【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑧

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑧

「絵里、やっぱりここにいたんですね」
アルパカから視線を受けながら食べるパンを、美味しいなんて思わない。そんなことを考えて同じように睨み返していると、海未が視界に入ってきた。早足でこちらに真っ直ぐに向かって来て、当たり前のように隣に腰を下ろして。
「……海未」
「どうして、みんなと一緒に食べないのですか?希は聞いていないって言っていましたよ」
「言ってないもの」
「なぜですか」
手にしていたお弁当箱を膝の上に置き、当然のように開く。
「なぜって。別に。……海未こそ、どうしたの?」
「どうした?質問をしているのは私です。ここに1人でいる理由をちゃんと説明してください」
なぜ絵里は怒られているのだろう。でも、この口調のせいで穂乃果がいつも海未にタジタジなのがよくわかる。
こう言うときの海未には隙がない。真っ直ぐで正しい。言い訳なんてできない。
「なんとなく、1人で食べたかっただけ」
「なんとなく、ではなく。理由を教えてください」
「言いたくないことだってあるわよ」
言葉を紡ぐのを嫌だというアピールとして、パンを頬張ってみせた。
海未の表情がわかりやすく厳しさを増していく。

でも、本当にどう説明しろっていうのよ。

海未に会い辛い
でも会いたい

こうやって海未がここに来てくれていることに
ドキドキしているのに
何というか、ここを選んだのも海未のことを考えたからだっていうことも
そのくせに
それがちょっと苦しいって言ったって

海未には全然わかってもらえないに違いない



「絵里、それは私が何か絵里の気に障るようなことを言ったからですか?」
厳しい口調は変わりないのに、いきなり核心的なところを突いてくるんだから。
誰かに何か言われたのかしら。希とか、ニコとか。
「どうしてそう思うの?」
「絵里の様子がおかしくなったのが昨日の放課後からなので、思い当たることを私なりに色々と考えた結果、そうではないか、と」
「…………別に」
そうだって言えば、食らいついて放してくれないに違いない。納得できる説明をしない限り、海未はしつこく粘ってくる。
「違うのですか?じゃぁ、一体なぜですか?」
どれだけ視線を逸らそうとしても、海未は絵里をしっかり見つる眼差しを逸らしていないことはわかっていて、ロックされたら敵わない。

飲み込んだパンにむせそうになるのを、コーヒー牛乳で誤魔化して、咳払いをひとつ。

「海未、そんなに近づいてこないで」
「絵里がいつもと違うから、私は困っているのです」
「海未が困るの?」
「………昨日の、その…私が絵里に言ったことで失言があったのではないかと思いまして。希には……こ、恋とか、えぇっと、人を好きになるということの勉強をしろと言われたのですが、それと絵里がここに一人でいることは、何か関係があるのですか?だったら理由を教えて欲しいんです。不用意な失言があったのならば、絵里に謝らないといけません」

希はまた、何か余計なことを海未に吹き込んだのだろう。
でも海未は、希が意図したように理解したとも思えないような。
なんていうか、あぁ、海未らしいっていうか。

「どうして、海未が私に謝るの?」
「………いえ、ですから、説明をしていただいて、私が悪いと思えばということです」
「何それ。じゃぁ、理由を聞いて海未が悪くないなら謝らないっていうこと?」
海未が悪いとかじゃなくて、単に絵里がもう、なんていうか、自分でもどうして海未にこんなムッとしたりドキドキしたり、胸がきゅんと鳴いたりしているのかわからない。
っていうか、普通に好きなだけなのに、普通に好きという感情を海未はわかってもらえないどころか、“そんなこと”、何て言ってバッサリ切り捨てるんだろう、みたいな。

みたいな。

何考えているんだろう。

「それは、説明をしていただかないと」
「………説明を聞く前に、自分で勉強してみたら?」
「何をです?」
「希が言ったこと」
注がれる瞳を、思わず見返してしまった。
重なり合った瞳の色が、絵里の一言で一瞬にして変わっていくから。

あ。

って思ったんだけど、今度は海未が視線を逸らしてしまったから。

「………わかりました」
「海未?」
「希が言ったことを勉強します。そうすれば、絵里がみんなと一緒にご飯を食べなかったり、練習で元気がなかったりする理由もわかるのですね」
ムキにさせてしまったのかもしれない。でも海未は努力家で勉強するって宣言したのだから、恋愛小説なんてものを読み始めてしまうのではないだろうか。
そんなところに答えが書いているわけじゃないのに。
「海未、どうしてそんな真面目な顔でそんなこと言うのよ」
「絵里が楽しそうにしてくれないのは、私が嫌なんです。でも、そのために私が、こ、こ、恋心とか、その、そそ、そ、そういうものを知れば、その、良き友人として、絵里の気持ちを推し量ることができるのならば……希もきっと、私にそういう気遣いや配慮が足りないといいたかったのでしょうし」

……勉強をして、絵里が海未を好きだと分かってくれるなんて

分かったからって言っても、海未には“そんなこと”であって

「………海未は恋とかしないの?」
「それは、昨日も話しましたが、絵里はそのことで悩んでいるということですか?やはり、私が何か言ってはいけなかったのですね」
「………いや、別に、その、なんていうか」
「すみません、私ではお役に立てないし、そもそも私は何もわからないのに、必要のないことだと言ったせいですね」
それはまぁ、間違いでもないような。
あえていうなら、そう言うところについてというか。

“はぁ……”

海未が小さく洩らしたため息が絵里の右耳を刺激して、何だか悪いことをしているのがこっちだと言わんばかりの気持ちにさせられる。

「海未は勉強って何をするつもりでいるの?」
「わかりません。絵里が具体的に言いたくないようなので、一般的な恋愛感情というものについて、本でも読んでみないと」
「………私が恋愛について悩んでいると言うことは、海未の中で決定事項なわけね」
「違うのですか?だったら何ですか?」
ため息を吐いたり、拗ねて見せたり、なかなか忙しい子。
「……色々」
「色々、ですか?」
「そう。色々」
「絵里、それではわかりません」
「わからなくていいわよ」
「私にはわからないこと、なのですね」
「私にもわからないことなのよ」
「絵里にも、ですか」
「そう……」
海未は何度も何度も絵里を見つめては俯き、見つめては俯き、言葉を選んでいるように見えて。それが可愛くて、でも何も言わなかった。
言葉を選ぶ間に過ぎて行く時間
もう、休み時間も終わってしまう。

「え、絵里。放課後の練習は?」
「行くわよ、もちろん」
「その……いつもの、楽しそうな絵里でいてくれますか?」
絵里だって、そうしたい。
いや、海未に罪なんて何もないのに
こんな風にさせたいって言うわけじゃないけれど
「ごめん、海未。いつも通りにするわよ。ほんと、ごめん。海未を心配させてしまったわね」
「いえ、私のせいならば、その、謝るべきは私です」
「いいからいいから」
「…………絵里の、絵里の気持ちを理解するように、その、勉強します」

危うく、好きだといいそうになってしまった。


真っ直ぐな清々しい大きな瞳に吸い寄せられて、抱きしめたくなる。

ここに一人で海未から逃げていたはずなのに、その瞳でずっと、見つめていて欲しいと言う気持ちがどんどん強くなって

だから
この気持ちがまずます息苦しさを呼び込んで


「海未、もうチャイム鳴るし……放課後ね」
「はい」
海未は一度、穂乃果たちのいるところに行ってから教室に戻ると言って、頭を下げて小走りに去っていった。


……神様、何か色々助けて欲しいのですけれど
絵里自身が
何をどうしたらいいのかわかりません。



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Date:2015/06/23
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