【緋彩の瞳】 LOVE SONG

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

LOVE SONG

「雨、強くなってきたなぁ」
「そうですね。早めに帰りますか」
「そやな」

窓を叩く雨音。
何となくしっとりした空気が部室を包み込んでいる。

遠くの方で聞こえてくるゴロゴロという音に、海未は心の中でため息を吐いた。
雷が嫌いだとか、苦手だとか、そう言うことを強く意識したことなどないけれど、かといって好ましいものではない。
朝から降り続けている雨のおかげで、早朝練習も放課後の練習もなくなり、穂乃果はことりを伴って、雨の中衣装の小物を見に行くと帰っていった。海未は弓道部の基礎練習にだけ参加をして、何となく真っ直ぐ家に帰れずに、アイドル研究部の部室を覗いたのだ。
「絵里は?」
「えりち?なんや、先生に呼び出されてたんよ。すぐ、行くって言ってたけどなぁ」
気になるん?クスクスと笑われて、笑わないでくださいとも言えずに、視線を逸らして咳払い。
「生徒会のお仕事ですか?」
「どうやろ。うちは何も聞いてないし、大したことちゃうよ」
「そうですか」
部屋のパソコンの電源は、雷対策のためにコンセントを引っこ抜いている。

誰かが窓を叩くような音かと思いたくなるような雨の音。

「にこっちと1年生たちは帰ったんかな?」
「真姫の家に行って、歌の練習をするみたいです。希は誘われなかったのですか?」
「あ、なんかそういえばそんなこと言われてた」
海未が来た時、部屋には誰もいなかった。誰もいないかもしれないってわかっていたし、それでもよかった。1人でノートを広げて作詞でもできれば、それくらいの気持ちだった。あとから来た希と、何となくこうして、真っ白いノートを広げたまま、強い風が雨を躍らせる景色へと、思考回廊を道草してしまっている。
「海未ちゃん、また新しい歌詞を書くん?」
「えぇ、真姫から2曲ほどデモテープはもらっているので」
一言も何も書かれていない、横線がびっしりと並んだノートを覗き込まれたところで、隠すものなんて何もない。

隠すものは何もないはずなのに、海未は何となくそのノートを腕で押さえていた。

「海未ちゃんの歌詞って、海未ちゃんらしさが良く出ていて、うちはめっちゃ好きやわ」
「あ…ありがとう、ございます」
「なんやろ、声に出して歌っていて、心が清らかになるんよ」
「希は元々清らかですよ」

希は人を褒めるのがうまい。
それでいて、操るのも上手い。

μ’sが9人という大所帯でありながらも、喧嘩や意見の違いで分裂などをすることなく、みんなが同じ方向を向いて手を繋いで走っていることができるのは、希がいるから。穂乃果の幉を握っているのは海未だと自覚しているけれど、ときどきそれを強く引っ張りすぎて、穂乃果と言い合いになってしまう。ことりという存在もとても大切だけれど、なれ合いが過ぎている幼馴染ではない、落ち着いた希の存在は、やはり海未には必要なんだと思う。

3人だけでよかった世界が、9人でずっと一緒にいたいと願う世界になった。

「いや、うちは……何やろ、適度でいいねん。清らかっていうのは理想の世界って思ってたから、海未ちゃんみたいに清らかで、そう言う言葉を詞にできる子が、この世にいるんやって思ってるんよ」
「そ、そんな。大げさですよ」
「ほんまに。アイドルグループは歌もダンスもやけど、伝えたいことは詩に込められてるって。海未ちゃんは、うちらメンバーの想いを丁寧に言葉にする才能があるよ」

そうだろか、と思う。

毎日一緒にいるけれど、それでも穂乃果やことりみたいに10年以上一緒だったわけじゃない。1年生と3年生の6人の気持ちを、ちゃんと詩にできているかどうかなんて、わからない。
「………私は思いついた言葉を、ただ、並べただけです。詩について、絵里や凛たちに話を聞いたこともありません。ですから、希が言うほどの才能は…」
「そうかなぁ」
うちは、いいと思うよ。そう言ってにっこり微笑まれると、グダグダと否定的な言葉を並べる気にもならない。
海未も小さく微笑み返すだけだ。

だけど、希のにっこりが、“にやり”に変った。

「海未ちゃん、思いついた言葉を並べるんやったら、誰かを好きになったら、いきなりラブ・ソングができあがったりするんかな?」
「え?ラ、ラ、ラブ……ラブ・ソング?!」
「そう、ラブ・ソング」



ラブ・ソング



言葉の指し示すものが何なのか、なんだったのか
本当に一瞬世界が真っ白になって
数秒自分がどこにいるのかもわからなくなって


「ななななな、な、な、なぜ、なぜ、ラブソングなのですかっ!!」
「いや、なぜって。10代の女の子やねんから、好きな人ができたら、ラブ・ソング聞きたくなるやん?そうしたら、ラブ・ソング書きたくならへん?」
「な!な!なりませんよ、破廉恥です!」
「……なんや、破廉恥って」
この、にやりとした笑みは、必ず誰かを困らせようとするときの笑みだって、わかっていた。でもその被害が海未に直接来ることなんて今までなかったから、油断していた。
部屋には2人きりだということは、最初から分かっていたのに。
「μ’sにラブ・ソングなんて」
「そうかな。イマドキ、普通やと思うよ。海未ちゃん、書いてみたらどうやろ?」



………


「む、………無理です」
真っ白なノートがまるで海未の四方を囲んだように、呼吸が苦しくなった。
「………そないに落ち込まんでも」
「その…ラブ・ソングの要点がわかりません」
「要点?いや、好きっていう気持ちを書けばいいんちゃうん?」
「………好きっていうのは…」
「おらんの?おるやろ?ぱっと、こう、顔が出てくる人、ほんまはおるやろ?」




絵里




どうしてか、絵里の名前が耳の奥に響いた。



「………あ、やっぱり、おるんや」
「い、いません!」
立ち上がって抗議をしたら、遠くから近づいてくる雷が大きく鳴りわたり、ドン!とまるで建物を揺らすような音を立てた。
「わっ…。神様が嘘吐いたって怒ってるわ」
「か、か、からかわないでください!」
口に手を当てて、噂話をする大人の女性みたいに見つめてくる瞳が、海未がふと描いた人の名前までわかっていると言わんばかりで。

海未でさえ、どうして絵里を思い描いたのか説明のしようがないと言うのに
希は、その理由さえわかっているような気がするのはどうしてなのだろう

「海未ちゃん、うちらが卒業してしまう前に、1曲くらいはラブ・ソング書いて欲しい」
「……希が書いたらどうですか?」
「うーん、それもまぁ、ありかもしれんけどな。海未ちゃんの清らかな言葉選びで、恋の歌を歌ってみたいっていうの?えりちもそう思うはずや」

ドキっとして小さく身体が震える
絵里の名前が希の口から出たせいだって
あからさまに伝わったに違いない


いえ、だから
別に絵里のことは

海未は心の中でほかのメンバーの名前を呼んでみた。
いつでも傍にいる穂乃果とことり、
ニコ、真姫、凛、花陽、希


「えりち、遅いな」

びくっと身体が震える

「み、見てきたらどうですか?」
「海未ちゃん、行って来たら?」
「いえ、でも」

でも


その先に紡ぐ言葉が出てこない


幸いかどうかはわからないけれど、大声を張り上げなければならないほどの雨が窓を強くたたいて、耳を塞いだ方が良さそうな雷が近づく音が聞こえてきた。


ドン!!!!



バチッ


「「あっ」」


“キャー!!!”


ブレーカーが落ちた。
一瞬にして部屋が暗くなる。
外は厚い雲に覆われていて、薄暗闇のせいで、差し込む光はほとんどない。
「今、悲鳴が聞こえましたけど」
海未は携帯電話の画面で光を確保した。同じように小さな光に照らされた希。声は彼女からではない。
「えりちちゃうかな」
「え?」
「えりち、暗いところ苦手なんよ。廊下側はちょっと暗いし、どっかでうずくまってるんちゃうかな」
「……それは大変ですね」
「行って来てあげて。もう今日の活動は終わりや、うちは先に帰るから、えりちを迎えに行って、一緒に帰ってあげてな」
まるで決定したかのように、希はゴソゴソと帰る準備をし始める。
「ま、待ってください。一緒に探してください」
「大丈夫大丈夫。想いだけで、えりち見つけられるって」
「いや、ちょっと」
「雷、すごいなぁ」
「話し逸らさないでください!」
「逸らしてへんよ・ラブ・ソングのことやろ?」
「も、戻さないでください!」
「いや、さっきからその話ししかしてへんよ?」


この人には敵わない


「………絵里を探してきます」
「ほな、お願い。でも……海未ちゃんが作るラブ・ソング、楽しみや」


ずるいです、希


「希、わ、私は別に絵里に…こ、恋などしてません!」

また、ピカと光った雷が、海未に天罰を与えるような音を雨空から降らすから

“キャ~!”

「……大好きなえりちが、ウソツキって言うてるよ。はよ、助けに行ってあげて。きっと抱き付かれるわ」
「か、からかわないでください」
「ええの?えりちがほかの誰かに抱き付いて」


……

「……仕方ありません」
「そやね。んじゃ、よろしく」
薄暗闇でも平気そうな希は、満足げに部室を出て行く。絵里を助けに行けばいいのに、なんて思いながらも、なんだか希に抱き付く絵里を想像して、胸のあたりが、かゆいような痛いような。

「ラブ・ソングなんて、む、無理ですからね!」

また、ピカッ!ドン!と響く。

“誰か~誰か~”という絵里の声が耳に届いた。



「………違います、ただ、絵里は、絵里のことは、気になるだけです」
誰に言い訳をしているのかわからない。
海未は鞄に何も書けなかったノートをしまい、携帯電話の光を手にして、急いで声のする方へと向かった。


「絵里」
「う、海未!!!」
「どうしたんですか?暗いところが怖いのですか?」
廊下でうずくまっていた絵里が、海未を見つけて小さい子供みたいなしょげた顔のまま、両腕を広げて、きつく抱き付いてくる。



ほわりと身体を包み込んだ、絵里の体温
暖かくて柔らかいのに



心臓のあたりがなぜかとても痛くて



これをたとえば恋だとするのなら
どんな言葉を並べればいいかなんて
まったくもって浮かんでこない

もう、本当に真っ白になってしまう


ラブ・ソングなんて
やっぱり書けない

この心地がいいような悪いような
絵里から感じる温度を
海未の身体を震わす痛みを
言葉にしようがない



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Date:2015/06/27
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