【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑩

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑩


「説明してよ!」
「………えりち、落ち着き」
「そうよ、絵里。真姫が悪いわけじゃないわよ」
真姫の家に海未を運んで、出勤する前のパパを捕まえて診察をしてもらった。治療とかお薬も必要なくて、とにかく2~3日は運動しないで休養した方がいいらしい。とりあえずホッとしたのは3人だけで、エリーはずっと取り乱したまま。
学校に行くにしても、真姫の部屋で眠ったままの海未を置いて行くわけにもいかず、ママにお友達が心配なら、休んでもいいと言われたので、真姫はひとまず残ることにしたのだけれど。
「海未が倒れた理由を知っているのでしょう?!」
「えりち、落ち着きって。ここは人んちやねんから」
真姫は海未がこうなった理由を話そうかと思ったけれど、ニコちゃんが何か視線を送って、真姫からは言わなくていいと、訴えてきている。
「絵里が悪いんじゃないの?っていうか、原因は絵里しかないでしょう?あんたちょっと前から、海未への態度が悪いし」
「態度ですって?」
「いつもの、海未~~♪海未~~♪ってやつもしなくなったじゃない。何があったのかを説明するべきは、真姫でも海未でもなくて、絵里でしょ。大体、あんたが勝手に好きになって、一方的に恋してることをはっきり言わない癖に、喜怒哀楽を全部態度に出して、恋愛経験ゼロの海未を振り回しているようにしか見えないんだけど」
ニコちゃんは、どこまで知っているのかなって思ったけれど、海未がエリーはμ’sのメンバーの誰かに恋をしていると勘違いをしていることとか、真姫が恋愛指南の小説に殺人事件やら自殺してしまうものをセレクトしたこととか、そういうことよりも、結局はエリーの態度に問題があるって言いたいんだと思う。


海未が恋する感情をまったくわからないっていうことも、十分に問題があるんだけど。


「何よ!海未が鈍感で恋なんて全然わからない子なんだから、仕方ないでしょ?」
「はぁ?仕方ない?何がどう仕方ないのよ?仕方ないって思うのなら、さっさと諦めて、普通に仲間として海未に接しなさいよ。尻尾振ってベタベタと懐いていたくせに、突然ツンツンしたりするから、海未が変な勘違いを起こしたんじゃないの?絵里が悪いわよ」
腕を組んで、いつになく攻撃的。エリーに対等にものが言えるニコちゃんって、普段は見ないから何となく新鮮。
「………真姫ちゃん、海未ちゃんに何があったん?」
「希、真姫は関係ないでしょ」
きっと、1年の真姫をかばってくれているんだろう。
「えぇやん。海未ちゃんと遅れてきた日に何かあったんやろ?本がどうとか」
エリーと眠る海未を何度も見比べてみる。気を失っている方は、眉間にしわを寄せたまま。変な夢を見ていなければいいけれど。希はエリーに話した方がいいって思ってる。真姫もそう思う。
「海未は勘違いしてるみたい。エリーが、μ'sのメンバーの“誰か”を好きに違いないって。あ、もちろん海未は自分だとは全く気が付いていなくて。それで、エリーが海未に対してそっけない態度を取るのは、自分がエリーの気持ちを傷つけるような発言をしたせいだろうって。恋に否定的なことを言ったせいだって。だから、人を好きになる感情を勉強して、エリーの友達としてエリーの気持ちをわかるようになりたいって」


でも、仲良しのメンバーが自分のことを好きだなんて
そう言うことをわかるなんて、普通にあるんだろうかって思う

それってある意味、“自惚れ”ってやつで
どれだけあからさまな態度だったとしても
”まさか、自分ではない“って思うだろうし
だから、エリーが誰かに恋をしているようだと思うこと自体は
致し方がないことなのかな、って

「何…何それ、なんでそうなるの」
それは、園田海未だからでしょ。
心の中で突っ込みながら、真姫は髪をいじってそっぽ向いた。

って言うか関係ないし。

いや、本を選んだのは真姫だけど。

「えりちが悪いんかもなぁ。海未ちゃんが告白されたことに嫉妬なんてするから」
「そうよ、絵里がはっきりと、海未に向かって自分の気持ちを伝えないからよ。そのくせギャーギャーうるさいし」
「大体、えりち、海未ちゃんと、どないかなりたいん?」
「っていうか、海未が可愛そう」
この2人、応援したいのか諦めさせたいのか、どっちなのだろうか。顔を真っ赤にしながらも、言い返せないでワナワナしている生徒会長様っていうのも、珍しい。
「し、し、仕方ないでしょう!」
「とにかく、えりちが悪いんや。まぁ、こうなってしまったんは、海未ちゃんが真面目すぎて、間違えた方向へ向かったって言うのもあるけれど、えりちのために一生懸命“恋心”を学ぼうとした結果なんやから」
「…………まぁ、そうよね。海未は本当、真剣にエリーの気持ちを理解しようとしていたんだと思う」
そして、ものすごく真剣に読み過ぎて、とんでもない方向へ飛躍していった。
「どうするのよ、絵里。あんた、海未の誤解を解かないとダメよ」
スカートをぎゅっと握り締めたエリーはじっとうつむいて唇を噛んでいる。
「エリー、少なくとも、エリーがμ’sの誰かを好きだっていうの、それが海未以外の誰かだっていう誤解だけでも解くべきだと思う。海未だって、それが誰なのかって言うことに、今度は悩まされるかもしれないし」
1人1人事情聴取なんかして。殺したり殺されたり、自殺したり、薬飲んだり、そういうことをしないように、なんて勝手に妄想繰り広げて語り始めそうだし。
「…………何よ、3人とも、海未に告白をしろって言いたいわけ?」
「そうちゃうって。だから、えりちはどうしたいん?そりゃ、可愛がるところから始めたらええって言ったけど、えりち、もう、それじゃ気が済まないんやろ?海未ちゃんが誰かに告白されたりするのが嫌で、拗ねて見せたりして。うちは、えりちのしたいようにすればいいと思うんやけど、海未ちゃんがこんな風になってしまうんやったら、青春やねって笑ってみてるわけにもいかんし。えりちだって、こんな風に海未ちゃんを傷つけたいんちゃうやろ?」


海未が作ってくる歌詞の中で使われる“青春”は
甘酸っぱい恋の感情なんて1mmとして入っていない
真姫は突っ込みたい衝動に駆られた


「………何が恋心について勉強する、よ。本を読むことは全然勉強じゃないのに」
海未だって、切羽詰った顔で真姫に本を選んでほしいって言ってきたんだから。必死にエリーの気持ちを理解したいって思っていたのは間違いなくて。
「もう、メンドクサイ。っていうか、意味わかんない。エリーが海未に告白して、それで終わりにしたら?文化祭もあるし、週末にもミニライブがあるんだし、海未がこんなんじゃ、穂乃果やことりたちだって気が気じゃないと思う。凛たちだって心配してる。エリーの態度がおかしいことくらい、みんな分かってるし、海未がそのことを心配していたことだって、本当はみんなも気が付いているんじゃないかと思う。エリーの態度は、ある意味普通のことかもしれないけれど、そもそも、エリーが恋している人は、全然“普通の人”じゃないんだから」
どっちの味方でもないし、応援するとかしないとか、そう言うことでもないけれど。
大切な人たちが、みんなモヤモヤしながらも何もできないで、そんな空気の中にいることは、心地がいいなんて思わない。
「真姫の言う通りかもね。絵里が勝手に傷つくのはどうでもいいけれど、わけがわかっていない海未がとんでもない方向へ突き進むのは、穂乃果たちへの影響も大きいから黙ってるつもりないし。真姫がどんな本を薦めたとしても、海未は絵里からちゃんと説明を受けなきゃ、本だろうが映画だろうが、こういう結果は変わらないと思う」
ニコちゃんはやっぱりいつになく真剣で、エリーに対して厳しい。でも多分、真姫をかばってくれているんだと思う。
「………告白するんもせーへんのも、えりちの自由や。でも、えりち、本当の本当にどうしたいん?少なくとも、間違えていたとはいえ、海未ちゃんはえりちの恋心っていうものについては真剣に向き合おうとしてるんやで?えりちは?えりちはどうするん?」
とても優しい希の声。

しんと静まり返る部屋には、涙をこらえようと、肩を震わせているエリーの啜り声だけ。

「真姫、途中からだけど学校に行くわよ。昼休みの練習だってあるし。私は先生や理事長に、部活動の練習中に海未が倒れたことを報告するわ。生徒会長が面倒看てるってことでいいでしょ。絵里、責任もって海未が起きたら家まで送りなさいよ」
「……そやな。真姫ちゃん、ごめんやけど、えりちだけ置いてもいいかな?」
「別に、いいけど」
“泣かないで”なんて慰める言葉もかけられないし、エリーだってそっとして欲しいに違いない。真姫はママに話をしておくと伝え、希とニコちゃんと一緒に部屋を後にした。



「ニコっち、悪代官やったな」
「別に~~。たぶん、絵里って自分が相当海未にはまってることをわかってないのよ。人に言われて、こんな風に問題が起こって、やっと、どうしようもないところまで来ていることに気が付いたんでしょ」
「……どうやろね。ニコっちも放っておけないんやろ?」
「っていうか、アイドルとしての自覚なさすぎ~」
アイドルは恋愛禁止なのに。なんて、何を言ってるんだか。
でも、上級生らしいニコちゃんの姿はカッコいいってちょっと思った。

ちょっとだけ。

「エリー、どうするのかしら?」
「さぁ、どうやろ。μ’sやめるとか言いだすことはないとは思うんやけど。海未ちゃんはきっと、大真面目に考えてくれると思うし」
「それで、また倒れたりしたらどうすんのよ。微妙な空気はチームワークを乱すから、さっさとどうにかして欲しいんだけど」
「それもそうやけどなぁ………」

恋心だけは他人がどうにかできるものじゃない

たぶん、真姫以外の2人の頭の中も同じセリフが浮かんだんだろうけれど、言葉を紡げなくて。

いつもより遅い時間の登校。
2時間目が終わったころに教室に入ると、凛と花陽が心配そうな顔で見つめてくる。
携帯電話には、穂乃果たちから海未を心配する内容のメールが入っていて、一斉に大丈夫だからって送った。でも、やっぱり心配なんだろう。


応援するとかしないとか
真姫には正直分からない
海未には元気になってもらいたいし
エリーだって、あんなしょげた顔でいつまでもいて欲しいわけじゃない

海未は幼馴染の2人は別として
エリーに懐いている
いつもエリーが“海未~!”って可愛がっていることを、嬉しそうな顔で受け取っている
真姫の目にはそう映る
他のみんなとは違う表情をしている様に見える
そう思っていた

だけどそれは、エリーが海未を好きだっていうのがわかっているから
そういう風に見えていただけなのかもしれない

だったら真姫が海未にとって、余計なおせっかいを焼いたことにならないだろうか


「海未ちゃん、大丈夫?」
「あぁ、うん。海未は寝不足だって。今日明日の練習はやめて、しっかり寝たら大丈夫」
「そっか。海未ちゃんはいつも朝練の前にもお家のお稽古をしてるみたいだし、学校から帰ってからも、日舞や剣道のお稽古があるみたいだから、私たちよりもずっと忙しいもんね」
花陽は大事に至らなかったことにホッとして、真面目な海未が本当はμ’sを両立させていることがキツイのかなって呟いた。
「どうかしら。無理なら無理って言うと思うんだけど」
「でも、やるって決めたら突き進む人っぽいし」
「……そうねぇ、まぁ、エリーたちには伝えておくわ。ことりたちだって、海未ちゃんのことよく知ってるし。見守りましょう」
いつだったか、海未は朝、4時半に起きていると聞いたことがある。イベント前なんかに朝練の時間を早めたりしたときに、馴れているって言わんばかりに話をしていた。でも、朝練の前に道場で練習をしてから、朝練でも階段ダッシュを繰り返し、昼休みもダンスレッスン、放課後もレッスン。帰ってからもまた、道場に籠って。でも、ちゃんと、机に向かう時間も設けていそうだし。そんなクタクタなのに、寝ずに本を読んだら、あぁなるのは当然。

海未はそもそも、恋愛事に時間を費やす暇すらないような気がする
だとしたら、エリーが好きだと伝えたところで、何ができるのかなって


「……メンドクサイ。私は関係ないし」
「どうしたの、真姫ちゃん」
「別に、何でもない」
どっちの味方でもないし、手助けするつもりもないし
応援しないわけじゃないけれど、するつもりもないし
できることもないし

エリーの考えていることは態度に出ているし、まぁまぁわかるけれど
海未がどうしたいのかは、やっぱりよくわからない
彼女が恋をしたいと望んでいるかどうか、それはクラスメイトの噂を聞く限りでは
どうやらそうでもないかもしれない

でも、それは断わる適当な理由にしているだけって言うこともある

「………まったくもう、意味わかんない」

どうして、あれこれ真姫が考えなきゃいけないの。
ため息ついて、肘をついて。
授業が始まるベルを聞きながら、海未はまだ寝ているかな、なんてことを考えていた。




関連記事

*    *    *

Information

Date:2015/06/29
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/581-ebf81f0e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)