【緋彩の瞳】 ただ、笑顔をみたいから ①

緋彩の瞳

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美奈子×レイ小説

ただ、笑顔をみたいから ①

日曜日空いている?って、電話が入った。
顔を見ていないけれど、美奈の声がイキイキしている。
空いてるって言ったら、待ち合わせ場所と時間を一方的に言われて、すぐに切られた。

何か、どこか面白い場所でも見つけたみたい。



「……どこ行くつもりなの?」
「美味しいパンケーキのお店がオープンしたの!それでさ、オープン記念の限定ってやつが、すっごく美味しいってテレビでやってて。一緒に食べたいって思って」
待ち合わせ場所が駅前だったから、電車にでも乗るのかなって思っていたけれど、電車を乗り継いで乗り継いで、30分くらいかかるところに行くつもりらしい。目的地の駅の名前を聞いて、レイの少ない知識でも、取りあえずちょっと遠いって言うことはわかる。
「あの……」
「ちょっと並ぶらしいけど、きっと美味しいよ!レイちゃん、パンケーキなら好きでしょ?」
「……えぇ」
美奈に、パンケーキが好きだっていうセリフを言ったことなんてあったかどうか。
無いと思うけれど、クラウンでみんなとお茶をする時に、何度か食べたことはある。


覚えていてくれたということだろうか。
美奈が食べたいだけかもしれないけれど。

「行こう」
腕に絡みついた美奈と地下鉄へと続く階段を下りて、比較的空いている車両に乗った。薄暗くて重たい空気が身体を包み、澱んだ空気を肺に入れて、毎日この電車を出勤に使う人たちが気の毒に思えてくる。余計なお世話なのだろうけれど。
美奈は本当に機嫌がいいみたいで、うさぎたちと同じ学校のいろんなことを話してくる。数学で赤点を取ったら、うさぎと同じ点数だったとか、亜美ちゃんにこってり怒られたとか。まこちゃんのお弁当を毎日つまみ食いしていたら、大きなボックスで持ってきてくれたことがあるとか。はるかさんとみちるさんが学校の中で大人気らしく、2人を盗撮する人が沢山いるみたいだから、プライベート写真を売ってお小遣い稼ごうかな、とか。
美奈の声が良く通るから、相槌を打って聞いていることで、電車が止まるたびに人が出入りする流れから嫌な気分を逃すことができて、ちょっとだけホッとする。
乗り換えに階段を上がり、矢印の案内に沿って歩く。美奈が腕を絡ませてくるけれど、今のレイにはむしろそうしておいてくれないと、1人でこの人混みを歩く気力がない。
「よし、この駅だよ」
地下鉄から地上を走る電車に乗りついで、ようやく降り立った駅までずっと立っていたレイは、すでに意識が朦朧としていた。いいのか悪いのか倒れたくても乗り換えた電車がかなり混雑していて四方を人に囲まれているため、動けなくて。美奈が身体を抱きしめるような恰好で”痴漢防止策“を取っていたから、気絶せずにいられた。
「何、この駅の近くでイベントでもあるの?」
改札を出るまでにも一苦労。人が多くてなかなか前へと進みそうにない。駅前で待ち合わせをしているような人がうじゃうじゃと視界に入りこんでくる。
「いや、この駅っていつもこうじゃないの?」
「………そう」
身動きできない電車よりは外の方がマシだけど。両耳に流れ込んでくる足音と人の声、いろんなお店から漏れているBGM、通りを走る車の音、人なのか人じゃないのかわからない声が聞こえているような気もするような、しないような。
「美奈、お店どこ?」
取りあえず、ゆっくりと飲み物を飲んで落ち着きたい。お店に入ってしまえばこの気持ち悪さから逃れることができる。
「こっち」
人混みは美奈のせいじゃないから、あまり不機嫌な顔や態度を取ると、困らせるに違いない。だけど、1人では歩けそうにない。肩がぶつかることを避けるように歩くと、視界が揺れて嫌になるくらい沢山の人の顔が一斉に飛び込んできてしまう。
俯いて、美奈が絡めてくる腕に身体を寄せた。
「……私、場所わかってないから、はぐれないでね」
「あったりまえよ」
それとなく左側通行みたいになっているけれど、時々それを無視している人もいて。いっそ目を閉じたままでいたいけれど、危険すぎるし。

ここを乗り越えたら、お店に行けるはずだから。

言い聞かせてずっと、歩いても歩いても、人の気配が身体からなくなりそうにない。


「わぁ、やっぱ行列だね」
「……………」
心の中で、パンケーキくらいでって呟きながら、同世代や大人の女の人たちがずらりと列をなしている景色に、生唾を飲み込んだ。
「……何時間くらい?」
「うーん、待ってて。前の方を見てくるわ」
1人にしないでよ、って言いたいけれど、並んでおいてと言われて置いて行かれた。耳を塞いで目を閉じてうずくまりたい気持ちを逃がそうと、空を見上げる。


何とか青い……と思う。


「1時間は待つみたい」
「………そう」
美奈が食べたいって言ってここまで来たのだから、やめましょうって言うことなんて、もちろんできない。レイは通りを歩く人たちに背を向けるようにして並んだ。
「どうしたの?」
「ん?」
「……並ぶの、やっぱり嫌だよね?」
「並ぶのが好きって言う人はいないでしょう?そうじゃないわよ、人が多いでしょ?歩いている人を見ていたって仕方ないもの」
「それもそうだよね。レイちゃんあんまり人混み得意そうじゃないしね」
お店の真っ白い壁を見ている方が、ずっといいに決まっている。ほとんど動かない状態でも、レイは美奈の絡ませる腕をいつもみたいに、離れろって押し返すことをしなかった。




正直、これだけ並んでいたら帰りたいとか、別の場所にしてなんていうクレームが来るかなって思った。人混みに背を向けて、いつもみたいに”離れなさいよ、鬱陶しい“って言ってこないレイちゃんの眉間のしわが、なんだか我慢しているようにも見える。
でも、きっとここまで来たんだから、仕方ないって思ってくれているんだろう。
「ラズベリーとマンゴーと、パイナップルと。どれが美味しいと思う?」
「3つ頼むの?」
「いや、流石に無理だよ。でも、レイちゃんと違うものを頼んで、分け合おう」
「じゃぁ、美奈が2つ決めたら?」
「いいの?」
「別に、いいわよ」
真っ白い壁を睨み付けているような、でも力無いような気配もしないような。まぁ、いいや。嫌なら嫌って言うだろうし、レイちゃんが嫌って言うのなら、我慢させてまでパンケーキを食べたいわけじゃない。ただ、デートしたかっただけだし。そりゃ、話題のお店に2人で行くって言うことは凄く嬉しいし、幸せなことだけど。

「ふぅ、やっとだ」
1時間以上並んで、やっとお店の中に入った。レイちゃんを奥のソファーに座らせようとしたら、あなたがそっちに座ってと断られる。お姫様を椅子に座らせるってと思ったけれど、ぐったり椅子に腰を下ろしたレイちゃんは俯いてため息を漏らしている。
疲れさせているみたいだ。お腹もすかせているだろうし。
「ラズベリーとパイナップルにしてもいい?」
「えぇ。あと、私はダージリン」
「うん」
運ばれた水を一気に半分以上飲んだレイちゃん。店内のBGMがハワイアンちっくで、女の子たちがワイワイと美味しい美味しいって話しているのが聞こえてくる。
「すごいね、満員行列」
「そうね。よかったわね、美奈。来たかったんでしょ?」
「うん!」
レイちゃんが少しだけ笑ってくれる。
ホッとした。
美奈子に合わせてくれたんだっていうことは、わかる。
アイドルのコンサートになんて流石に断られることはわかっているから、誘わないようにしている。パンケーキって言ったときに不思議そうな顔をしていたけれど、嫌って言わなかったし、地下鉄乗る時も嫌だって言ってこなかったし。
「わぁ、おいしそう!明日、うさぎちゃんに自慢するんだ!」
甘い匂いと、見ただけで絶対に美味しいに違いないふんわりしたパンケーキが二つ並ぶ。美奈子は両手にフォークとナイフを持って、大きく大きく切って口に入れた。
「わ!おいし!」
「よかったわね」
「レイちゃんは?美味しい?」
「えぇ、美味しい」
小さく切ったものを口に運んで、レイちゃんも笑う。
「美奈、これ半分もらって」
「うん、レイちゃんもこれ、半分」
「いえ、半分もいらないから。一口もらえばいいから」
「え?でもさ」
「いいのよ。来たかったのでしょう?限定って言ってたんだから。私、そんなにお腹空いてないし、食べたらいいから」
「……そう?」
レイちゃんがゆっくりと半分のパンケーキを食べて、美奈子は1つと半分を食べた。美味しいし、幸せだし、レイちゃんと一緒にいるっていうことが何て言うか、心地よくて。
紅茶を飲みながら、レイちゃんがじっと美奈子を見つめてくる。
「あんたって、本当に美味しそうに食べるわよね」
「美味しいもん」
「幸せそうな顔よね」
レイちゃんは、美奈子が食べている顔を見るのが、たぶん好きなのだと思う。
自惚れかもしれないけれど。
「レイちゃんがいるからだよ」
「………言って、恥ずかしくない?」
「全然?」
言われた方が恥ずかしそうで、その赤い顔は見ていてかわいいって思うわよ。

って声に出したら、ふて腐れるから。
それは、今はもったいない。
ふて腐れた顔はいつでも見られるから、今はデートしているっていう空間を楽しみたい。




外が行列なのだから、時間は1時間と決められてしまっていた。レイは視界に美奈しか入らないように椅子に腰を下ろして、ニコニコと笑うその顔を見てため息を吐く。帰るために必要な体力を1時間で戻せるかしら、って思ってみたけれど、うるさいBGMと女の子たちのざわめき。外のように流れる人の感情と声とよくわからない渦の中にいるよりはずっとマシだけど、それでも清々しい心地よさって言うのではない。
救いと言えば、美奈が目の前で笑っていることくらい。
「せっかくここまで来たし、どこかお店とか見て回る?」
「……ううん、いい」
「まぁ、レイちゃんがこんなところで服買うわけないか」
「別に、今は欲しくないのよ」
「そう?」
「………麻布の方まで戻らない?公園でゆっくりしましょう」
「うん!」
レイは2人分の代金を払って、相変わらず行列を作っているその人の間を縫うようにして店を出た。


午後の爽やかないい天気。
人と音さえなければ、あと街中でなければ、とてもいい休日。


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Date:2015/05/10
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