【緋彩の瞳】 tender ⑫

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

tender ⑫


マーズはいたしかたなく距離を取った。攻撃がやみ、ヴィーナスは不敵に笑みを漏らしている。
「マゼランが地球に支配されたとなれば、その力欲しさにいろんな国が地球に媚を売るようになる。ベリルは月に対抗する強さでも欲しいのか?」
「でも、マゼランである必要などないわ……だったらむしろ、私を標的にするべきでしょう」
ウラヌスがマーズの肩を抱いて前に立ちはだかった。
「マーズがあんな小細工のような呪いに引っ掛かる人間ではないから、ヴィーナスに向きを変えたと?」
「……わからないわ。それは直接本人を問い詰めるしかないもの。とにかく、彼女を救わなければ」
「触れることもできないのに、神技のようにチョーカーを切ると?」
「えぇ」
ウラヌスを押しのけようにも、彼女は立ちふさがったまま首を振るだけだ。
「この私が、責任を持ってセーラーヴィーナスを倒します」
「……誰が倒せと命令をしたの?」
「マーズ。あれはもう手遅れですよ」
狂気の笑み。こちらをじっと見つめる黒い瞳。まとうオーラも何もかもが、黒くて痛々しい。光の一筋もない。
「マゼランの兵士は壊滅状態。地球国へと兵士を送り込んだヴィーナスは、それがあのチョーカーに操られているとはいえ、秩序を乱し、扉を閉めるという罪も犯した。万が一無傷でいられたとしても、マーズは立場上の彼女に厳しい処分を下す義務もある」
「そうです、マーズ様。もう手遅れです。私たちが最期を看取り、月には彼女が自決したと報告するしかないのでは?お辛い気持はお察しします。私たちが彼女を」
ウラヌスもネプチューンも、もはやヴィーナスの面影など見つけられないその姿を見て早々諦めを付けているようだ。マーキュリーが反論しないということは、間違ったことは言っていないのだろう。

だが

あの時にチョーカーの違和感を指摘していれば、殺さずに済んだのは確かだ。
見逃した自分の甘さのせいで、ヴィーナスが死ぬなんて。
殺すなんて。
これから何を想い生きて行けと言うのだろうか。光のない銀河に平和など存在しないと、彼女たちはわかっていない。
「ヴィーナスを殺すなど……」
「マーズ様。お気持ちはわかりますが………あなたらしくありません」
「…………確かにそうね」
マーキュリーの言う、マーズの“らしさ”などわからない。
何を望み、何が正しいかなど、わからない。
「全員下がりなさい。手を出さぬように」
ゆっくり、ゆっくり。一歩ずつ前へと進む。待ちわびていたように、ヴィーナスの右手が高く上がる。
『殺されに来たのか?』
「助けに来ただけよ」
戦闘用の特殊グローブであれば、わずか数秒ぐらいなら持ちこたえる可能性はある。失敗しても、片腕を切り落とすくらいで済めば、大したことではないだろう。
『マーズは星を背負うものを殺さない主義だろう』
「えぇ。誰一人として、星を背負うものだけは殺めない主義だったわ。例え星そのものを破壊したとしても」
『優しいふりをして残酷なことをするものね』
「ヴィーナス」
ヴィーナスの口調が混じった。
影響を受けているだけで、チョーカーを切り離しさえすれば元に戻る。

触れずに
切り落とすなどできないのなら

この手で引きちぎるしか方法はとれない


傷一つ付けたくはない
こんなことがあったということすら覚えておいてほしくもない

近づく歩数より多く、光の矢がマーズの身体めがけて飛んでくる。
至近距離から放たれるそれらを剣でかわしながら、それでもマーズは歩みを止めなかった。
腕を伸ばせば神々しい光に届く。

その距離まであと少し。



「……マーズ様は引きちぎるおつもりなのでしょう?」
ネプチューンはとても悲しそうな声で呟いた。
「手を出すなって言われたのだから、見守るしかないわね」
「あのお方の愛は、いつもご自身だけを傷つける……」
「そうね……」
「だからこそ、愛の女神が好きなのね」
「えぇ。本当……わかりやすいくらいに」
だからこそ、近づかずに好きでいることが許されているヴィーナスを想っている。
伝わらなくていい。
遠くから見守っているだけでいい。
永遠に光り輝く存在であり続けてくれればいい。
欲のない想い。
散らばる愛の光の一片だけで生きてゆけると。
「マーズ様が死んだら、私はヴィーナスを殺すから」
彼女の手にする鏡で殴り殺すつもりだろうか。今のネプチューンなら、ウラヌスから剣を奪い取ってめった刺しにでもしそうだ。
「安心して。私はそれを止めないわ」
腕を伸ばせばその首元に手が届く。その至近距離で放たれる魔力のこもった攻撃。
交わし続ける剣を持っている限り、その手を差し出せない。
「背後から加勢して、気をそらさせるか?」
「いえ……」
「でも…」
ウラヌスが奥歯をかみしめて悔しそうにヴィーナスを睨みつけた。解き放たれるヴィーナスの攻撃は疲れを知ることなく次々と1メートルほどの距離のマーズへ投げかけられる。
一度、離れた方がいい。
心の中でマーキュリーが考えていると、マーズの手から剣が落とされた。
自らの両手から剣を放さなければ、その首に巻かれたチョーカーを引きちぎることなどできない。

マーズ様らしいやり方だった。

「危ない!!!!!!!」

ジュピターの叫び声とマーズの左目付近に光の矢が放たれるのは、ほとんど同じだった。



関連記事

*    *    *

Information

Date:2013/12/06
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/56-2ee6382b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)