【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑭

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑭

絵里を意識した、最初の日はいつだろう。

思い出そうとしてみたけれど、絢瀬絵里と言う生徒会長のことは、μ’sを始める前から知っていた。海未たちが1年生の時に、入学式の挨拶をしたのは彼女だ。2年生なのに生徒会長なんだ、って言う印象があったのを覚えている。落ち着いている風を装っているけれど、緊張を隠したような声、ピンと背筋を伸ばし、全員に視線を配り、丁寧な一礼。
今でも覚えていると言うことは、それだけ、何か心に残しておきたいものの一つだったのだと思う。でもそれは、肩書きの印象の方が強くて、絵里を意識した日と言うわけではない。だから、μ’sの活動に対して否定的な言動ばかり取っていた、あの頃だろう。
絵里が動画を上げた人物である、と知った日。

なぜ、そう言うことをしたのかがわからなかった。
2人で話をしても、否定的な言葉しか使ってくれなくて、どうしたら彼女を納得させられるのか。あの時、学校を廃校から救うことよりも、絵里を納得させたいと言う気持ちの方が強かったのだと思う。どうすれば、絢瀬絵里を納得させられるような、歌やダンスができるのだろう、と。しばらくそのことばかり考えていて、いてもたってもいられなくて、希を捕まえて話をした。その時に教えてもらった絵里の過去。
今もずっと、プレイヤーに入れている、バレエを踊っている少女姿の絵里。
満面の笑みで踊る姿は、海未の知っている生徒会長の綾瀬絵里ではなかった。
生き生きとした表情、今までの学校生活で、いつでも一緒にいたわけじゃないけれど、行事のたびに人前に立つ生徒会長としての彼女が、こんな風に笑顔を見せたことなんて、一度もなかった。

バレエが好きだと言う表情
人前で踊ることに、喜びを感じている表情
知らない人がそこにいた

本当にダンスが踊れる、その人がμ’sを認められないことは、当然に違いない
彼女を納得させられることなんて、到底無理
だったら、教えてもらうしかない
ダンス基礎から教えてもらわなければならない
絵里を納得させるためには、そうしなければいけない
納得してくれたら、彼女は笑ってくれるのではないか
バレエを踊っていた、あの笑みを見せてくれるのではないか

そう思った。

海未は、睨むようでいてそれでいて寂しそうな表情しか見せない、生徒会長の綾瀬絵里という人の笑顔を見てみたいと、いつの間にかそんなことを思っていた。

「うちな、えりちの友達を2年以上やってきてんけど、あんな風に笑うえりち、初めてみたんよ」
絵里が穂乃果の差し伸べた手を取ったその日、希が教えてくれた。
「穂乃果のおかげですね」
「海未ちゃんのおかげやで。えりちな、海未ちゃんにダンスを教えて欲しいって言われた時から、なんやずっとソワソワしてたし。海未ちゃんがえりちの隠し続けてきたダンスへの想いを、えりちの本当にやりたいことを見つけ出したんよ。えりちを笑顔にさせたんは、海未ちゃんや」

絵里が笑うとそれだけで、嬉しい気持ちになる。

「元々、彼女は笑える人なんですよ」
「そうやろうけれどな、えりちはメンドクサイ人やから。でも、海未ちゃんの前ではなんや、楽しそうやな」
μ’sというグループは、絵里と希が入ってやっと完成した。その中にいるみんなが、いつでも笑っていてくれたらいい。その笑顔につられて、いろんな人が興味を持ってくれて、学校が来年も生徒を募集してくれたらいい。
海未ができることは、必死に練習をすることくらいしかないだろう。


「海未、おはよう」
「おはようございます、絵里先輩」

絵里は最初から、海未を呼び捨てにしていた。それに気が付いたのはみんなで合宿に行った時に“先輩禁止”命令が出た時だった。自分たちもみんなのことを後輩ではなく、仲間として呼ぶからって言われていて、ことりや穂乃果たちのことを、絵里は“さん”を付けていたと言うことに気が付いた。いつも朝練で会えば、絵里は海未の傍に来て挨拶をしてくれていた。お昼休みも、放課後の練習も、帰るときも。
それを真姫に指摘されたことがあった。“絵里先輩って、海未先輩のこと気に入ってるみたいね”、と。きっと絵里は人見知りだから、後輩の中で会話した回数が多い自分を突破口にしているにすぎないと、答えたことは覚えている。
絵里はいつも近くにいてくれる。海未の意見を拾ってくれるし、何かと気を遣ってくれていた。
それらはすべて、1年生に絡むことを遠慮していたり、ことりや穂乃果と空気が違うせいで、海未が一番、会話しやすいだけなのだと。
それでいて、そう思ってくれていたら嬉しいって感じている自分もいた。

「おはよう、海未」
「おはようございます、絵里」

朝、目が合えば必ず絵里は海未の傍に来てくれる。それが当たり前でいてとても自然で、いつしかそれが習慣になっていて、待ちわびている。
絵里に名前を呼ばれることが心地いいと思っていた。
たぶん、尊敬している人だからなのだろう。
ことりや穂乃果といつでも3人で、ずっと3人でい続けていた、その幸せで満たされていたし、何も足りないものなんてないけれど、仲間が沢山いて、違う世界を知って、刺激を受ける毎日。希もニコも、海未が持っていない才能をたくさん持っていることは確かだけれど、絵里の運動神経とキビキビした対応、余裕のある笑みは、何一つ海未に足りないものに見えた。

「お疲れ、海未」
「お疲れさまです、絵里」

「海未のこと、好きよ」
「はい!私も絵里のことが好きです。μ’sのメンバーのことも、みんなが大好きです」
「えぇ、そうね」

何かしら褒めてくれるときに、絵里は海未のことが好きだと言ってくれていた。
絵里はそうやって人を褒める才能がある人だと思っていた。
そのことに胸がときめくなどと言うほど、己惚れたりはしていなかった。
ただ、好きだと言われるとそれが何のことに対してであっても、とにかく嬉しい気持ちだった。
絵里が好きだと言ってくれる、その言葉と一緒に見せてくれる微笑み。
その微笑みが好きだと思った。
傍でその微笑みを見ることができる、そのことが嬉しい。
絵里が笑ってくれる。




そう言う感情が恋だなんて、あの沢山の小説には書いていなかった。
いや、書いていたかも知れないけれど、自覚していなかったのだから、想う節があるなんて言うことに気が付かなかった。
絵里が誰かを好きなのではないか、そのことに囚われていて、絵里が殺人を犯したり死んでしまうようなことばかりを考えていて、そもそも自分の気持ちについて何かしら気が付くということなんて、あるはずもなくて。
ことりに言われなければ、自分が絵里のことをそう言う認識でいたなんて、わからなかった。


正直、今でも本当にこれが“恋”という感情なのかわからない。
わからないということを自分に言い聞かせたい気持ちがある。




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Date:2015/07/08
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