ」
「うん。せつな先生からは、私も話を聞いておく」
美奈子はみちるに抱き付いてきて、それから頬にキスをくれた。
「ところで、おねぇ」
「なぁに?」
甘えん坊の声は、何かを企んでいるようにも見える。でも甘えてくる美奈子は、それはそれで可愛らしい。
「そろそろ、椎茸大量のお弁当、やめない?」
「追試の点数がよかったらね」
「………ちっ」
「ほっぺにキスくらいで、お姉ちゃんが許すだなんて甘いわよ」
「……あ~ぁ」
抱き付いてくる美奈子は、みちるの膝に頭を乗せて猫のように甘えてきた。



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Date:2015/05/06
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