【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑤

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑤

「海未」
弓道部に顔を出してから部室に行きますと、律儀にお昼休みに連絡をしに来た海未。そんなことは同じクラスの穂乃果にでも伝えてもらえばいいことなのにって思いながらも、3年生の教室に顔を見せに来た海未が、ただ律儀なだけでここに来たのではないって信じている。

絵里が心の中で海未の名前を呼んだからだと。

「絵里先輩」
なんだか少し久しぶりに、先輩なんて呼ばれた。絵里って呼ばれる響きをとても気に入っていたのに。
「え………何、気を使ってるの?」
海未は姿勢をぴんとしたまま、キョロキョロと視線を泳がしている。
「いえ、だって、ここは3年生の教室ですし、皆さんが見ていらっしゃるところで呼び捨てなど」
「あぁ……本当、海未は面倒な性格なのね」
「ですが、私は少なからず絵里先輩の周りの人のことも考えて」
後輩から呼び捨てにされるなど、生徒会長として云々……。途中から絵里は耳を塞いで見せた。
「……はいはい。行きましょう」
「え?行く?どこへですか?」
「お昼ご飯」
「……あ、はい」
「穂乃果たちと食べるの?」
「あ。いえ、まぁ、普段は自然とそうなってますが」
今は特に、みんな約束をしたわけでもないのに、メンバーみんな、何となく外のベンチに集まってしまう。それだけいつでも一緒にいたいし、飽きたりすることもないし、そうやって一緒にいることが、ダンスを合わせる呼吸にも影響するのは確かだと思う。
「じゃぁ、海未と私は今日、別行動」
「え?は、…はいっ」
ランチボックスを手にすると、希にランチは別でと言い残してすぐに海未の腕を取った。
「絵里?」
「ねぇ、あんまり人のいないところに行きましょうか」
「はい。ですが……そんな場所ありますか?」
「うーん…」
靴を履きかえて取りあえず外に出てみても、確かに生徒がいっぱい。
絵里をチラチラ見てくる後輩たちの視線もある。
「……あっ、あそこなら」
「あるの?」
「はい。こっちです」
今度は海未が絵里の腕を取った。一瞬可愛い笑顔を見せてくれて、それが嬉しいって思うけれど、絵里が嬉しいって思っていることは、全然伝わりはしないだろう。
それでも、それが辛いとか苦しいって言うほどではない。



「ほら、どうです?誰もいないでしょう?」
「……そうね、確かにいないわ。だけど……見られていると思うわよ」
連れてこられたのは、アルパカの小屋の近くにあるベンチだった。大きな木の作る影がちょうどベンチを覆って、気持ちよさそうだけれど。
ちょっと、嫌な記憶がよみがえって来て絵里はため息を漏らした。
「絵里?」
「……ううん、別に。海未は“あれ”、平気?」
「あれ?あぁ、アルパカですか?そうですね、花陽が可愛がっているのを時々見ていたので、慣れました」
海未はベンチにハンカチを広げると、それには腰を下ろさずに、何も敷いていないところに座った。絵里に譲ってくれたのだ。
「どうぞ」
「ありがとう、海未」
隣同士に座って、海未の体温を右の肩に感じながら見つめる景色は……アルパカ。
「変な学校ですよね。アルパカがいるなんて」
「……そうね。なんでいるのかしらね」
「生徒会長なのに、知らないのですか?」
「私よりこの子たちの方が長くいるんだから」
ランチボックスを開いて、サンドウィッチを手に取ると、まだお弁当箱を開けたばかりの海未に差し出した。
「あげるわ」
「え?でも……あ、じゃぁ」
「交換はいいから」
海苔の巻かれたおにぎりを手に取ろうとしたから、絵里は全速力で首を小さく振った。
「…………絵里はお米食べられますよね?海苔ですか?それとも中身?これは梅干しですが……」
「いいから、ほら。ね?」
サンドウィッチを押し付けて、すぐに絵里はもう1つのサンドウィッチを自分の口に放り込み、梅干し入りのおにぎりを阻止する。
海未がくれるものならば是非、喜んでって思いたいのだけれど、心遣いだけで胸がいっぱいになったのも本当。

本当

「……そうですか。海苔も梅干しも苦手なのですね」
口の中に押し込んだサンドウィッチのせいで、YESともNOとも言えないし、苦手を知らされてしまうことが、妙にむず痒い。
別にだからと言って、海未がそれを誰かに言いふらしたり、嫌がらせのように梅干しのおにぎりを食べさせたりするようなことをするなんて思っていない。
とにかく、口の中のサンドウィッチを飲み込まないとって、紙パックを手に取る。
「私は好きです」
「…………ぐふっ」
コーヒー牛乳を吹き出しそうになった。
「だ、大丈夫ですか、絵里?」
「…………げほっ。え?えぇ。好き?……何が好きなの?」
海未は照れた風でもないし、とても真面目な表情をしているから、別に絵里のことを好きだと言ったわけじゃないということは、もちろん絵里だってわかる。だけどその表情を確認していたのならいざ知らず、右耳だけがその言葉を捉えると、勝手な想像が絵里を間違えた方向に導きかねないのだ。
「えっと、このサンドウィッチのことです」
いつの間にか、海未は食べ進めていた。
「あぁ……ありがとう。私の手作りって言ってあげたいけれど、今日のこれは買ったのよ」
「そうですか。とても美味しいです」
微笑みを丁寧に見せるから、その律儀さは海未の感情をちゃんと表しているのかしら、なんて余計な考えをちらつかせる。
どこまでが気を使わせているのか、どこからが海未の本当の気持ちなのか、なんて。

知りたいのは、きっと我儘

だから

我慢しないといけない

心を落ち着かせないと

深呼吸をして、笑顔のお返しをする。それを確認した海未がほっとした表情を見せてくれる。
「海未は、サンドウィッチの好きな具はある?」
「そうですね。何でも食べられますが、タマゴがたっぷり入っているものとか」
「そう。覚えておくわ」
「絵里は和食が苦手ですか?」
「ううん、食べられないのは…その、梅干しと海苔だけよ」
「そうですか。それ以外で……では、私が今度はお礼にサンドウィッチを作ります」
それは、また2人でランチを取る約束って言うことでいいのかしら。
いや、敢えて確認を取ると、全員に作ってくる確率が高くなってしまう。
「じゃぁ、私も作ってくるわ。交換しましょう」
「はい!」

元気な返事とキラキラした眼差し
尊敬とは少し違う色の
絵里の欲しいものに少し似た色の

「…………さっきから、視線が」
「視線、ですか?アルパカ?」
海未だけに見つめられていたいし、海未との時間をゆっくり過ごしたいのに、ずっとベンチに腰を下ろしたときから感じる視線。食べ終わるまでは何とか、気にしないようにって思っていたが、お腹が満たされた後、流石に気にしないではいられなくなってきた。
「見られている気がしない?」
「……ですが、動物ですし」
「そう、ね」

気にしないように、気にしないように。
近づかなければ、舐めまわされることもないはずだから。

「あ、絵里、アルパカが苦手なんですね」
「…………」
「最初から、何となくそんな気がしていたんです。一度もアルパカを見ようとしないですし」
「………私、わかりやすい性格なのかしら」
そして、それをアルパカにも見抜かれているのかもしれない。
「たぶん、私がそう言うのが見えるくらい、絵里の近くに座っているからですよ」

だったら、絵里が誰を気にしているのか……

そんなことを考えたら、今度は何を考えているのかと聞かれるのではないか。
海未に聞かれて言葉を濁しても、濁したことは簡単に伝わるし、それが言えないことであると言うことが、縮めようとする距離をまた、開かせてしまうはずだから。
「………前に仲たがいをしたのよ、あの茶色い方と」
「そうなんですか。絵里が美人だから、嫉妬したのかもしれませんね」
嫉妬っていうか、あれは嫌がらせにしか思わなかった。
でも、海未にそれを言えば、絵里が何かしたのかって突っ込まれるだろう。
「美人って……何なのそれ」
「学校の生徒の視線は、みんな絵里に釘づけですから」
「………そんなわけないでしょう?」
「そうでしょうか?絵里は綺麗で背も高くて、スタイルもよくて、歌もダンスも上手。みんなをしっかりまとめ上げて、学校のために一生懸命になって、アルパカよりも断然、人気者です」

……アルパカと比べられても

「ですから」
「……海未?」
立ち上がった海未は、絵里の苦手なアルパカの小屋の前に仁王立ちをした。
「私の大切な絵里をいじめないようにしてください。いじめたら、弓道の的にしますからね」
人差指をピンと茶色いアルパカに向けて、決め台詞のように言い放って。
「………人の気も知らないで」

苦手なものをいくつも知られてしまったのに
絵里の好きな人が誰かなんて
海未は気が付きそうにもない


「はい!これで絵里はもう、悪いことはされません」
笑って欲しくてやっているなんて、そう言う子じゃないから。
本人は本気に違いない。
「ありがとう、海未」
「……どうして笑うのですか?」
こみあげてくる笑いは、嬉しさが半分とおかしさと、可愛いわねっていう気持ちと、あと好きなことが、伝わらないことの不思議さが混じってしまったせい。
「海未が私のために、一生懸命アルパカを説得してくれたから、嬉しくて」
「嬉しいという言葉と、その笑っている表情が、かけ離れているように見えますよ」
「そう?でも、本当なの。ありがとう、海未。食べ物の苦手はちょっと克服できないけれど、そうね…海未が傍にいてくれたら、平気になるかもしれないわね」
「じゃぁ、いつもここでランチを取りましょうか?」
「いや…、別に、わざわざここじゃなくても」
2人きりで、誰からの視線もない、海未だけを感じられる場所の方がいい。
「それも、……そうですね。絵里と2人でいつもランチを取るわけには、いかないですよね」

海未
そうじゃないの

あぁ
もどかしい

「………海未、明日はここで待ち合わせね。海未がいてくれるなら守ってもらえるし」
駆け寄ってきた海未は絵里に、無邪気な笑みを見せてくる。
「2人で…穂乃果たちを連れてこなくてもいいですか?」
「もちろんよ」
それは、絵里が2人でいたいと願う感情と同じものを海未が持ってくれているからなのか。

あぁ
もどかしいんだけど

でも、海未が嬉しそうに笑ってくれるから


「嬉しいです」
「私も、海未と2人でいられるのなら嬉しいわ」
キラキラ眩しい瞳と、紅く染まった頬を見て
まだ、言わないし言えないって考え直す
あぁ、でも、いっそ好きだと言ってしまったら

………たぶん、好きの感情の中に、恋という種類があるというところまで、思考はだとりついてくれないに違いない

「私、絵里と一緒にいる時間が好きです」

だから海未はこうやって、純粋な気持ちを言葉にすることができるのかな、なんて。

「……私も海未が好きよ」
「本当ですか?嬉しいです」


ほら

ほらね


あぁ、でも
…………まぁ、もうちょっとくらいはいいのかな





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Date:2015/06/03
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