【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑫

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑫

「ゲット!」
「ひゃ~!」
「うーん、流石、いいおっぱいやな」
「ぅう~希ちゃん……」
甘ったるい声で悲鳴をあげたことりちゃんの背後から胸を掴んだ希は、にっこりとほほ笑んで見せた。
「ことりちゃん、海未ちゃんを迎えに行かへん?」
「え~!行きたい。でも、いいの?ニコちゃんが、今日は絵里ちゃんに任せた方がいいって」
「うーん、そうなんやけど、SOSっていう暗号だけが送られてきたんよ」
放課後、えりちも海未ちゃんもいないし、週末のイベントは今までやった曲をやるから、取りあえずは自主練って言うことになった。穂乃果ちゃんとことりちゃんは幼馴染なわけで、当然、海未ちゃんをお見舞いに行く気でいたみたいだけど、それを見越して早々ニコっちが手を打っていた。何もするな、そっとしておけ、って。彼女たちの幼馴染の友情になんて誰も割って入れないし、いくらニコっちがそう言ったところで、行くものは行くだろうと思っていたけれど、ことりちゃんは素直にうなずいて、文句を言う穂乃果ちゃんを満面の笑みで黙らせたのだ。
「SOS?海未ちゃんから希ちゃんに?」
「いやいや~、えりちから。それでさぁ、ことりちゃん。穂乃果ちゃんにはシーって、できるかな?」
その名の通り、可愛らしい小鳥のような瞳がぱちぱち瞬きを繰り返して、じっと希を見つめてくる。
「………わかった、言わないでいるね」
「うーん、ことりちゃんはいい子やね」
「胸、揉まないで~~」
ニコっちは真姫ちゃんたち1年生と穂乃果ちゃんを歌の練習に引っ張り込むって言っていたから、海未ちゃんを心配して押し寄せるなんて言うことも大丈夫そう。えりちの家にいるっていうことは知らないだろうし。
希はことりちゃんの手を引いて、SOS発信場所へと向かうことにした。

SOSって

どういう意味なんだろうか。



「………何があったんや」
チャイムを鳴らしても、名前を呼んでみても、えりちは出てこない。鍵は空いているみたいで覗き込んだら、2人分の靴が並べられていたから、中にいるらしい。
ことりちゃんと無言で見つめ合って、そっと部屋に入った。リビングには誰もいなくて、何度か入ったことのあるえりちの部屋をノックして、まさか覗いてはいけない展開になんてなっていたら、とか思いながらも扉を開けてみた。
「えりち?えりち?どないしたん?」
「………あれは、海未ちゃん?」
えりちが部屋の端っこで体操座りをして、この世の終わりみたいな影を背負っている。
ことりちゃんは、部屋のベッドの中にいるらしい蒲団の山を指さした。
「えっと、どうしたの?あの、状況がわかんない……海未ちゃんと絵里ちゃんに何かあったのかな?」
「そうみたいやね」
殺人現場とまではいかないけれど、えりちがうずくまって動かないなんて。

振られた、とか。
それで、振った側はまた、どうして蒲団の中にうずくまっているのだろうか。
何か、いけないことをしてしまった、とか?

「る~~るるる~~~、海未ちゃ~~ん~~。ことりだよ~~」
動物をあやすような声で、ことりちゃんは蒲団の中に手を伸ばした。
「海未ちゃ~ん、迎えに来たよ~~~。お家帰ろうよ~~」

る~~る~~るる~~

キツネ呼ぶ人みたい。
内心思いながらも、幼馴染の扱いになれているような感じで、ことりちゃんは姿の見えない海未ちゃんを釣るように、蒲団に片腕を突っ込んでいる。

「海未ちゃ~ん」

“ことり”

蒲団の中から声がした。ぱっと明るい表情になったことりちゃんは、獲物がかかったことを知らせてくれる。
「海未ちゃん、もう、体調はよくなった?沢山寝た?」
今度は蒲団の中に顔を入れたことりちゃんが、チュンチュンって言わんばかりに、ご機嫌を取っている。
なんかもう、見ているだけで可愛い。モゾモゾと蒲団の中にもぐっていくことりちゃんの様子が微笑ましくて。かたや、えりちはずっとまだ、体操座りで顔も隠れたまま。
「海未ちゃん~~捕まえた~~~」
ことりちゃんの背中から☆とか♪とかいっぱいマークが飛んでいるように見えてきた。
「くすぐったいです、ことり」
「海未ちゃん、もう元気~~~?」
「げ、元気です」
「じゃぁ、ハンバーガー食べて帰る?」
「……そうします」
「うん!あと、今日、海未ちゃんのお家に泊まってもいい?」
「いいですよ」
「やったぁ~!」
希は泊まるの?と突っ込みたかったけれど、ここはまず海未ちゃんを引っ張り出すことが一番だって、ことりちゃんが考えたのならばそれが正解と言うことなのだろう。
なぜこんなことになっているのかは、えりちに聞けばいいけれど。
「えりち」
反応はない。
「海未ちゃん出てきたよ~~」
ことりちゃんが引っ張り出してきた海未ちゃんは、何か顔がほんのりと赤くて、それでいてものすごく気まずそうで、ついでにえりちの部屋着だった。
「お、出てきた」
「の…希もいたんですか……」
「おったよ」
「………そ、そうですか」
「もう、身体は大丈夫なん?」
「は、はい。その……ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」
「ええんよ。えりちが悪いんやろ?」
えりちの名前を出した瞬間、ほんのりで済んでいた頬っぺたが、勢いよく真っ赤になっていく。
「えっと……海未ちゃん!ことりと帰ろう!」
もう一度蒲団の中に入りかねない、そんな海未ちゃんの腕を掴んで放していなかったことりちゃんは、ベッドから引きずり下ろして満面の笑顔で、有無を言わさずと言った感じ。
なんていうか、海未ちゃんの扱いに本当によく馴れている。

もしかしたらことりちゃんには、この状況だけでえりちと海未ちゃんの間に何かあったっていうのがわかったのかな、って言う期待もできそう。

「……ことり」
「海未ちゃん、早く服を着替えて」
お母さんみたい。って、こっちはこっちで、何とかしないといけなかった。
「えりち、海未ちゃん起きたよ」
「………海未?」
こっちは顔じゃなくて、目が真っ赤になってる。

振られた?
なんて、今は聞かない。

「………えりち、海未ちゃんはことりちゃんとお家帰るって。それでええよな?」
着替えるって言ってるから、部屋を出ようって手を取ると、この世の終わりみたいな表情で見上げられて。

あぁ
これは振られたに違いない
可愛そうなえりち


「……」
「……」
「……」
「……絵里ちゃん、海未ちゃんのことを傷つけたら、私が許さないよ?」
気まずい空気が5秒くらい流れたあと、ことりちゃんが海未ちゃんをぎゅっと抱きしめて、えりちに向かって唇を尖らせて見せた。
「……別に、そんなつもりじゃなかったんだけど」
抱きしめられている海未ちゃんは、ことりちゃんの胸に顔をずっと埋めたまま。えりちは2人を見つめて、それからいたたまれないと言わんばかりの表情。
「海未……ごめん……さっきのは、なかったことにして。その、驚かせるつもりとか、怖がらせるつもりとかじゃなくて。でも、……ごめん」
海未ちゃんをいきなり襲ったりしたなんてこと、あるのだろうか。
まさか、それは流石に。
真っ赤に瞼を腫らせたえりちがどんよりと部屋を出て行く。希はえりちを追いかけた。


「ことりちゃんに海未ちゃんを任せようと思ってんけど、いいやんな?」
「……1時間以上、声掛けても出てこなかったのに、ことりなら5分もしなかったわ。私じゃ無理ってことでしょう?」
服を着替えて出てきた海未ちゃんは、ことりちゃんの背中に隠れたまま。
「気を付けて帰ってな」
「はーい。海未ちゃん、行こう」
親子みたいな密着。顔を隠している海未ちゃんを、えりちは心配そうに見つめていて、それでも言葉を発することができ無いようで。
「…………海未、………ごめんね」
絞り出すように呟かれた言葉は、海未ちゃんの背中に力なく触れる程度にしか届いていない。
その言葉に応えるように、海未ちゃんはちらりと振り返って、必死になって首を横に振ってみせると、すぐにことりちゃんにぴったり張り付いたまま、マンションを出て行った。
「えりち」
「…………好きって言ったら、悲鳴あげられちゃった。びっくりしすぎたみたい」
「あぁ、それであんな風になったんや」
ソファーがあるにもかかわらず、えりちは廊下で力なさげにぺたんとしゃがみ込んでしまった。希も同じようにしゃがみ込んで、ぼんやりと玄関を眺めている、その赤くなった瞳の親友の頭を撫でる。
「でも、言いたかったことは言えたし……」
「海未ちゃんは、そのことの返事はしてくれへんかったん」
「悲鳴あげて、蒲団かぶったまま何時間も出てこなかったのよ。答えを聞くまでもないわよ。……嫌われたわ」
「そうやろか?確かめた方がいいよ。今はあの様子やけど、落ち着きを取り戻したときに、聞いたらいいやん」
えりちは頬に落とすことをずっと耐えていた雫の粒を、ポタポタとこぼし始めた。
「えりち」
幼稚園児みたいに泣きじゃくり始めた親友は、希の想像以上に海未ちゃんのことが大好きで、叶わなかったからこそ、もっとその気持ちが湧き出て溢れて、どうしようもなくなってしまったのかもしれない。
「よしよし、えりちはがんばったんや。でも、まだスタート地点でピストル鳴っただけや」
嫌だとか無理だとか、破廉恥!気持ち悪い!なんて言われたわけでもなく、ただ蒲団の中に逃げただけの海未ちゃんならば、何も失っていないだろう。
後輩たちから恋心を渡されても、毎回丁寧にお断りする。えりちにそうやって清々しいまでのお断り対応を取れなかったのは、相手が絢瀬絵里だからで、よく知っている人で、そういう経験がなかったからだろう。
言葉さえ出せなくなるほど、嗚咽と涙を漏らす親友の頬を撫でて、きつく抱きしめた。





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Date:2015/07/05
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