【緋彩の瞳】 ずっと、笑ってて END

緋彩の瞳

その他・小説

ずっと、笑ってて END

「引退してしばらく、これ着てなかったからな。何となく、キツイわ」
「美奈P、ウエストギリギリに見えるよ?」
「うさぎちゃんだって、脇腹の贅肉やばいんじゃない?」
レイに刃物を向けるだなんて。殺したくなるのを我慢して、ボコボコにぶん殴って蹴ってズタボロにしたあと、若木刑事に差し出した。
何か、嫌な気配がしてすぐに学校を抜け出したけれど、レイがセーラーVって叫ぶものだから、思わず変身してしまったのだ。
生身の美奈子でも、余裕で勝てただろう。
気が付かれていなかったか、ちょっと心配。
でもあの、尊敬した妹の眼差しといったら。ちょっと心地よかった。
「セーラーV!」
変身を解いて、さっさと退散しようかと思っていたら、安全な場所へ逃がしたはずのレイが満面の笑みでこっちに向かって走ってきている。
「……こ、こらこら。みんなの傍にいないとダメよ」
と言いながらも、まんざらじゃない。めちゃくちゃ可愛い妹の、こんなうれしそうな顔。あぁ食べちゃいたいくらい。
「ありがとう。あのね、お礼を言いに来たの」
「そう?レイちゃん、泣かなかったわね、えらかったわ」
「泣かないよ?怖くなかったから」
「そっか。えらいね。お姉さんたちの言うことを聞いて、これからもずっとセーラーVのことを応援してね」
「……レイにお姉ちゃんがいること、知ってるの?それにレイの名前もどうして知ってるの?」
あぁ、つい余計なことを。セーラームーンが脇腹をつついてくる。しらないよ、って。
「もちろん。いつも、レイちゃんが応援してくれていることだって、ちゃんと知っているわ。お弁当箱もセーラーVでしょ?」
「うん!」
「よしよし。みんなにセーラーVとセーラームーンに会ったこと、沢山自慢して」
「……言わないよ?お姉ちゃんたちには言うけど」
「え?そうなの?」
「うん、他のみんなには秘密にするの~!」
まぁ、言いふらすような子でもないだろうけれど。せっかく活躍したのにな。
「そっか。じゃぁ、これあげる」
ポケットから小さなセーラーVの人形を取り出して、妹の手のひらに置いた。
「いいの?」
「えぇ。いつでも、レイちゃんがお姉ちゃんたちと幸せに暮らせるように、祈ってるからね」
「ありがとう、セーラーV」
まったく私ってばカッコいいんだから。
「じゃぁね!」
美奈子は満面の笑みに見送られて、セーラームーンと足早に学校へと戻ることにした。



「レイ!」
「ちーちゃん!」
事件に巻き込まれたなんて聞いて、みちるは仕事場から飛ぶように幼稚園に向かった。
「レイ!よかった。何もなかった?」
抱きしめたレイは、怖がっているどころか、凄く嬉しそうな顔。
「全然。あのね、あのね、セーラーVがレイを助けてくれたの!包丁持った人から、レイを助けてくれたんだよ!!!!」
「え?……セーラーV?」
「うん。ブーメランで包丁を落として、ボコボコにしたんだよ!」
「………よくわからないけれど、レイが無事ならいいわ」
「うん!これ、セーラーVがくれた」
レイの鞄には、美奈子があげた缶バッチやキーホルダーが付いていて、新しく、小さな人形がぶら下がっている。
「……そう」


あの子は、………まったく



「美奈ちゃん、美奈ちゃん!あのね、今日ね、セーラーVに会ったんだ~」
「あんた、なんか事件に巻き込まれたって聞いたわよ?何があったの?」
「知らない人が包丁持って追いかけてきて、捕まったの」
「お~こわ!それでそれで?」
「だから、セーラーVがね、レイを助けてくれたの?」
「嘘だぁ~。セーラーVって本当にいるの?」
「いたよ?小さなお人形をくれたの」
「ふーん。どれどれ?」
ここ最近で一番うれしそうな顔をして、レイは美奈子に鞄につけた人形を見せているに違いないわ。みちるは料理をしながらその様子を耳だけで確認していた。
「わぁ、これ本当にセーラーVがくれたんだ」
「うん。大切にするの~」
「そっかそっか。レイは凄いものを手に入れちゃったんだね」
「セーラームーンにも会ったよ。本物に会ったのは、亜美ちゃんとレイだけなんだよ!」
ご飯の時も、レイはずっとセーラーVがかっこよかったって、何度も何度もみちると美奈子に教えてくれた。美奈子はヘラヘラ嬉しそうに笑っている。
「妹を助けてくれたのだから、私もお礼をしたいわ」
「いや~、いらないんじゃない?正義の戦士なんだからさ」
「……そう?それもそうね」
明日から椎茸の刑は免除してあげないと。






「最近、毎日すごく楽しそう。お弁当の時も隠したりせずに堂々としていますよ。前とずいぶん様子が変わりました」
「あぁ、そうですか」
美奈子ったら、レイの頭の中からすっかりキャラ弁のことを忘れさせてしまったみたい。みちるはせつな先生の話を聞きながら、悩んだ日々が馬鹿馬鹿しく思えてため息を漏らした。
「あんな事件に巻き込まれて、ショックを受けたりしていないかって心配だったんですけれど。レイちゃん、セーラーVに助けられたことが、とてもうれしかったみたいね」
「そうみたいですね。本人は包丁で襲われたことより、ずっとセーラーVと会ったことが記憶に残っているみたいで、毎日ご機嫌です」
「でも、全然ほかの子たちに、会ったことはお話ししていないみたいね。レイちゃんらしいっていうか」
「秘密らしいですよ。ちょっとした優越感なのでしょう」
「元気で子供らしくて、安心です」
「……そうですね」
頭の中ではキャラ弁を持ってきている子たちより、本物に会ったことのあるレイの方がずっといいって、そう言う風に考えているのだろう。

レイが事件に巻き込まれたのは本当に偶然だったけれど
美奈子が
いや、セーラーVがレイを助けてくれたおかげで
レイとみちるのキャラ弁の悩みもいつの間にか消えていた。


「美奈ちゃん」
「お、妹よ。お帰り」
「ちーちゃんと一緒にクッキー焼くの」
「そっかそっか。お姉ちゃんに食べさせて」
「いいよ~。手伝わないでね」
「………可愛くないわ」
手を洗ってくると言ったレイが廊下をパタパタ走っていく。みちるは鼻歌を歌っている美奈子の首根っこを摑まえて、首を軽く締めた。
「ぐぇ、な…何よ、おねぇ」
「よかったわねぇ、セーラーV。正義のヒロインったら、ずいぶんと好かれてしまって」
「な、なんのことかな~~」
乾いた笑い声。
この子は数年前によく、夜中にいなくなっては怪我をして帰って来ていた。
心配で心配で、でも、聞けずにいた。静観することしかできなかった。
「……あんまり危ないことに首を突っ込まないで、おとなしくしていて欲しいのよ、私としては。レイを救ってくれたのはありがたいけれど、もう、ずっと引退したままでいて頂戴」
レイのことを助けてくれたことは、本当に感謝している。それでも、美奈子が危険なことに首を突っ込むことは、嫌な気持ちにもなる。誰も失いたくはないし、怪我をさせたくもない。
「ハハハハハ……な……なな、なんのことでせぅ?」
「まぁ、いいわ。あんなにうれしそうな顔にさせて。レイには是非、秘密のままにしておいて頂戴。ばれたら、あの子、ショックで寝込んでしまうわ」
「……椎茸入れないでいてくれたら、その約束は守る」
「入れてないでしょう?」
「ずっと入れないでくれたらね」
「次のテストの点数次第よ」
頬にキスをして解放すると、可愛くないふて腐れた顔。
「……いつから知ってたのよ?」
「現役時代から知ってたわよ」
「……そっか……いつも、心配してたもんね」
レイが廊下を走って戻ってくる。
「ちーちゃん、クッキー」
「はいはい。じゃぁ、エプロン付けて」
「うん。美味しく出来たら、明日亜美ちゃんにもあげる」
「じゃぁ、頑張らないとね」
美奈子はいつも、知らない間にいろんな問題をさらっと解決してしまう。
レイにとって憧れのヒロインは、みちるにとっては愛しい妹の美奈子。
みちるとレイの悩みを知らない間に消してしまって、本人はそのことに気が付いてさえいない。
いつも、みちるを困らせて、悩ませて、それでも、沢山の愛をくれる、我が家の正義のヒロイン。




3姉妹、好きですか?
関連記事

*    *    *

Information

Date:2015/05/06
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/549-414b7380
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)