【緋彩の瞳】 恋の果実 ①

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ①

撮影していた動画を入れたパソコンの画面を見つめている。
3台のカメラで撮ったものを編集するために。

何をしているのかしらと、絵里は自分に問いかける。あの3人の子たちの踊りは素人で、自己満足に過ぎなかった。指導する人間が周りにいなかったのは見ていて嫌になるくらいわかったし、ダンス経験があるような動きではなかった。
だけど、それでも笑顔で最後まで踊り切るという度胸はある。

「……変なの。どうせ、こんなことをしても」
意味なんてない。いや、自分が何をしようとしているのかなんて、自分に問いかけて答えを出したいとも思えない。
それでも家に持ち帰って編集して、スクールアイドルのランキングに「μ’s」としてエントリーをしておいた。

これが嫉妬なのか現実を見せつけようとしているのか、絵里自身が心のどこかで何かを望んでいるのか。

認めたくはないこととは、一体何なのか。


「お姉ちゃん?」
「なぁに、亜里沙」
「何しているの?」
「あぁ……別にね。学校で使う資料を見ていただけよ」
ノックをしてきて入ってきた亜里沙は、絵里の学校に入学を希望しているけれど、このままでは入学募集をしない可能性は高い。
何ができるのだろう。妹の楽しみを絵里が奪うような想いになる。
何かをしなければならないと思いながらも、生徒会長という名前を背負った自分ができることなんて、本当は何もないんだと、わかっているけれど認められなくて。
だから
大人を納得させるような何かをって毎日考えている。
「それは、何?」
「………うちの学校の……スクールアイドルの真似事、よ」
「へぇ~。わぁ、可愛い!」
パソコンの画面は停止ボタンが押されていて、1人しか映し出されていない。
「そうね」
「この人は、お姉ちゃんのお友達?」
「いいえ、違うわ。後輩」
「これは歌っているの?」
「えぇ」
絵里は興味津津の亜里沙が見せてとねだる表情をしてきたので、再生ボタンを押した。
観たくないと思えるダンスと歌が流れてくる。
「わぁ~!いいな、お姉ちゃんの学校にも、スクールアイドルがあるんだね」
「……これは、ただ勝手にやってるだけよ」
「お姉ちゃんはやらないの?」
「やるわけないでしょう?」
「どうして?お姉ちゃんはダンスできるでしょう?舞台の上で上手に踊れるのに?」
「………関係のないことよ。この子たちはこんな素人の歌と踊りで、廃校を止めることができるって思っているみたい」
「じゃぁ、お姉ちゃんが入ればいいのに」
「………こんな素人」
亜里沙は瞳をキラキラさせて、じっと画面に見入っている。
勝手に音量を上げて、小さく身体でリズムを取り始めてしまった。
「お姉ちゃん、この人たちは上手だよ?」
「………亜里沙の目で見たらね」
「でも、一生懸命で楽しそう」
「……何も、考えていないのよ」
「そうかなぁ。この人が可愛いからファンになろうかな」
画面の3人の中の黒髪の子を指さした亜里沙。その指先に映された子と視線が重なった。
「………そう」
「お姉ちゃん、この人のお名前教えて」
「さぁ……何だったかしら」
本当を言うと、全員の名前と顔は覚えている。それでもわざとらしく資料を開いているのはどうしてだろう。
「たぶん、黒髪の子の名前は園田海未さん」
「海未さん!わかった。ねぇ、お姉ちゃん、この動画を亜里沙のプレイヤーでも見られるようにしてくれる?」
「……いいけど」
「やった~。プレイヤー取ってくるね」
ご機嫌な声で亜里沙が部屋を出てくる。絵里は転送用のコードをパソコンに差し込んだ。
「……昨日の今日で、もうファンができるなんて」

もしかしたら、この子たちが

いや、そんなことできる訳ない


画面の中から園田海未が絵里を笑顔で見つめてきた
彼女はビデオを撮られていることなんて、知らないはず
だからたぶん、真っ直ぐ見つめている先に、たまたまカメラがあっただけだろう

「………客なんていない、こんなにガラガラでも笑えるのね」
楽しそうに歌う彼女の視線
妙な息苦しさを覚える

「確か、弓道部だったわね」
それほど学校で目立つようなことをしていた子ではない。
この「μ’s」で初めて顔と名前を認識した。


「お姉ちゃん、はい、これに入れて」
亜里沙が自分のプレイヤーを手に戻ってきた。
絵里はそれを受け取ってコードに差し込んで、動画を取り込んだ。
「ねぇ、またこういうライブをするの?」
「さぁ、わからないわ」
「この人たちは学校で人気?」
「全く」
「そっかぁ、じゃぁ亜里沙が学校以外でのファン1号とかになるのかな?」
「……さぁ、どうかしらね」
たぶん、学校の生徒以外でμ’sを見たのは亜里沙が最初になるはず。
でも、なぜかそれを言えなかった。
「お姉ちゃん、今度、この園田海未さんのサインもらって来て」
「……サインって、芸能人じゃないのよ」
「ないの?」
「ないわよ」
「……そっかぁ。でも、また次も歌ったら動画頂戴ね!」
彼女たちはきっと、何も諦めずに突き進むだろう。
どれだけダメだと言っても、必ず次のライブを考えているだろう。

止めて欲しい感情が少なからずある癖に
こうやって動画をアップしている矛盾


「……えぇ、わかったわ」
亜里沙は自分の部屋でゆっくり聴きたいと、出て行った。



リピートされる動画に、さっきと同じ場面が出てくる。

黒髪の子
園田海未という子と絵里の視線が重なる

瞬間、その隣で踊っている自分のビジョンが見えた

「………違う、だって…こんな素人と一緒になんて……」


違うって何?
何を否定しているの
どんな感情が湧き出たと言うの


視線を合わせなければいいだけなのに
どうして、彼女は絵里を見つめているのだろうか

どうして、そんな錯覚を起こしてしまうのだろうか


モヤモヤと言いようもない気持ち悪さを覚えて、パソコンを閉じた。


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Date:2015/06/01
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