【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑥

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑥

「好きです、海未先輩!!!」
「あ、ありがとうございます」




海未と2人でランチと言うのも、そう毎日毎日って言うわけにはもちろん行かなくて、ソワソワしながら昼休みになるたびに、海未が3年の教室に顔を出しに来たりしないだろうか、なんて淡い期待は数日間裏切られている。だけど、海未とは毎日顔を合わせている。朝練、昼休みのμ’s全員でのランチ、放課後の練習。一緒に帰るときは穂乃果に取られるより早く、海未の右隣を確保しようと一応頑張っている。希なんてもう、ずっとニヤニヤ笑っているだけだ。
「海未~」
「海未ちゃん、先に食べておいてって」
「………そう」
希とニコと一緒にいつもの場所に行くと、ことりと穂乃果、1年生しかいなかった。絵里はベンチに腰を下ろしてため息を両手に吹きかける。
「えりち、あんな。うちは黙ってることはいいんやけど、えりちの態度、わかりやす過ぎて、……時間の問題やと思うよ」
絵里の隣に腰を下ろした希が、独り言のように呟いている。絵里は何も言わずにお弁当の包みを解いた。
「大丈夫じゃない?少なくとも、バレると面倒な人たちには伝わりそうにないし」
「………何よ、ニコ」
「何って?もしかして、気が付いてないとか思ってるわけ?」
「………嘘でしょ」
なんで、よりによってニコにばらすのよ!絵里は希を睨み付けたけれど、希は希でニコが知っていたことに関心をしているような表情。
「なんや、ニコっちも知ってたん?」
「あったりまえでしょ?そんなこと、最初から知ってたわよ。真姫も気が付いてるはずよ」

なんで
いつ
絵里はどんな態度を取っていたのだろうか
思い出そうとしてみたけれど、そう言えば、朝も昼も放課後の練習も海未しか見ていない。


「……………うぅ…死にたい」
「何が死にたいよ。恥ずかしげもなく、朝昼放課後も、最初に発する言葉が”海未“なんだから、よほどの馬鹿じゃない限り、気が付くに決まってるでしょ」
まるで絵里の心を読んだように、ニコがふん!と腕を組んでそっぽ向く。
「絵里、ついでに言えば、海未が今どこで何しているのか、知らないなら教えてあげましょうか?」
「………何?何かあったの?」
「はぁ~、やっぱり知らないみたいね。まぁ、学年が違うから当然かしら~」
「ニコ!!!」
絵里よりも小さいニコがものすごく上から目線で鼻を鳴らすような態度を取るから、思わずその襟元を掴んだ。
「わ!何すんのよ~~~。教えてあげないニコ♪」
殺してやろうかなんて、殺意が芽生えてくる。
「に~~こ~~~」
「にこっち、やめたげな。解散の危機になってまうわ」
首を絞めようとしたところで、希がストップをかけた。
「……殺される~。生徒会長が暴力振るうぅ~~」
腹立たしいぶりっ子の声が絵里の耳を刺激して、本当に何かしてやりたくなる。
「それで、海未ちゃんは何で遅いん?なんか悪いことして、先生に呼び出されたん?」
希は絵里の両手からニコを奪うように引っ張って、続きを求めた。危なかった、本当に殺すところだった。
「ふん」
「……にこっち、わしわしが欲しいん?」
「ひぃっ。……真姫が言うには、1年の子に呼び出されているって」
もったいぶったあと、ニコは希の両手の動きを見て観念したように呟いた。
「え?」
「告白を受けてるんじゃないかって」
「……………大変じゃない!!!!!」

そんな
海未が1年生から告白されるですって?!

「いや、大変なんはえりちだけや」
「そうよ、あんただけよ」
「何を言ってるの?!アイドルは恋愛禁止よ?!」
「……いや、それ、えりちが言うことなん?」
「希、突っ込みどころが違うでしょ。これでこの馬鹿は周りにバレてないとか思ってるわけよ?どうなの?」

海未の一大事なのに、どうしてこの2人はそんなのんびりとご飯を食べていられるのだろうか。絵里は開いた包みを慌てて閉じて、立ち上がった。
「えりち、どこ行くん?」
「別に」
「いや、別にって」
「絵里ちゃん、どうしたの?」
少しだけ離れたところにいた穂乃果が、キョトンとした顔で見上げてくる。この子たちは自分の幼馴染の一大事だって、まったくわかっていないみたいだ。
「ちょっとね」
「あかん、……暴走や。にこっち責任取らなあかんで」
「知らないわよ!」
なんで、みんな海未の貞操を守ろうとしてあげないのよ。
「真姫!」
「な……な、何?」
「どこよ」
「どこ?はぁ?何が?」
「どこに呼び出されているか、あなた知ってるんじゃないの?」
「………何のことよ。知らないわよ、何の話よ」
凛たちと仲良くご飯を食べていた真姫の、すっとぼけた顔。絵里はニコにやったみたいに襟もとに手を掛けようとしたところで、希とニコに両サイドから身体を引っ張られた。
「えりち、まぁまぁ」
「真姫、海未はどこに行ってるかあんた、知ってる?」
「はぁ?海未?………あぁ、たぶん、弓道部の部室だと思う」
ということは、後輩は同じ部活の子というわけね。絵里は身体を引っ張る2人を振り払って、急いで走った。
「えりち、それはあかんって~」
「そうよ!暴行罪よ!」
別に、1年の子を殴るわけじゃないのに。
ただ、海未が心配なだけなのに。
どうしてみんな、心配じゃないのかしら。




「好きです、海未先輩!!!」
「あ、ありがとうございます」


弓道部の部室を覗いたのは、最悪のタイミングだった。
よりによって、海未がありがとうなんて言葉を発したのを聞いてしまった。
ちょっと待ってよ!って声を出して止めに入りたいって思っていても、身体がなぜか震えて1歩が出ない。
「本当ですか、海未先輩!」
「え?あ、はい。それはその、もちろん、好きだと言っていただけることは光栄です」
「じゃぁ、私と付き合ってくれませんか?」
「付き合う、ですか?それは、どこかへ行くと言うことですか?」
あぁ、海未らしい。
震える足を叩きながらも、海未のとぼけた答えにちょっとホッとした想いを抱いてしまう。
「そうじゃなくて、手を繋いでデートしたりキスしたりする恋人関係と言うことです」
「……えっと、なぜあなたとそういう関係になる必要が?」
「だって、海未先輩のことが好きだからです!」
「いや、その。そうは言われても。その、私はそういうことを誰かとしたいという感情は一切持っていなくて。第一、今は学生ですので、勉強とμ’sや弓道などに没頭する貴重な時期ですし、特定の誰かと何かをするということは、私には無理なんです」


………

「そんな。海未先輩、私のこと嫌いですか?」
「いえ、好きですよ。大切な後輩ですから」
「後輩とかそういうんじゃなくて!じゃぁ、凛ちゃんとか真姫ちゃんとかμ’sをやっている1年生と私、どっちが好きですか?」
「どっちなんて考えません。みんな等しく大切で大好きです」
「………海未先輩は誰かと付き合うなんて、しないっていうことですか?」
「当然です。今の私には必要ありません」


………

足の震えは止まったけれど、絵里は勢いよく扉を開けることもその場から逃げることもできずに、本当に動けなくなってしまった。
海未がこういう子だっていうことは、わかっている。
だからこそ好きだと思った。
真っ直ぐで偽りがなくて、変化球を投げられなくて
誰にでも平等に真っ直ぐに大好きと言える
そう言う子

だから、純粋な歌詞をたくさん書ける才能を持っている


「わかりました。海未先輩とお付き合いすることは諦めます。でも、好きでい続けてもいいですか?」
「……それはよくわかりませんが。私は今までと何も変わりません」
「はい。ありがとうございます」
「共に練習に励みましょう」
「はい!」

振られたのに爽やかね、なんて思っていると、勢いよく目の前で扉が開いた。
「あ、生徒会長」
「あ、あ、あ、ごめんなさい。ちょっと、えっと、海未を、海未を探していて」
見知らぬ1年生が真っ赤な瞳で絵里を見上げてくる。一礼されて、逃げるように走り去るその背中は、失恋をした直後だというのに暗さが見えないのは、海未の対応に納得したからだろう。
「絵里、ここで何をしているのですか?」
「…………海未がいないから、探していたのよ」
「弓道部の部室にわざわざですか?穂乃果に遅れると伝えましたが」
「いや、まぁ、そうなんだけど」
「盗み見をしていたと、顔に描いてますよ」
「………そのつもりはなかったのよ」
海未は照れた様子もなく、何となく落ち込んでいるようにさえ見えた。
「そうですか。それで…私に何か用事でも?探しに来るということは、よほど急いでいることなのでしょう?」
「あ……う…え……えっと……何だったかしら」
海未は特大の溜息をものすごくわざと絵里に向けて吹きかけた。
「それでは、用件を思い出したら教えてください。さぁ、お昼休みが終わってしまいますから、みんなのところに行きましょう」
「………そうね」
さっきのことを、もっと聞かせて欲しかった。いや、聞くも何も、あれ以上の何を聞きだせるというのだろう。
絵里は海未の何を知りたいと言うのか。
海未の恋愛レベルがマイナスの領域だということは、十分わかっているのに。
っていうか、別に絵里が振られたわけじゃないのに。
「ほら、絵里。どうしたんですか?」
「海未」
「行きますよ」
先に歩き出す海未の後を追いかけたいって思うのに、どうして身体が動かないんだろう。
「絵里?」
「………ごめん、先に行って」
「は?どうしたのです?」
「うん、いいから」
「いえ、よくないです。一体どうしたのですか?」
「わからない。わからないから、先に行って」

だから別に、絵里が振られたわけじゃないのに。

「……ほら。もぅ、絵里」
海未はまるで穂乃果を怒るような口調で、絵里の手を取り引っ張った。
「どうしたんですか、絵里。何か食べてはいけないものを口にしたのですか?」
繋がれた手を引っ張られて、動かなかった足がもつれるように歩みを始めるから、絵里はそれに従って、海未の腕にしがみついた。
「穂乃果じゃないんだから」
「じゃぁ、どうしたのです?」
「……海未が、誰かと付き合うんじゃないかって思ったら、ちょっと怖いって思って」
本当はそれだけじゃなくて。
そっちじゃなくて。いや、それもなくはないんだけど。
「待ってください、絵里はさっき聞いていたのでしょう?誰から何を言われてもお断りすると」
海未がラブレターに返事を書かないっていうことは、知っている。直接の告白であれ手紙であれ、海未がモテることは事実だし、それに見向きもしないしできないのが園田海未であり、そこも含めて、絵里は海未が好きだと思う。
でも。
海未がそうやって後輩たちからの想いに応えないことをポジティブにとらえて、海未が誰のものにもならない安心感を抱いていた。そのことで、変な優越感だけを携えていて、取りあえず満足していた。
告白さえしなければ、振られることはないだろうと思っていても、それは永遠にこの関係を続けなさいと神様が告げているようなもので。
いっそさっきのあの子みたいに、何か一区切りをつけた方がすっきりするんじゃないか、なんて思わなくもない。
あの後輩もたぶん、何もかも分かったうえでの行動だったのだろう。
1年生のほとんどが海未にアタックをしていたはずだ。結果なんて見えていても、それでも想いを伝えることで、何かを成し遂げたいと思う。
バッサリ切られた方が清々しい思いを持てる、と。
そして、そんなことを言いながらも1mmの希望を捨てきれなかったに違いない。
「……誰でも、なの?」
「はい」
「穂乃果やことりでも?」
「それは、例えにさえなりませんよ。あの二人は幼馴染なのですから」
「じゃぁ、真姫とか希とかニコとか」
「彼女たちはμ”sのメンバーですよ?」
「………でも、だからこそ好きって思うこともあるかもしれないわ」
「それはどうでしょうか。そんなことを考える人たちではないと思います」



“そんなこと”


……
諦めなきゃって、やっぱり思えない
今更それは無理なところまで来てしまっている
でも
やっぱり流石に、これはちょっときつい、かな


「絵里?」
「あ、ごめん。あの、ちょっと生徒会室に用事」
「え?だってみんなとお昼ご飯を」
「えっと、うん。先に行ってて。すぐ追いつくし」
「では、私も行きますよ」
「いいわよ。海未には関係のないことだから。すぐ行くから、すぐに」
「そうですか。では、またあとで」
海未が握りしめていた絵里の手は、その分けられた温もりを冷ましたいと冷たさを求めている。渡り廊下を進む海未の背中を見送り、その手を頬に押し当ててみた。


熱い

手が熱いのか
頬が熱いのか

頬の方が冷たいと思った。





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Date:2015/06/15
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