【緋彩の瞳】 私の恋人 ②

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

私の恋人 ②

「……触ったわね?」
それは冷たい焔の揺らぎだった。一瞬でレイちゃんを包むオーラが周りを冷やして、光のような速さで、そのレイちゃんの手に触れた男の腹に高級牛皮のローファーがめり込んだのだ。美奈子が殴ってやろうと腕を上げるタイミングさえなかった。
「…………あれじゃ、5分は起き上がれないね」
「急所、ちゃんと外しているとは思うけれど」
まこちゃんと亜美ちゃんは、蹴られた野郎を憐れんでいる。
「何したんだよ?!」
「おい!タケ!大丈夫か?」
仲間が一瞬で蹴られたのを目の当たりにしても、たぶん、他の2人には何が起こったのかわからないのだろう。
「あなたたちが、どこの学校の生徒なのか知ったことではないけれど、うちの学校の生徒をナンパするなんて、いい度胸ね。その度胸だけは買ってあげるわ。ほら、帰るわよ」
レイちゃんは1人だけやっつけて、他の2人に制裁を加えなかった。
「…は、はい、レイお姉さま」
レイちゃんがもう一度伸ばした手に、後輩はしがみつく。
「おい!お前!」
仕返しでもしたいのか、声を荒げた野郎がレイちゃんの髪を引っ張ろうとしたけれど、あっけないくらいに見事な回し蹴りが決まって、2メートルくらい身体が吹っ飛んでいった。
「………で?坊やはどうする?店員さんに助けでも求める?無駄だと思うけれど」
相手が震えているのはチラリと見えたけれど、レイちゃんは後輩の手を引いて、さっさとその場から退場していく。
「出番、本当になかったわ」
「いや、わかっていたことだけどね」
「……私たちも行きましょう」
美奈子は正義のヒロイン様の背中を見ながら、愛しい彼女の鞄を持たされていたことに気が付くまで少しぼっと立ちつくしたままだった。





「あなた、名前は?」
「……中等部2年A組、綾瀬緋彩です」
「見ず知らずの男3人に声を掛けられて、どうして無視しないの?」
「申し訳ございません、その、囲まれて、おとなしく言うことを聞いたら、何もしないと言うので……その……」
レイちゃんの鞄を持っていたから、慌てて追いかけて、ずっとその2人の後ろにくっついている。
「うちの学校の生徒に声を掛ける方が馬鹿だけど、付いていくということは、何をされても仕方ないことなのよ。全力で逃げるとか、嫌だと言う意思表示くらい出来ないのならば、防犯ブザーでも鞄にぶら下げておくことね」
「……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした、レイお姉さま」
お店を出てから、レイちゃんはずっと後輩の、緋彩ちゃんという子の手を繋いで歩いている。


美奈子が後ろにいるのに
後輩と手を繋いで歩いている


何、それ


「家はどこ?」
「芝公園の方です」
「そう。送るわ」
レイちゃんは後輩の手を引っ張るようにして繋いでいた。
美奈子がやりたかった手を繋いで2人で歩くっていうことを、よりによって美奈子の目の前で、知り合いでもない後輩とするなんて。

今すぐ文句を言いたいことを堪えた。
怖がっていた後輩の手を取って、放すタイミングもなかったんだろうって、そう信じている。
優しさだろうって信じてる。
恋人じゃない人と、手を繋ぐことに意味なんてないって……信じてる。
「レイお姉さま……その、レイお姉さまはどうしてあの場所に?」
「私は友達とね、たまたま遊んでいたのよ。後ろを歩いている子」
なんだ、美奈子が後ろを歩いていることはちゃんとわかってるんだ。
いやまぁ、気が付いてもらわないと困るけれどさ。
っていうか、だったらもう、その手を放したらいいのに。
「………そうですか」
ちらっと後ろを振り返った緋彩ちゃんは、何かレイちゃんと繋いでいる手にさらに力を込めたように見えた。いや、見えたっていうか腕にしがみついた。
「……なんっ…!」
挑発されたんじゃないか、と思う。まこちゃんと亜美ちゃんは帰ってしまっていて、この何か、どうしようもない苛立ちをぶつける場所がない。

「レイお姉さま、お礼に是非、うちでお茶でも」
美奈子の家から10分くらい離れた場所の、そこそこ大きな家。さすがTA女学院の生徒。レイちゃんと手を繋いで、さらに腕にしがみついていた緋彩ちゃんは、その腕を今度は引っ張り始めた。
「いえ、いきなりお邪魔するわけにはいかないわ」
「でも、助けていただいたお礼をしないわけには」
「別にいいわよ。そんなこと」
「レイお姉さま、でも……」
何なのよ、あの可愛いおねだりする泣き顔。
そういう顔できるのなら、あの野郎にナンパされた時に何とかできたんじゃないの?って本当、声に出してやりたい。

っていうか

手を放してよ
レイちゃんだって、手を放したらいいのに


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Date:2015/05/31
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