【緋彩の瞳】 tender ⑬

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

tender ⑬


いつまでも剣で攻撃から身を守り続けていても、その首に巻かれた苦しみから彼女を解放してあげることはできない。
方法はひとつしかないのだ。手で、そのチョーカーを引きちぎる。
この手が届く距離まで近づいて、後は素早く行動に移すしかない。
「……ごめんね」
誰に言いたいのかはわからないけれど、マーズは剣を手放しその黒い石をつけられた息苦しそうなチョーカーに手を伸ばした。
視界は彼女の右手が顔に向けて降りてくることをとらえていたが、避けるよりもようやく届いたこの手で彼女を救うしかなかった。
その後、強烈な痛みが左目を襲い、そして遅れて左手にも突き刺すようなと痛みを感じた。

チョーカーは間違いなくこの手にある。
そして、さっきまでヴィーナスに降りかかっていた黒い石の魔術はマーズを襲っているのだとわかった。


「マーズ様!!!!!」
眩しい光と黒い光。同時に身体を襲われたマーズは真後ろに吹き飛ばされた。あおむけに倒れこんだその顔に攻撃を受けたのを目の当たりにしたネプチューンは、顔が吹き飛んだのかと想い、全身が震え上がった。
顔が血で覆われている。
「……いやっ……」
身体の震えが止まらなかった。真っ赤な顔面と、左手に黒いものが巻きつけられ、締めつけようとしている。
「くそっ!」
ウラヌスが震えて動けないネプチューンを押しのけて、倒れているマーズのグローブに絡まるチョーカーを剣で切り裂いた。グローブもろとも切り裂かれたそれが黒い煙を上げた。
「うっ……腕は無事なの?!」
「……切断していない。グローブがなければ、腕を切り離すところだったけど」
だから、ウラヌスはためらいなく切りつけたのだろう。傷は付いているが、今まで背負った傷に比べたらかすり傷だ。顔面の血しぶきに比べたら。
「マーズ様、しっかり!」
ネプチューンがマーズの顔面の血を拭きとるように撫でた。
「………ゲホッ」

生きてる。

顔面にあふれる血しぶきが呼吸をするたびに唇の中へ入り込む。
口の中から血を吐き出す仕草に、思わずネプチューンはしゃがみ込んだ。
「目よ。マーズ様の左目がやられているわ」
マーキュリーはすぐさまヒーリングを始めた。血は乾くより早く流れ続けている。
「早くキャッスルに戻ろう。抱き上げるぞ」
マーズは何も言葉を発することができないのか、ただ唇が何かを綴るように動いている。血が言葉をさえぎっているのかもしれない。
ウラヌスが抱き上げたその血まみれの身体。ネプチューンは少しでも痛みが和らぐように、血まみれのつぶれた左目に唇を押しつけた。
血の味が痛い。
「……ヴィ…お…が…い」
わずかに漏れたマーズの囁き。
「………承知しました」
ネプチューンはウラヌスとマーキュリーにマーズを託し先に回廊へと向かわせ、ジュピターを残した。
「こっちは生きてるの?」
「無事だよ。マーズが命懸けで助けたんだから、死なれたら困る」
ジュピターはあおむけになって倒れている、青白い愛の女神の額に手を当てた。
「マーズ様がヴィーナスをお願いと。放っておいて目が覚めるのかしら?」
「いや、無事とはいっても……。このままだと目覚めることはなさそうだよ。あの石に色々と力を持っていかれちゃったのかな」
やるせないため息をついたネプチューンは、グローブをはずして、ひんやりとしたヴィーナスの頬に触れた。
「……そうね。回復する見込みはなさそう。放っておけば死ぬわね」
本音では癪ではあったが、マーズ様の命令なのだ。ネプチューンは自らの力をヴィーナスに分けた。
「とりあえず、応急処置だけはするわ。急いで連れて帰りましょう」
「そうだね。マーズも心配しているだろうし」
あの攻撃を受けた目は、無事に元に戻るのだろうか。
どんなにマーズの回復力が優れていても、生きているだけで奇跡のような攻撃を至近距離から受けたのだ。顔の形が変わってしまっているかもしれない。
とてもじゃないけど直視できる勇気を持てそうにない。
「傷一つついていないのね、この子。流石、マーズ様だわ」
「普通だったら無事じゃないよな」
星を背負うものを殺さない主義だとしても。もしほかの星の人間だったら、どうしていただろう。
殺しはしなかっただろう。だが、無傷ではいられなかっただろう。腕を切り落とし、攻撃のできない状態にさせるくらいはマーズ様なら平気でなさるだろう。


愛はだから厄介なのだ

自らを犠牲にするだけの愛は



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Date:2013/12/08
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