【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑪

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑪

「………あの、本当にすみませんでした」
「もうそれ、10回以上聞いたし、海未が悪いっていうわけじゃないから。それ以上は言わなくていいって」
もぅ大丈夫だという言葉を無視して、海未と自分の鞄を持ち、彼女の手を取った。お昼前に目を覚ました海未は、しばらく状況がわかっていなくて、倒れたと言うことも自覚していないようだった。状況を説明すると、ベッドからおずおずと降りて、土下座をされてしまって、本当なら絵里がそうするべきなのに、ひたすら迷惑をかけたことを詫びられた。真姫のお母さんにも手をついて謝罪しっぱなしで、後日改めて詫びに来るなんて言って。
それに絵里も付き合うつもりでいるけれど、この、海未の落ち込んだ様子がいたたまれない。
「………絵里、もう私は大丈夫ですので」
「送るってば」
「いえ、学校に行きます」
「ダメよ。今日はもう、寝ていた方がいいわ」
「ですが、もう大丈夫です。少し寝不足だっただけで、十分睡眠を取りましたし、こんな時間に帰れば、母に心配されてしまいます」
手を引いて歩いていると、抵抗するように止まろうとする。絵里は一度足を止めて振り向いた。意志の強い瞳がじっと絵里を捉えて離さない。
「ダメ。学校に行ったら、今度はみんなが心配するわ。今日はおとなしく寝て。あなただって、穂乃果が倒れたりしら、一日ゆっくりして欲しいって思うでしょう?」
想像しているのか、瞳が左右に弱弱しく揺れる。絵里から逸らされた視線が何を考えているのかよくわかる。
「………わかりました」
「この時間に家に帰りにくいのなら、うちに来なさい」
「絵里の?」
「亜里沙と2人暮らしだから、親もいないのよ」
「ですが」
「ほら」
海未の手は冷たい。剣道や弓道で鍛えた指の力はとても強くて、マメがいくつかできて何度もつぶれたりめくれたりしたんだろうなって思う。指の腹が所々ザラザラとしていて、それでも爪はとても綺麗にそろえてある。
何もない振りをして、何度も手を繋いでいた。

冗談で
気安く
たわいなく

そんなふりをして

「………絵里に迷惑は」
「海未、しつこい。黙って私の言うことを聞きなさいってば!」
歩いている間も、ずっと海未は相変わらず抵抗を続けるから、絵里はきつく言い放った。こんな風に海未に言葉を放つなんて、まずしない。小さく身体を震わせた後、しょげた耳が見えるように、明らかに落ち込んだ顔をする。
可愛いって思うけれど、やっぱり、たぶん罪悪感がある。
海未が倒れたのは、絵里のせいだから。
「わかりました」
「………こっちよ」

絵里は

海未を、どうしたいの
海未に、どうして欲しいの
海未と、どうしたいの



言うことを聞けと強く言い放ったからか、海未はおとなしく絵里に従ってくれた。ありあわせのもので作ったランチを食べさせて、絵里のベッドに連れて行くと、おずおずと蒲団の中に入ってくれる。会話らしい会話をせずに、ずっとうつむいたまま。
「………夕方まで、寝てて」
「もう、眠たくはないですし平気なのですが、私がここで眠れば、それで、絵里は満足してくれますか?」
「心配なのよ」
「それは、わかってます」
好きな人が絵里の部屋にいて、絵里の部屋着でベッドにいて、それでも何か空気は重たくて。
全部、絵里が招いたことなんだって言うのは、希やニコが言う通りなのだろう。
海未を振り回しているんだって。
海未の知らない間に。
絵里が望んだことじゃないのに。
「ごめんね、海未」
「いえ、絵里は生徒会長として、私のことを面倒看る責任を負ってのことでしょうから」
海未の傍にいるのは
海未を好きだからで
海未をこんな風にしてしまったのも絵里で
「えっと、それは違う。その、生徒会長がどうとか、そう言うことじゃないわよ。心配だからに決まってるでしょう?」
「……はい」
ベッドサイドに腰を下ろして、ひんやりした頬を撫でる。
ドキドキと鳴る胸がズキズキと痛い。
「絵里」
「な、何?」
「……なぜ私が倒れたのか、やっと今、思い出したのですが」
「う、うわ。あ、あえて触れなかったんだけど」


ズキズキ
ズキズキ


海未はゆっくりと起き上り、少しだけ乱れた髪を指先でさらりと梳いた。その姿さえ可愛いって思ってしまうから、そんな自分が馬鹿みたいで嫌いになりそう。
「絵里の気持ちを一生懸命考えてみようとしましたが、私はどうやら、絵里の友人としての役目を果たせそうにありません」


“違う”っていう言葉が喉を通らなくて
海未の言葉は告白をしていないのに振られたんだって思えてきて
それに、そもそも海未には恋なんて“そんなもの”でしかなくて

「……う…み。あ、あのね、違うの」

でも、“誰か”を好きなのではなくて、”海未“が好き
それだけでも言ってしまえたら


“えりちはどうしたいん?”
希が問いかけてくる声がする

「すみません、絵里。私はどんな本を読んでも、恋という情に駆られて人を殺めたり、自殺したり、家を捨てたり、遠くへ逃げようとしたりする感情は……よく、わかりません。絵里がμ’sの誰を好きであっても、おそらくその“誰か”もそんなことを絵里に望まないことは確かでしょう」
「海未、ちょっと待って、それは違うから」
「こ、恋というものは、もっと明るくて楽しいのかと思っていましたが、その、やはり人を殺めたりするほどの感情というものは、絵里には似合わないと思います」
「だから、そんなことしないわよ」
「できれば、絵里にはいつも笑っていてもらいたいのです。なので、差支えないようでしたら、その、え、絵里が好きな人が誰なのかを教えていただければ、その、私が何とか、その…その“誰か”に頭を下げて、絵里と幸せで安泰なお付き合いをしていただくように、お願いしてみます。穂乃果やことりなら、今すぐにでも!1年生ならお安い御用です。ただ、希やニコだと、私が頭を下げても了解が得られるかどうか……」

もうやだ
何なのよ、この子

どうしてそんなことを、真剣な顔で言えるのかがわからない
当たり前のように海未を外して考えるのかがわからない


わからない


“えりちはどうしたいん?”

わからない


絵里は顔を両手で覆って、ベッドに突っ伏した。
「え、絵里?どうしました?私は間違えたことを言っていますか?」
「言ってるに決まってるでしょ!海未は私が誰を好きなのか、言えって言ってるのよ?意味わかってんの?」
「え?…い、意味ですか?そもそも、私は勝手にμ’sのメンバーだと思っていたのですが、では、それはやはり、間違いないということでよろしいのですか?」
「………あ~!!!あ~~~~~もぅ!!!!」
真姫からの事前情報のせいか、否定することをすっかり忘れていた。
海未が眠っている間に考えていたことと言えば、絵里が誰かを好きだと言うことそのものが、海未の勘違いだって話して、なかったことにしてしまえ、っていうプランだったのに。
「絵里、どうなんですか?」
人が落ち込んだり焦ったりしているのに
全然わからないんだから


海未は本当に馬鹿で馬鹿で天然馬鹿で
いや、馬鹿っていうか度を超えた真面目っていうか



“絵里がはっきりと、海未に向かって自分の気持ちを伝えないからよ。そのくせギャーギャーうるさいし”

ニコのセリフがよみがえって来て、ちょっとイラっとしてしまう。

「絵里?」

“えりちはどうしたいん?”

「もぅ!私の好きな人は海未なの!μ’sのメンバーである園田海未のことなのよ!海未が私に興味がなくても、私は海未が好きなんだってば!好きなんだから、仕方ないでしょうが!」




……
………
…………あっ




壁にかかっている時計の秒針がカチカチと音を立てる
その音と、自分の心臓が爆発してとてつもないスピードで血を全身に巡らせる音と
ぽかんとした海未の顔


「絵里、……わ、私はえっと、その、なぜ、怒られているのです…か?」
「わかんないわよ!」
「わ、わからないのですか?絵里自身のことじゃないのですか?」
「っていうか、海未、今の状況わかってるの?私があなたに告白してるっていうこの状況!」


なんでこんな、怒った声を出しているのって思いながらも
勢いよく全身を流れる血がバクバクと心臓を鳴らして、冷静なんてどこか遠くへ捨て去っていて

アドレナリンが過剰に分泌されている。




……
………


「え………え、…え?……えっと、それはつまり、絵里が私に告白をしている?」
つまりもなにも、今そう言ったのに。
「そうよ」
「な、なぜなのです?」
「なぜかしら。私が知りたい」


……

「………えっと、どうやら私はまだ、具合が悪いのでしょうか?」
「か、かもしれないわね」
「私は夢、見てますか?」
なぜ、絵里に聞くの
「自分のことでしょう?」
「ですが、絵里だって自分のことを分かっていないのでしょう?」

告白って、こういうやり取りをするものかしら
いや、絶対ない
ありえないんだけど


「……海未が好きだっていうことは、結構、前からわかっていたし、今、海未に好きだって言ってしまったこともわかってるけれど、海未が今、何を考えているかはわからないわ」
キョトンとした表情が、秒針の音と同じようにじわじわと赤くなっていく。
そのわかりやすい様子を見ながら、だんだんと自分の熱も湯気が出るような気がしてきた。


「え、え、え、え、え、えっと、その、わ、わ、え、ど、ど………ひぃぃぃっ!!!!」

叫ばれたかと思えば、海未はがばっと蒲団に頭を隠してしまって。

「………な、なし!今の!なし!海未は夢見ているのよ!夢よ!これは夢!」

完全に甲羅の中に閉じこもってしまった海未に、慌てて声をかけたところで、出てくる気配はない。

5分、10分、30分経っても全く出てくる気配がない


「海未……海未って、ごめん。ね、海未……海未?」

ひたすら呼んでみても
あえて、ずっと声を殺して耐えてみても

甲羅から頭が出てくる気配はなかった。


………どうして、こんな風になってしまったの。



「うーみ~う~み~~……」

泣きたくなってきた。




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Date:2015/06/30
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