【緋彩の瞳】 私の恋人 ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

私の恋人 ①

恋人

同じ歩幅で歩いて
手を繋いでデートして
横顔をチラチラ見て
ドキドキして


そういうのが幸せで
楽しくて


それって理想っていうもので
現実はそうはいかないらしい






「……あのさ」
「ん?」
鞄を持っている左手。もちろん右手はちゃんと空いている。美奈子はその隣に並んで歩いていて、そっとそっと握るチャンスをうかがいながらも、手を意識しすぎて追い越してしまわないように、あるいは遅れないようにって必死だ。
「………いや、別に」
「何?」

まぁ、明るいしね。
かといって、暗くなったからって手を繋げるかって言われたら、無理なんだけど。いつもだから、強引に腕を掴んでいる。しがみついていると言ってもいい。鬱陶しいとか、暑苦しいとかそう言うことは言われるけれども、指と指を絡めて歩くことをしてくれないんだから、しがみついて何が悪い。でも今日は、あと1分くらい歩いたらクラウンに到着。10分くらい一緒に歩いても、チャンスは訪れなかった。
だから、仕方ない言い訳を並べて自分を納得させるしかない。


明るいから
きっと照れているに違いないし
誰に見られるかわからないと思ってるだろうし

嫌われてはいないと思うんだけど


結局、今日は腕さえ捕まえることができずにクラウンに到着した。
お互いに制服だから仕方ないよね。最後にいつものセリフを自分の心に言って慰めてあげる。
まぁ、制服じゃなくても手を繋いでデートなんてしたこと、ただの一度もないんだけど。




「亜美ちゃん、まこちゃん」
「お帰り、2人とも」
待ち合わせていた2人に軽く手を挙げて、美奈子は先にソファーに腰を下ろした。レイちゃんも髪を掻き揚げて、ため息と一緒に美奈子の隣に腰を下ろす。さっきは右側、今は左側。左右どちらから見ても、レイちゃんは麗しくて見惚れてしまうのだ。
「……美奈、何?」
「麗しいって思っただけ」
「…………あんたねぇ」
毛虫を見るような目で見つめられても、その瞳だって大好きだと思う。

結局は大好き。

大好きって自己満足な感情なのかしら、なんて思ったりもする。

「相変わらずだよ、まったく」
「本当ね」
まこちゃんと亜美ちゃんも、相変わらずでまったくもっていつもと同じコメントばかりで、美奈子はそれに照れ笑いをして返し、レイちゃんは呆れのため息を返している。
いつもと同じで、たぶんこれって惚気。
レイちゃんが美奈子のことを想ってくれていることくらいは、ちゃんと知っている。
でもきっと、美奈子の心はとても柔らかい袋でゴムみたいな素材で、簡単に拡張されてしまう。一度、想い合っていることだけで膨らんだくせに、そのあと、別の何かをもっと欲しがって、勝手に容量を増やしてしまうことが、いとも簡単にできるのだ。


愛してるなんて言う言葉を口にしてくれない
恋人ですって、いろんな人に紹介できない
いつでも甘えてきたり甘えたりもできない
手を繋いで歩くことができない


これは全部
美奈子の我儘なのだろうか

いや、我儘なんだって
言い聞かせなきゃいけないことなんだと思う


たぶん




「………ねぇ、あれTAの制服の子だ」
「え?」
パフェを食べた後、美奈子たちはゲーセンに降りた。のんびりお茶でもよかったけれど、たまにはスカッとレースでもしようかな、って呟いたらまこちゃんが賛成って言いだしたからだ。亜美ちゃんとレイちゃんは参加しないけれど、付いてきて仲良く椅子に座っている。
何回かレースでまこちゃんと対戦をして、シューティングゲームでもする?って面白そうな機械を吟味していると、まこちゃんが美奈子の制服を引っ張った。
「ほんとだ」
こんなゲーセンに入るTA女学院の子といえば、火野レイというお嬢様以外にはいないだろう。美奈子は少なくとも見たことはない。時々レイちゃん目当てにパーラーに入ってくる子はいるけれど、ゲーセンに入るなんていうことは、あり得ないって言ってもいい。
「……あの男子高生たちの知り合いかな?」
「あれってさ、この辺の学校でもない制服っぽいね」
「……ナンパされて、遊びに来たとか?」
「3対1で?」
男子高生3人と、TA女学院の中等部の制服。何か違和感を覚える。
「レイちゃんに声かけてくる。関係ないのかあるのかくらい、聞いておくわ」
もしかしたら、あの4人が全員ともレイちゃんを追いかけてきたファン、って言うことも無きにしも非ず。
美奈子は、亜美ちゃんと楽しくおしゃべりしているレイちゃんの元へ向かった。



「うちの制服の子が?」
「うん」
「……なんで?」
眉をひそめたレイちゃんは、腕を組みながらメンドクサイと言わんばかりだ。
「さぁ。でも、別にレイちゃん探しているようには見えないけどさ、そんなの見かけではわかんないでしょ。あと、男子高生の人と一緒にいたから」
「うちの制服の子が、ゲーセンで男子高の人と?………変なの」
「いや、だから、変だなって思ったからレイちゃんにお知らせって思って」
美奈子だって何か変だと思うけれど、見ず知らずの子に声をかける理由はない。助けてなんて言われたら別だけど、それを確認しに行くにしても、美奈子よりレイちゃんの方がてっとり早いのは確かだし、声をかける正当な権利はあるだろう。
「………ナンパでもされたかしら。うちの学校の子をナンパするなんて、あんまりいないけど」
「でも、レイちゃんの学校の後輩なのだし、確認だけしたらどうかしら?」
亜美ちゃんのダメ押しに、レイちゃんは渋々と言わんばかりに立ち上がった。美奈子に鞄を押し付けてくる。
「まったく。なんでこんなところにうちの生徒がいるのよ」
「……レイちゃんも、こんなところ、本当はダメなんじゃないの?」
「ダメに決まってるでしょ」
「……ですよね」
「私はいいのよ、あんたがいるから」
「………ですよねぇ」
なんか、その一言って美奈子がレイちゃんを守るっていう意味だと思うから、にやけてしまいたい。心のメモに綴っておかないと。
亜美ちゃんとまこちゃんも様子を見るために、美奈子の後ろについてきた。
仮に男子高生3人がちょっと危ない人であっても、まこちゃんがいれば余裕で勝てる。美奈子一人でも勝てるんだけど。



「……たしかに中等部の子ね」
「知ってる子なの?」
「さぁ?知らないわ」
「………どうする?」
「どうするって、………仕方ないでしょう?」
レイちゃんは男子高生に囲まれているTA女学院の子に向かって、まっすぐ歩いて行った。背中からちょっと怖いオーラが漂っている。
あれは、男を寄せ付けない時に発揮する怖いオーラ。
「すみません、うちの後輩に何か御用でしょうか?」
振り返った男子高生の顔を近くで見ても、やっぱり知らない人たちだ。この界隈でTA女学院の女の子と一緒に歩く男子高生っていうのも珍しいんだけど、レイちゃんを見てもギョッとしないのもまた、珍しい。

恐れ多くも、TA女学院の火野レイ様なのだ。

「うわ~!何、スゲー美人!同じ制服?君、この子の友達?わ~、すげー、こんな美人にゲーセンで会うなんて。やっぱこのあたりは、スゲーな」
どうやら、この界隈とは全然違うところの高校に通う人たちらしい。美奈子はレイちゃんにまで、何か変なことをしそうになったら、前に飛び出して蹴りを入れてやろうって身構えた。
「スゲーよ」
「スゲースゲー。僕たちと遊ばない?カラオケなんてどう?この子さ、帰りたいとか言い出していて、君友達でしょ?一緒にどう?行くだろ?」
3人の野郎と、囲まれているTA女学院の子は知り合い同士って言う感じじゃないと、これでよくわかった。レイちゃんの背中から、怒りっていうか今にも目の前の男を蹴り上げんばかりの気配が漂ってくる。
美奈子もまこちゃんも、出番がないかもしれない。
「あなた、この人たちとはどういう知り合い?」
「……レイお姉さま」

……出た、レイお姉さま

美奈子は心の中で呟いた。TA女学院の生徒は、小中高と全員レイちゃんの名前を知っていて、年下はレイお姉さまって呼んでる。都市伝説ではない。

「知り合いなの?どうなの?」
「存じません。その、道を案内して欲しいと声をかけられただけで、この方たちが無理やり………」
鞄を抱きしめていたレイちゃんの後輩は、おとなしく野郎たちの言うことを聞いていた風だったけれど、レイちゃんの顔を見たせいか、助けてオーラに変った。
「そう。申し訳ないのですが、うちの中等部ではこのような場所に出入りすることは校則違反になりますので、彼女を家に帰してもよろしいでしょうか」
レイちゃんはまだ丁寧だ。
丁寧になるべくことを済ませなければ、実力行使に出るというアピールだ。
「え~、じゃぁ君が僕たちと付き合って遊んでくれるならいいよ?な?」
「そうだな。こんな美人。それに後ろにもかわいい子たちがいっぱいだし。みんな一緒に遊ぼうよ」
「僕たちさ、今日は暇でちょっと足伸ばしてここまで来たんだよね~。だから案内してよ」
野郎に囲まれている子は、レイちゃんをまっすぐ見つめてじっと助けを求めている。
キラキラした眼差し。可愛い顔をした後輩だわ。
「………いえ、遠慮します。どこから来られたのかは存じませんが、うちの学校の生徒に気安く声を掛けるようなことは、二度としないでいただけますか」
頷かないと蹴りを入れるわよ。っていう意味を含んでいるんだろう。
美奈子は後ろにいるまこちゃんに、いつでも加勢OKの視線を送った。
まぁ、レイちゃん1人で余裕なんだろうけれど、念のため。
「行くわよ」
レイちゃんが後輩に声を掛ける。
「はい、レイお姉さま!」
助かったと言わんばかりの返事。
「レイお姉さま、それはないよ?」
「そうだよ、レイお姉さま」
「レイお姉さま~、いい名前」
レイちゃんが後輩の腕を掴もうと差し出した手を、汚い野郎が掴んだ。


私の恋人に何すんじゃ!!!

って、声に出しそうになった。




関連記事

*    *    *

Information

Date:2015/05/31
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/563-b08f0d6d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)