【緋彩の瞳】 いつかの空は

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

いつかの空は



「マーズ」
「………ん、なぁに?」
「探したわよ。こんなところで何をしているの?」
「こんなところって、ここは私の部屋のバルコニーよ。自分の部屋にいただけじゃない?」
「そうだけど」
部屋に行っても気配がないから。違う場所にいるのではないかと、あちこちウロウロしたのだ。どこにもいなくて、取りあえず部屋で待っていようって思って、一服するために出たバルコニーにヴィーナスの探し人がいるなんて。
「何となくね、空を見上げて時間を潰していたのよ」
「………珍しい彗星でも?」
「別に」

暗闇を埋め尽くすほどの満天の星空
もう、あまりにも見慣れた
星で埋め尽くされたドームの向こう側

「感傷に浸りたかった?」
「センチメンタルになるようなこと、何もないわよ」
「そう?」
「………えぇ。ただ、あの沢山の星から見た月は、どんな風に見えるのかしらって」
ヴィーナスは咥えようとしていた葉巻をしまい、空を見上げたままのマーズの背中を抱きしめた。

ふわりと流れる感情は、静かで弱くて、せつない

「きっと、大きくて、白くて、丸いんじゃない?」
「………そう?」
「そう言えば、ずっと前、地球から月を見ようとしたことがあるの。でも、太陽の光があまりにきつくて、月も星も見えなくて、見上げた空は薄い青一面と、少し白い蒸気が浮いていて……なんていうか、不思議な景色だったわ」
「青一面っていうのは、綺麗だった?」
想像が追い付いていないのかもしれない。
薄い青一面の空と言うものが、どういうものなか、ヴィーナスだって見せてあげたいけれど、表立って地球に降りることはできない。
「綺麗、だったと思う」
「そう。この空よりも?」
「………どうかしら。今、マーズと一緒に見上げている満天の星空の方が、私は好きだけど」
どこで何を見ても、傍に愛する人がいるかどうかで感動の度合いは変わる。
「言っていて、恥ずかしくない?」
「言われて、嬉しいって思う癖に」
腰に回した両手でお腹を撫で、赤いシルクのドレスの上をゆっくり滑らせながら乳房を包む。漆黒の髪がサラリと鳴いて、小さく息を飲む喉の動きを見届ける。
「………いつか、違う景色の空を見上げる日が来たらどうするの?」
肩で結ばれたドレスのリボンを解き、素肌を指先で愛でる。ひんやりした肩に唇を落とし、長い髪を払って、左頬に自分の頬を押し当てた。
「ありえないでしょ?」
「そうだといいわね」
「何か見えているの?」
「……さぁ?」
「星占いでもしていたの?」
「ただ、見上げていただけって、言ったでしょ?」
「………違う景色の空を見上げることなんて、あり得ないって」

ずっと、この満天の星空の下にいられない未来なんて
あるはずがない
平穏な時を重ねて、ゆっくりと生きて行くのだから

「ん………ヴィナ、手が冷たい」
「マーズの肌も冷たい」
腰まで落ちたドレス
愛撫する乳房
小さな抵抗をする手がヴィーナスの髪を掴む。
「ベッドに行く?それとも星空を眺めながらして欲しい?」
「………ベッド」

満天の星空
ドームの向こう側の景色は
永遠に変わらない
永遠に変わらないでほしいと願う
変わらないで
ずっと、傍にいてと願って






「ヴィナ?」
「あ、何だか久しぶりに聞いたわ、その呼び方」
「え?そうだった?」
「うん、懐かしい呼び方」
「いつも変身しているときは、呼んでるでしょ?」
「違うよ。何て言うか、口調が違うの」
天気のいい午後だった。薔薇の咲き乱れる公園をのんびりと歩いていて、周りに人の気配がなくなったので、何となくその右手を取った。振りほどいてこないし、嫌そうな顔もしない。
「口調?」
「うん。いつもは戦っている間だし、緊張した声で呼ぶからさ。私、マーズにヴィナって呼ばれるの、凄く好きだったの」

無意識に呟かれた、あの頃の名前
いつもそう呼ばれていた名前
そう呼ばれ続けていた、あの世界を

彼女を
愛していた

甘い声を
寂しそうな声を
苦しそうな声を
孤独を抱く声を


「………ヴィナ。いい天気ね」
「そうね」
「綺麗な薔薇も、そろそろ見ごろが終わって散ってしまうわ」
「そうしたら、今度はアジサイの季節ね」
人の気配はまだ遠い。薔薇のアーチ眺めながら通り抜けたら、視界には一面の薄い青が飛び込んできた。梅雨を迎えようとしている空には、まだ雨雲にはなりそうにない柔らかそうな雲が浮かんでいる。
「永遠に続く星空の元で生きていたのに、不思議よね。青い空を見上げて、ホッとした気分になるわ」
レイちゃんも同じ空を見上げている。
「それは、隣に私がいるからでしょ?」
控えめに繋いでいたその指に、力が込められたのを感じた。
美奈子は指と指を絡めるように繋ぎなおして、そっと肩を寄せてみる。
「………なにも変わらないわね、ヴィナ」
「マーズもね。こんなに綺麗な青空を一緒に見られることが幸せって、声に出せばいいのに」


あの世界が永遠に続くことが幸せなのか
この世界を生きている今が幸せなのか


「ヴィナ、地獄でも暗闇でも、一緒がいいなんて思ってる?」
「当たり前でしょ?」
ゆっくりと歩む足は止まり、情けないと言わんばかりの溜息が漏れてきた。
「来ないでよね、馬鹿。そう言うときは、光を照らして待ってなさいよ」
そう言う優しいところは、あの頃と何も変わらない。
愛してるとか、傍にいてとか、助けてって声に出さないところも。
「でも、そもそも、そんなところに1人で行かせたりしないもん」
「それもそうね。私も、………行きたくはないわ」


季節が命を産み、終わらせることを繰り返す世界でも
愛しい人が幸せだと思う世界であればいい
そして、その幸せを与えることができればいい

「もう少し、このまま歩こう」
「……引っ付きすぎ」
それでも引きはがそうとしないことは知っている

晴れ澄み渡る青空が視界に広がる世界
レイちゃんと指を絡ませた右手から伝わる
優しい想いが身体中に染みてゆく

あぁ
生まれ変わって、また巡り合えたこの世界の空は
とても綺麗





To ヴィー子様
Thank you
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Date:2015/05/15
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