【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑬

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑬

「………ことり」
「ん~?なぁに、海未ちゃん」
ぼんやりとしたままの幼馴染は、一緒にお風呂に入って、髪を乾かしてあげて、枕を並べても、目を合わせてくれることはなかった。こういうことは今までだって何度かあった。ほとんどが穂乃果ちゃんと喧嘩をした時で、ことりはそうなったらいつも、海未ちゃんの家に一泊して、何も会話をしなくても一緒に傍にいる。穂乃果ちゃんと違って、落ち込み方が人よりも数倍激しい海未ちゃんは、放っておいたら別の世界にまっしぐらに転げ落ちてしまう子だから。
「…………ことり、心配をかけてすみませんでした」
「大丈夫だよ」
ぼんやりと天井を眺めている海未ちゃんは、何を考えているのだろう。
ことりにはわからないし、海未ちゃんから言ってもらわないと、何もできることがない。
だから、隣にいる
絵里ちゃんと何かあったのかって、喉のすぐそばまで来ているけれど、ことりに何も相談をしてくれないのなら、それも仕方がない。
「…………明日はちゃんと、練習に出ます」
「海未ちゃんが大丈夫って思うなら」
「大丈夫です。今日、練習できませんでしたから。明後日の本番で失敗は許されません」
「………うん」
真面目だなぁ、本当に。
「………ことり……」
「なぁに、海未ちゃん」
海未ちゃんのベッドで枕を並べて眠る。ずっと小さい頃から、よくこうやってお泊りしていた。ドキドキとか胸が高鳴るとかそう言うのじゃなくて、それが自然で。穂乃果ちゃんと3人でいつも並んで歩いていて。
同じ場所から同じ景色をいつも見てきた。
「……………人を好きになるって…恋をするって………どういう気持ちなのですか」
海未ちゃんがまさか、一番先に恋とか好きっていうものに触れるなんて、夢にも思わなくて。
3人の中では、圧倒的に人から告白される回数は多いって知っている。でも、海未ちゃんがそれに応えることをしない人だっていうこともわかっていて、だから安心もしていた。
ずっと、3人で一緒にいられるって。


「きっと…優しい気持ち、じゃないかな」


あぁ 絵里ちゃんなんだ


海未ちゃんはいつも、絵里ちゃんが挨拶をすると嬉しそうに笑っていた
絵里ちゃんが”海未“って名前を呼ぶたびに、柔らかい笑顔になる
絵里ちゃんが隣に座ると少し瞳の色が変わる
絵里ちゃんの隣が空いていたら、当然のように座っている
海未ちゃんが無意識にそう言うことをしていたことを、ことりは気が付いていた。
絵里ちゃんがμ’sに入ってからすぐ、もしかしたら入る前から海未ちゃんは絵里ちゃんを気にしていたのかもしれない。
好きなの?って、聞いてみたいって思ったことは何度もある。でも、意識していない海未ちゃんは、なんていうか隣で笑っていることが凄く楽しそうで、余計なことを言った瞬間、意識しすぎて何もできなくなってしまうんじゃないかって思うと、見てみぬ振りをしておくしかないかなって、それが海未ちゃんのためにできる友達としての役目なのかなって、そう思ってた。

「…優しい、……ですか」
咄嗟に出た言葉が、答えとして適切だったのかなんてわからない。
「海未ちゃん?」
「……いろんな本を読んでみたのですが、恋とか好きって言う気持ちが苦しくて、誰かを殺めたり自殺したりして……それは優しいって言う感情なのですか?」
「本はフィクションだよ。真に受けちゃダメだよ。それにそれは間違いだって読む人に想ってもらうためのものだよ」
そう言えば、朝、絵里ちゃんに向かって、死ぬなとか殺すなとか叫んでたっけ。
机の上に並べてある小説のタイトルをさっきちらっと見て、ことりはようやく話が見えてきたかも、って思えた。
「……では、恋をするということは、優しい想いなのですか?」
「私はそう思う。でも人それぞれだから。海未ちゃんは?海未ちゃんはどう思うの?」
海未ちゃんと、明かりを消したベッドでこんなことを話すなんて。
いつもお休み3秒の海未ちゃんなのに。
「…………わかりません。その、私には…その、恋だなんて…」
「でも、いつまでもわからないって逃げていたら、両想いの人とかだったりしたら、もったいないよ?」
真っ暗でも、海未ちゃんの顔は赤いんだろうなってわかる。天井を見上げていた真っ直ぐな姿勢だったけれど、ことりに縋り付くように抱き付いてきて。
あぁ、ちょっと可愛い。
「優しいって………好きって…何ですか?後輩たちに手紙をもらったり、好きだと言われたりしても、こんなに呼吸がしづらいなんてことはありませんでした。応えられない申し訳ない気持ちはありましたが、よくわからない息苦しさを覚えるようなことはありませんでした。でもっ………でもっ……」


それは、海未ちゃんが絵里ちゃんを好きだからだよ


「……海未ちゃん、何かあったの?」
小さく身体を震わせている、大切な幼馴染。
真面目で几帳面で真っ直ぐな海ちゃんは、人見知りで、恥ずかしがり屋さんで、それでいて、嘘が吐けなくて。
「……絵里が……絵里が……私を…」
「え?絵里ちゃんが、海未ちゃんに告白したの?」

絵里ちゃんも、やっぱり海未ちゃんのことが好きだったんだ。
気に入っているって言うのはわかっていたけれど、もっとそれ以上に想っていたことを、あまり観察していなかった。たぶんことりが、海未ちゃんが絵里ちゃんを好きなんだなって言うことばかり見ていたせいなのだろうけれど。
希ちゃんはきっと、絵里ちゃんの気持ちを知っている。でも、希ちゃんは海未ちゃんの気持ちを知らないかもしれない。
海未ちゃん自身が気付いていないんだから、当たり前だけど。
「…………その、声に出さないでください」
「いや、2人しかいないよ?」
「…………どう、すれば」
「返事…してないんだね」
「ど、どういう返事がよいのです?その、頭が真っ白になったって言うか、もう、何が何だかわからなくなってしまって……」
「そんなの、海未ちゃんが決めないとダメだよ」
ことりがOKって言うべきだって言えば、恋愛の知識のない海未ちゃんは、ことりに言われましたのでOKです!なんて言いに行きそうな気がする。
「……決められません」
「でも、呼吸が苦しいって……それって、海未ちゃんが絵里ちゃんのこと気になってるからでしょう?」
「そ、そ……そ、そうなのですか?」
海未ちゃん自身のことなのに。
でも、海未ちゃんがこういう人だから、ことりは傍にいられるって思う。
何もかもすべてが完璧だったら、友達だっていらなくなってしまうから。
「海未ちゃんは、いつも絵里ちゃんのことばかり見てるから、ことりは海未ちゃんは絵里ちゃんのことが好きなんだってずっと思ってたよ」

「………ま、ま、ま、待って、待ってくださいっ!!!そ、そ、そ、そんなこと、あるはずが!」
がばっと起き上がった海未ちゃんは、頭を抱えてしまっている。
ことりも身体を起こして、その艶のある髪をゆっくりと撫でた。でも、認めさせなきゃ。
「ううん、海未ちゃんは、絵里ちゃんのこと好きなんだよ。結構前から、好きなんだよ。違う?」
どんな風に絵里ちゃんが海未ちゃんに好きだって言ったのかわからないけれど、絵里ちゃんは凄く落ち込んでいたし、冗談で言ってあんな風にもならないと思う。海未ちゃんのことだから、それでびっくりして蒲団の中に隠れたに違いない。
ことりはもう、そう言うことに馴れきっているけれど、絵里ちゃん、ちょっと可愛そう。
海未ちゃんは自分の気持ちと向き合って、絵里ちゃんと向き合わなきゃいけないんだと思う。
「……ち、ちがいます」
「本当に?ことり、海未ちゃんが絵里ちゃんのことを好きだって、知ってるよ?」
「わ、わ、私は、その、確かに絵里のことは仲間として大切で、仲間として好きだし、尊敬もしています。で、ですが、その、恋などと言う感情では」
「でも、恋って言う感情のこと、知らなかっただけじゃないの?今はどう?呼吸が苦しいって思う気持ちは?絵里ちゃんを想ったら、ますます痛くなったりする?」
暗闇に馴れた視界に入ってくる、大切な幼馴染の真っ赤に染まった頬。
ただ恥ずかしくて顔を赤くした顔を、今まで何度も何度も見てきた。
そのいつもの表情とは違う
見たことのない、恋の微熱にうなされてしまった海未ちゃんが可愛くて可愛くて。
「海未ちゃん、ことりは海未ちゃんの味方だよ?でも、わからないっていうフリをしたままでいいの?絵里ちゃんは海未ちゃんのこと、好きだって言ってくれたのでしょう?」
「……………ですが……そんな…恋とか…私は…」
「海未ちゃん!」
「はいっ!」
ウジウジと熱にうなされて、それすらわからないと目を背けようとして。
わからないことだって認める素直さはあるのに、そう言うことから逃げようとするんだから。
「海未ちゃんは、絵里ちゃんに恋しちゃってるんだからね。自覚なかっただけなんだからね」
「………そんなこと」
「そんなことあるの」
言葉を選べなくなった海未ちゃんは、うなだれてしまうだけ。
「海未ちゃん、絵里ちゃんとどうしたいの?」
「…………今までと…変わらずにいたい、です」
「本当に?」
「はい」
「ことり、海未ちゃんは嘘を吐けない人って知ってるけど」

海未ちゃんの呼吸が苦しいっていう想いだけが、じんわりと伝わってくる。
少しの沈黙のあとの小さなため息が、認めるしかないと言わんばかりだった。

「ずるいです、ことり」
「ずるいのは、海未ちゃんだよ」
いつの間にか好きな人作って、恋して、両想いになったりして。
「…………どういう意味ですか?」
「穂乃果ちゃんと海未ちゃんよりも先に恋人作るつもりだったのに、ってことだよ」
“それはどういう意味ですか?”
さらに質問をしようとする海未ちゃんに抱き付いて、強引に寝かしつけた。
「お休み、海未ちゃん」
「ちょっと、ことり?」
「絵里ちゃん泣いてたから、明日、謝らないとダメだよ」
「………はい」
「あと、ちゃんと海未ちゃんが本当に想っていることを伝えないとダメなんだよ?海未ちゃんの気持ちを素直に言うんだよ?」
「………わかりました」


人を好きになる気持ちを、どうして優しい気持ちって答えてしまったのだろう。
でも、海未ちゃんに似合う言葉だって思った。

恋する気持ちっていうものが、キスしたくなったり手を繋ぎたくなったりする感情だよって言ってしまえば、本当に熱を出してしまうかもしれない。
それは、絵里ちゃんが海未ちゃんに教えてあげたらいいって思う。

ことりができることはやっぱり何もなくて
この真面目でまっすぐで、純粋で、ちょっと困ったところもあるけれど
ことりの大好きで大切な幼馴染が、絶対に自分から一歩を踏み出さないであろうことに
少しだけ背中を押してあげられたのなら

恋が、人を好きになるということが優しい気持ちを育むんだって
海未ちゃんが証明してくれたらいいなって思う




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Date:2015/07/05
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