【緋彩の瞳】 tender ⑪

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

tender ⑪


「ネプチューン、ウラヌス」
マーキュリーとジュピターを連れてマゼランへと向かうと、その扉の前には月の王国から戻って来たネプチューンとウラヌスが来ていた。
「クイーン・セレニティには現状を伝えました。マーズ様に全て一任されるそうです。軍事介入も状況に応じてやむなし、と」
「そう。ありがとう、ネプチューン。みんな下がって。扉を焼き切るわ」
焔の剣。星を焼き尽くすことができる軍神セーラーマーズに与えられた剣。
振りかざせば周囲の空気を全て熱に変え、灰すら残さない。
部下たちは10メートル以上下がり、身を低くした。
「……開いた」

ゴト、という音とともに焼き切った扉は焦げた匂いを漂わせながら、ゆっくりと倒れて行く。
「……嫌な気配がするわ」
まるで腐敗臭のような気持ちの悪い匂いがマーズの五感を刺激した。第六感が痛みに近い警鐘を心に鳴らしている。
「ジュピター、ウラヌス、ネプチューン。この気配、何かよからぬものがいるわ。こちらに攻撃をするものが現れたら、相手がマゼランの民であっても構わない。武器の使用を認めるわ」
「わかりました。相手が仕掛けてきた時点で防御の体勢を取ります」
ジュピターは頷いて、ウラヌスとネプチューンと並び、先に進みだした。
「マーキュリー、ヴィーナスの居場所を探して」
光に満ち溢れていたはずのマゼランは、冷たく、まるで夜のような薄暗さだ。まっすぐに伸びた宮殿へと続く道は七色のプリズムがまぶしくて、ただ、そこに立つだけで目がくらむほどだったのに。
息苦しいほどの愛に満ちた王国であるべき場所だった。今は邪悪な闇が支配している。
「……ヴィーナス」
「マーズ様、きっとヴィーナスは無事でいてくれるはずです」
ゆっくりと歩みを進めながら、隣で端末機を操作していたマーキュリーが励ますように声をかけてくれる。
「そうね。本当……この国に干渉したくはなかったわ」
「マーズの憧れだから、ですか?」
「憧れ?そうね、希望であり、理想でもあるわ」
「要するに、一目惚れでしょう?」
マーキュリーはさらりと真顔でいうから。一瞬歩みを止めようとしたけれど、確か彼女にはばれていたのだと思いだして、苦笑いして見せた。
「……初めて会った時、そう言えばあなたも一緒だったものね」
マーキュリーを連れてマゼランに来た時、あまりの眩しさに眩暈を起こしたことを今も覚えている。鮮烈な光の女神が現れて、そのまま死ぬのではないかとさえ感じた。
「ヴィーナスに何かあった場合、非情な行動を取れますか?」
「殺しはしないわ。独立国のプリンセスを殺すなんて、考えられない。月だってそんなことになれば、私をよくは思わないでしょう」
「ですが……この状況、ヴィーナスが何食わぬ顔でいつも通りの笑顔で現れるような可能性など、ありもしないこと」
「すでに死んでいないだけ、マシだわ。生きている気配は感じられるもの」
マーキュリーの手の中にある端末機が音を鳴らした。
「宮殿の中ですね。玉座の間に」
「待っているというわけ、ね」
マーズとマーキュリーがゆっくりと歩みを進める前で、ジュピターたちをマゼランの兵士たちが襲いかかってきている。2人は平然とまっすぐ歩みを続けた。攻撃も防御もすべて3人が行い、安全を確保してくれている。
「ベリルはメタリアとかいうものを信仰していたわ。あれは魔術なの?その影響を受けているのかしら」
「“あれ”について調べたのですが、やはり地球国の石ではありません。周期的に訪れる太陽の異常な活動をうまく利用して、魔術で何かを呼び寄せた可能性はありますが……」
「つまりは、わからないわけね」
太陽なしでは生きていけない地球は、その全てに影響を受けやすい。その太陽がときどき異常な活動をすることはあるが、それは誰にもどうすることもできない自然現象の一つ。取り立てて何か災いが起こるものではないはず。
ベリルの魔術のせいなのか、それともベリルが何かに操られているのか。
「……ヴィーナスを利用する価値ってなんでしょうか。月と交流の深い彼女を利用して、最終的には月を支配すること?」
「その可能性はあるかもしれないわね。標的はきっと月でしょう。彼女は手段として利用されているのでしょう」
息も切らすことなく、淡々と兵士を倒していったウラヌスたちが、玉座の間の扉の前で立ち止まる。目で合図をすると、マーズはアレスの剣を鞘から引き抜いた。
殺すつもりはさらさらないが、彼女が1人だけでいるとも限らない。
ジュピターとウラヌスが左右に開いた扉。ネプチューンとマーキュリーがマーズをややかばうように立ち並ぶ合間から、溢れんばかりにあるはずの光はやってはこない。
「……呪いでも掛けられたか、ヴィーナス」
マーズより先にウラヌスが歩みを進める。彼女の肩越しに見えるヴィーナスは光ではなく闇を抱えているようだった。ぞくりと身震いするほど、それは今までに戦ってきた悪とはまた異質のものだ。
『……勢ぞろいか』
「ヴィーナス、貴様!ベリルには気をつけろという忠告を忘れたのか」
怒りをあらわに歩み寄るウラヌス。マーズは足をとめた。美しかった彼女の瞳が黒い光を放っている。チョーカーの宝石と同じ色だ。

やはり、あのチョーカー。今でははっきりと邪悪な気配を感じ取ることができる。
あの、メタリアとかいうものと同じ感覚。

『ふんっ!マーズの使いっパシリのくせに。剣しか能力がない割には、マーズにあっさり星をうばわれおったウラヌスが、何を偉そうに』
「……ヴィーナスの口調とは違うな。ベリルめ」
ウラヌスは剣をしまい、ヴィーナスに近づいて行った。玉座に足を組んで腰をおろしているヴィーナスは、立ち上がるそぶりも見せない。
「ウラヌス、触れてはだめよ」
マーキュリーが声をかけた。それに反応したウラヌスが振りかえった瞬間、ヴィーナスが片手をあげて何か攻撃をしようとしてくるのが目に入る。
「ウラヌス!」
ネプチューンが声を上げるより早く、マーズがウラヌスを押しのけて剣を立てた。
どす黒く強い波動が剣にさえぎられて四方へと飛び散り、建物を破壊させてゆく。
『マーズ。手出しせぬはずではないのか?』
チョーカーはまるで首輪のように、綺麗なその肌に不釣り合いな黒い光を放っている。
これを引きちぎらなければ、まともには戻りそうにない。
「私の大切な部下に手を出したのだから、仕方がないでしょう。ヴィーナス、ベリルに何をされたの?そのチョーカーはベリルにもらったの?」
ヴィーナスは無言で片腕をあげ、なおも攻撃を仕掛けてくる。わずか数メートルの距離から仕掛けられても、マーズの剣に全てを阻まれていく。
大理石で作られた玉座の間が嘆くように揺れた。
「ヴィーナス。私はあなたを殺すつもりはないわ。話を聞かせて」
一歩踏み出すと、マーキュリーが背後からストップをかけた。
「マーズ様。あのチョーカーとベリルの持っていた黒い水晶は全く同じ物質です」
「……わかったわ。はずせばいいの?」
「触れることは危険です。ヴィーナスと同じ目にあうとも限りません」
「かといって、チョーカーだけを切り落とせなんて」

だから、首に巻きつけたのか。
思ったが口に出さなかった。
ベリルはヴィーナスが殺されてもいいと思っていたのだろう。
そして、引きはがそうとした人間を今度は獲物にする。
最初からマーズにそうさせるつもりだったのではないだろうか。
それともマーズを殺させたかったのか。あるいは、マーズの部下たちを巻き込みたかったのか。
ベリル本人に聞かなければ、真意などわからないだろう。
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Date:2013/12/06
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