【緋彩の瞳】 恋の果実 ②

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ②

「あ、絵里先輩!」
背中越しに聞こえた声で、歩みをすぐに止めた。
「………海未」
今日の放課後の練習に彼女は来られなかった。弓道部の練習に行くからと聞かされていたし、その代りに早朝、誰よりも早く来て練習していたことは知っている。
「お疲れさまです。あの、今日はすみませんでした。みんな、順調に進んでいますか?」
「えぇ、まぁね」
希は神社のお手伝いがあるから、先に行くと言っていた。3年生の靴箱から門を出て歩いても、メンバーの子たちを見かけることもなかったので、タイミングが合わなかったんだろう。絵里は1人だった。
「偉いわね、海未」
「え?何がですか?」
横に並んだ海未の背中には、弓道の道具とレッスン着。絵里も生徒会の仕事と掛け持ちをしているとはいっても、弓道部のキツさから比べたらマシに違いない。メンバーの中では体力や知性、常識もある海未だけれど、それゆえに消耗する量だって人よりも多いのは確か。
「何って、弓道にμ’sの練習に、穂乃果たちのまとめ役に」
「それは絵里先輩も同じことが言えるのではないでしょうか。いえ、先輩は生徒会長のお仕事がありますし、そっちの方が大変だと思います」
“先輩”って付けないでと言おうとしたけれど、今はまだ話の腰を折りたくはない。
絵里は少し汗の滲む黒髪を撫でてみた。ちらりと視線が絡んで、だけど海未は簡単に気を許すような微笑みをくれるわけじゃない。
「海未。もしキツイのならば、無理をしなくてもいいのよ。あなたはすぐに振りが身体に入るし、少し位休んでもすぐに追いつけるのだから」
「全然、問題ありません。絵里先輩こそ、色々無理をしているのであれば……」
「無理?まさか。あれくらいの練習は、バレエに比べたら大したことじゃないわ。生徒会だって別に私1人でやっているわけじゃないもの」
「そうですか。希先輩もいますしね」
「えぇ」
髪を撫でた手の行き場に困る。
中途半端な位置の手、肩に置くのも重荷を増やすだけだし、背中を撫でてあげるにしても、彼女の背中には弓道の道具とレッスン着の入っている鞄。

別にどこかに触れなければいけない理由もないけれど、いや、あるような気もするけれど。

「私、絵里先輩が入ってくださったおかげで、本当にダンスに真摯に向き合えるようになりました」
「……え?」
海のまっすぐな眼差し。その瞳に見つめられたいっていうのが理由なのだと、たった今、理解した。
「私は絵里先輩のようなダンススキルなんて、全然ありません。でも隣で踊って見劣りしないように、いっぱい練習をしたいんです。でもそのために何かを諦めるとか、おろそかにするということも、したくないんです。それにそのことを無理だと感じるくらいなら、私は初めから絵里先輩にダンスを教えて欲しいなんて思ったりしません」
「………そうなの?」
生真面目というか、何と言うか、気を使いすぎるくらい海未は瞳をキラキラさせて絵里を見上げてくる。下ろせなかった絵里の左手の行方は海未の右頬へと納まってしまう。
海未に触れたかった。
「絵里先輩?」
「………海未。あのね、私のことを絵里先輩って呼ぶのはやめて。気を使わせて距離を取られるのも嫌だし、舞台上では上も下もないわ」
「あっ……そうでした」
気が付いていなかったと言うような、驚いた瞳。
上も下もないって言っておきながら、可愛い子だわ、なんて心の中で思った。
「それに、上手いとか下手とか、ダンスってそういうものだけじゃないのよ」
「そうなんですか?でも、絵里先輩は……」
「絵里先輩?」
「……あ……」
意地悪く睨んで見せて、バツの悪そうな表情を確認してみる。
そっと頬から手を放して、空いている海未の手を取った。
メンバーになる前に、彼女たちのことを素人だと言ったことを忘れていないのだろう。
だからこそ海未は、ダンスに必死になっているところがある。
「……そうね、確かにスキルっていうか、バレエもそうなんだけれど、それなりの形にならなければ、人前に出るべきではない。それは確かだわ。でもね、私たちはプロのダンサーでも歌手でもない。プロに審査されるのとも、ちょっと違うわ。私たちの目標は明確だわ。そのために必要なこと…、そうね、必要なものはすでに海未は持っているのよ。その気持ちさえあれば、上手いも下手も関係のないことよ。1人1人で踊ったら、確かに差は出てくるかもしれないわ。でも9人で1つのもの作り上げているの。スキル面を私と比べる必要なんて海未にはないし、もちろん誰にもないわ」

だから、絵里に尊敬のまなざしを向ける必要はない
海未が見上げる必要もない
欲しいと思うものはそれではない

繋ぐと言うよりは、掴んでいる海未の手。
「でも、私……絵里さん、えっと、絵里の、その、……絵里のこと、だ、大好きですよ」
指を動かしてちゃんと手を繋いだのは、海未の方からだ。
「……尊敬しているって言ったら怒られるから、大好きって言いなおしたの?」
こんな放課後の帰り道に、手を繋ぎながら大好きだなんて。
海未はそう言うことを計算する器用さなど、持っていないだろう。
だから、ドキドキするというよりは、確認しなきゃと思うことの方が先に来てしまった。
「いえ、えっと。もちろん尊敬はしていますけれど、でも、尊敬だけじゃないです。本当に尊敬だけなら、追いつこうと思うより、崇拝しておこうって思います。でも、絵里のこと、大好きだから、その、もっと近づきたくて、だから、ダンスも上手くなりたいんです」

必死に、感情を丁寧に言葉で説明してくれる海未
生真面目な不器用っていうか
いや、そう思い込みたい絵里の我儘なのかもしれない

「………ありがとう、海未。私もあなたのことが大好きよ」
「ひっ……えぇ?!いえ、そんな、その……」
「いいじゃない。両想いなんだから」
頬を少し赤くしているのは、ちゃんと絵里が伝えたい気持ちが伝わったからなんだろうし、少なからず海未も、そんな想いを持ってくれているからだって、思っておこう。
「ほら、立ち止まらないで。暗くならないうちに帰りましょう」
「でも、絵里先輩が」
「絵里よ」
「……え、絵里がそのっ」
繋いだ手を引っ張ると、海未が眉をハの字にさせて腕に髪を絡めてくる。
「私が何?」
「え、絵里が……変なことを言うからです」
「変かしら?」
「………変ですよ。私、変な人は尊敬しないんです」
「そう?じゃぁ、変な人って思っておいて頂戴」

絵里が欲しいのは尊敬じゃない
海未から欲しいのはそういう類の視線じゃない
その我儘だけのために、上下関係をなしにした
生真面目な海未から受ける尊敬と、微妙な空気の隙間が気に食わなくて

「…………はい」
「変な人の私のことは好き?」
「……もちろん。凄く好きです」

質問以上の答えが返って来て、絵里は心の中で“ハラショー”って呟いた。




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Date:2015/06/01
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