【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑦

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑦

「すみません。絵里先輩、おられますか?」
「およ、海未ちゃん。どうしたん?」
えりちは昨日、お昼ご飯を放置したまま帰って来なかった。なぜか海未ちゃんが1人で来て、えりちは生徒会室に用事があるそうだって。どうやら、えりちは嘘を吐いたみたい。そして、そのまま帰って来なかった。放課後の練習もどんよりした空気で、海未ちゃんが何かあったのかと聞いても、何もない、としか答えていなくて。
思い切り何かあったって顔に描いているけれど、流石の希も、具体的に何があってえりちが落ち込んでいるのかまでは読み取れないし、海未ちゃんなんか、もっとわかっていないだろう。そこまで勘の働く子であれば、えりちが海未ちゃんに恋していることくらい気が付くだろうし。まぁ、そんなこと言いながらも自分のことを好きだと気が付くって、あんまりないことかもしれない。よほどの自惚れ屋さんってことにもなるような気がするし。
「希先輩」
「お~、うち先輩やったわ。忘れてた。っていうか、別にいいんよ、周りに人がいるからって気にせんでも」
「いえ、やはりそれは」
「うーん、いい子やねぇ、よしよししてあげたいわ。それで、えりち探しに来たん?」
「はい」
朝の練習の時もえりちはいつもみたいに、お決まりの“おはよう、海未”から始まる挨拶がなくて、顔はちらっと見ても、視線を意図的にそらしてため息を吐いていた。

振られたのか、と聞きたいくらい。

でも、振られたりなんてしたら、あのえりちのことやから、もっとすごい落ち込み方をするか、メラメラ逆に燃えるかのどちらかじゃないかと思う。

あれは
何だか、とにかく気まずいって思っている顔。


「えりちなぁ、チャイム鳴ったらダッシュでどこか行ってしもうたわ」
「……そうですか。では、お昼ご飯は一緒ではないんでしょうか?」
「何も聞いてないんよ。先に行ってるかもしれへんし、行ってみようか?」
「……そうですね」
「えりちに何か用事があるんやったら、言っておこうか?電話してみる?」
希はお弁当箱を持って、海未ちゃんの隣に並んだ。背筋をピンと伸ばして真っ直ぐに見つめてくる瞳の色は、確かに可愛らしいって思うし、こういうキラキラと純粋な瞳なんて、えりちの好物なんだろうなっていうのは、たやすく想像できてしまう。
メンドクサイ性格のえりちだから、真っ直ぐすぎる海未ちゃんが好きなんだろう、と。

メンドクサイ人ばかりのμ’sのメンバーたちみんな、海未ちゃんが好きだから。


「いえ、用事っていうか。昨日、お昼休みに来なかったし、放課後も朝も、何か様子がおかしいので、少し気になっただけです」
「ええ子やなぁ、海未ちゃん」
抱きしめて、よしよししたくなってしまう。
「希は何か聞いていますか?」
「さぁ~、何も聞いてないんよ」
「……そうですか」
いつものメンバーたちが集まるベンチに行ってみても、えりちはいなかった。教室から何も言わずに逃げるように飛び出したのだから、一番にここに来ているなんてもちろん思っていない。どこかに逃げたのだろうけれど、一体何から逃げたのか。まぁ、間違いなく海未ちゃんなんだけど。
「絵里、いませんね」
「そうみたいやね」
「………私が昨日、何か余計なことを言ったのでしょうか」
「何かあったん?」
誰もまだ来ていない。希は海未ちゃんを座らせて、隣に腰を下ろした。いつもえりちが必死になって海未ちゃんの隣をキープようとしている。仲良し2年組に阻止されることも多いけれど、希には今日が初めての隣同士。
「いえ、何かというか、部活の後輩に呼び出されて、その、告白のようなものを受けてお断りをしていたところを、絵里に見られたのです」
「……なんや、えりちは盗み見してたんか」
知ってる。
やっぱり阻止はしなかったらしい。いや、できなかった、が正しいのかもしれない。
「盗み見かどうかはわかりませんが。何か、私が絵里を不快にさせるようなことを言ったのかもしれません」
「そうなん?身に覚えはあるん?」
「それが、何がよくなかったのかわかりません。お断りの仕方が一般的に良くない方法で、それを絵里が不快に思った、とか」
えりちが不快と思うなんて言うことはないだろうけれど、えりちはもしかしたら告白する前に何か、可能性を粉砕されるようなことを言われたのかもしれない。
それで、全身全霊で落ち込んでいるとか。
でも、海未ちゃんは恋愛経験どころか、堅苦しく知識すらない子だから、落ち込むも何もないのに。

えりちは勝手に先回りして、先に落ち込んでいるのかもしれない。

「どうなんやろうね。盗み見しただけで、そんな風にはならんと思うよ?」
「そうでしょうか。では……何故でしょう?」
「他に、えりちと会話とかしなかったん?」
「会話、ですか。そうですね、誰に対してもそうなのか、と言うことを言われたので、そうだって答えたんです。μ’sのメンバーでもそうなのか、と聞かれたので、そんなことを考える人なんていない、と言うようなことを」

あぁ、それ

でも、海未ちゃんにそんな変化球を投げたえりちが悪いんじゃないかと思った。
直球しか投げることができない子に、変化球で様子を見たところで、それを認識できる能力なんて海未ちゃんは持っていないのに。

わかっていてもやってしまう乙女なえりち
そして、そんなことをまったくもってわかっていない海未ちゃん

「海未ちゃん、うちが好きって言ってキスしたいって言ったら、どないする?」
「………なななん、なんですか?!!!!!!!」
「いや、なんや、ふと思っただけやけど。どうするん?」
「何を考えているんですか、破廉恥ですよ!」
せっかく隣に座っていたのに、海未ちゃんは間に二人くらい座れそうな距離だけ離れた。
「いや、言ってみただけやん?」
「冗談でも、やめてください!」
真っ赤。写メ撮っておきたい気持ちになってくる。
「海未ちゃん、うちら10代やねんから、あんまり固いこと言わん方がいいよ。芯が真っ直ぐなところが海未ちゃんのいいところやし、魅力でもあるけれど、もっと恋とか人を好きになる感情とか、そういうのをお勉強した方がいいかもしれんなぁ。それは知っていても、損になることはないやろうし」
1年生組がゾロゾロとやってくる。そのあとをニコたちが歩いているのも見える。この話はここまでになりそう。
「それと、絵里が何か様子がおかしいことは、関連性があるのですか?」
「どうやろ?あるかもしれんし、ないかもしれへん」
「希、それじゃぁわかりません」
「うーん。わからないんやったら、やっぱりえりちに聞くしかないやろなぁ。うちだってえりちの心の中まで読まれへんから」
「お勉強と言っても、具体的にどうすればいいのですか?」
何か、ムキになってくらいついてきてしまっているけれど、これはいい方向なのか悪い方向なのか。
「えりちに聞いたらいいやん」
「どうして絵里なのですか?」
「だって、えりちの話をしてたんやから、当然やん?」
「……そうなんですか?」
ワイワイと近づいてくるメンバーに、希は手を振る。
「この話は、ここまでやな」
「……わかりました」
「海未ちゃん、希ちゃん!あれ~、絵里ちゃんは?」
「えりち、生徒会の仕事や」
「あ、そうなんだ~。何か朝から元気ない気がしていたけれど、生徒会忙しいのかな」
穂乃果ちゃんも、えりちの変化には気が付いているみたいだけど、その理由までは思い当たらないのだろう。
「そうみたいやね。文化祭のことで、もうすぐバタバタしないとあかんし」
「お昼ご飯、みんなと食べられないのかなぁ」
「どうやろうね。放課後はちゃんと来るよ」
当たり前のようにみんなが集まって、当たり前のように笑い合って。

そこに恋があったっていいと思うけれど。

それは自然なことじゃないかなって思うけれど。

希はえりちの味方で、海未ちゃんの味方でもありたい
2人が幸せだと思う道があるのなら、背中を見守っていたい

「………えりちが1人になれる場所って言ったら、この時間やったらどこやろ?」
海未ちゃんにだけ聞こえるように呟いてみた。
「………生徒会室ですか?」
「そうやろうか?うちが行く可能性もあるし、下級生の子も行くよ?」
真っ直ぐな眼差しが、何かを導き出そうとして地面をじっと見つめている。
「穂乃果、ことり。私、ちょっと用事があります」
「え~!海未ちゃん、昨日もお昼遅れたのに?」
「今日はまた、その、別の理由です」
慌ててお弁当箱を手に立ち上がった海未ちゃんは、希が笑顔で手を振って見送っていることすら確認しないで、一直線に走っていく。
でも、あれはえりちの恋心に気が付いたのではなくて、ただ、えりちの居場所に心当たりがあると言うことなんだと思う。

けど

「なんや、えりちの居場所がわかるって、案外いい感じやん?」
「………希、絵里と海未に何かあったの?」
海未が座っていたところに真姫ちゃんが腰を下ろして、毛先をいじり始める。
「さぁ、どうやろなぁ」
「何か知ってるんでしょ?昨日、クラスの子が目を腫らしてたわよ」
「うーん、それは仕方ないやん?」
「そう?絵里も同じ目に遭ってるとかじゃないの?」
「うちには、そんな情報回って来てへんよ」
「……だったらいいんだけど。ニコちゃんが、絵里が凄い勢いで教室から出て行くのを見たっていうから、昼に来ないんじゃないかって思ったら、やっぱりいないし」
「真姫ちゃんも優しいね」
「………べ、別に!ただ、私は空気が悪いのが嫌なだけよ」
可愛い子って思う。こんな風にさりげなく、でも仲間のことを想うのはにこっちにそっくり。
「2人の未来はカードで読みたくないねん。見守るのが一番や」
「あっそ」
海未ちゃんは、またストレートに何があったを問い詰めるかもしれないけれど、えりちはどうするのだろう。

もう、真っ直ぐに返してあげたらいいのに。

「っていうかな、うち、海未ちゃんは自覚してないだけで、えりちのこと好きなんちゃうかって思ってるねんけどな」
「…………あぁ………」
「なんや、真姫ちゃんもそう思うん?」
「………気のせいって思ってたけど」
「そうなん?……ええやん、自覚ないのがあの子らしくて」
真姫ちゃんが、どのあたりを見て海未ちゃんの気持ちをくみ取ったのかが気になるけれど、作詞作曲組で、2人で色々話をすることが多いから、何か感じるものでもあったのかもしれない。
「好きにもいろいろあるわよ。海未のあれが、そうとは限らないわ」
「そうやなぁ」

希以外にも、背中を押したくてうずうずしている人が、まだまだいるみたいだし、もう少し様子を見ておかないと。

「……ええやん、青春やで海未ちゃん」


青春っていいなぁ。



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Date:2015/06/16
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