【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑮

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑮

「あ、海未!朝練に来ちゃだめじゃない」
本番間近なので、階段ダッシュなどの基礎練習はなくて、屋上でのダンスレッスンの予定だった。ことりと着替えて屋上に行くと、真っ先に声をかけてきたのは真姫だった。
「おはようございます、真姫。昨日はご両親にも迷惑をかけてしまいまして、本当にすみませんでした」
「いや、そんなことはどうでもいいから!寝てなさいよ!」
腕を取られて、引っ張られそうになる。慌てて足に力を入れた。
「いえ。全然問題ないんです。寝不足はもう、すっかり」
「でも!」
心配の色をした瞳がウルウルしている。ことりが真姫の肩に手を置いて、ほんわり笑った。
「真姫ちゃん、海未ちゃんは大丈夫だよ。ちゃんと寝たし、基礎体力は一番あるから」
「……でも」
「海未ちゃんは大丈夫」
不満そうに頬を膨らませながら、真姫がじっと見つめてくる。心配をかけたことは、後で何度でも謝らないといけない。真姫はことりみたいに海未の気持ちを知ってしまっていたのだろうか、それとも、絵里の気持ちを知ってしまっているのだろうか。

どこまで、誰が
どんなことを知ってしまっているのだろうか

海未が何一つ気が付かなかったことばかり

そんなことを考えれば、ここに立っていられないような思いになった。

「海未ちゃん、考えていることが顔に出てるけど、シャキッと前向こうよ。海未ちゃん、いつもそんな歌詞を書いてるでしょ?」
「……ことり」
「海未ちゃんと絵里ちゃんの問題なんだから。夜に話したよね?」


自分の気持ちを
ちゃんと絵里に伝えなければ


背後から階段を駆け昇る音が聞こえてくる。
見渡すメンバーの中でいないのは、絵里と希だけ。
音が近づいてくると、指先が震え始めた。

「………海未ちゃん」
ぎゅっと指を握られた。
ことりの手は暖かくて。でもこれ以上彼女は助けてはくれないだろう。
いや、助けを求めてはいけないことなのだと、ことりは言ってくれた。


「…………海未……」
背中越しに、とても小さな声で名前を呼ばれた。振り向いて、まず何をすればいいのだろうか。

いや、そもそもまず、振り向かなければいけないのだった。

「え、……え、絵里。お、お、お、おはようございます」
「お、おはよう……えっと、その、あの、体調は…寝てなくてもいいの?」
「あ、はい。その、もう、全然問題ないです。大丈夫、です」

舞台の幕が上がる前にいつも感じる、ひどく心臓の音が身体を震わせるそれと同じものが、
海未の全身を襲って来る。それをいつもことりや穂乃果が抱きしめて、落ち着かせてくれるのだけれど、今、それを頼むことなんてもちろんできなくて。
「海未ちゃん、おはよう。元気になってよかったな!でも、無理したらアカンよ。明日の本番のために、今日は控えめにな」
固まって何も言葉を紡げないでいると、絵里の横にいた希が海未を正面から抱きしめてくれた。彼女の身体に海未の心臓のおかしなリズムは伝わってしまっただろう。
だけど、それでも、何かホッとした想いがする。
「希……ご迷惑、おかけしました」
「ええんよ~。全部、えりちのせいやねん。まぁ、とりあえずは練習しよか」
「………はい」
「海未ちゃんは、ええ子やな」
希に頭を撫でられる。ちらりと視線を絵里にやった。

重なり合った視線
赤く少し腫れたような瞼

何かがチクっと胸のあたりを刺して
何となく、目を逸らしてた



心配してくれていた穂乃果にしばらく抱き付かれていたり、凛や花陽にも色々迷惑をかけたことを謝っていると、授業が始まる時間が近づいてきて、結局、絵里とは何も会話らしいことができなかった。着替え終わり部室を出る時にまた、視線が合う。練習中は会話も何もせずにいた。
「………海未、身体は大丈夫だった?」
「は、はい。その、大丈夫です」
「そう。よかった。放課後、無理なら言って。明日のためにも、今日は無茶しない方がいいし」
「だ、だ、大丈夫です」
「そう。えっと、じゃ、じゃぁ…また」
バタバタと教室へとそれぞれが駆け足で向かう。部室の鍵を閉めて、絵里も急ごうとするから、その手を摑まえた。
「絵里!」
「……な、何?」
「そ、そ、その……お昼休み………あの、その、あの場所……あの場所に……」
ちゃんと、真っ直ぐに絵里を見つめなければと思うのに、泳いだ瞳の動きを自分のものなのに止められなくて。
「………海未」
「その、ちゃんと……お話を。私、絵里に昨日、迷惑をかけたので、その、お話しをしましょう」
視界に飛び込んでくるのは自分の上履きだけで、絵里に視線を向けられなくて。
「……うん、そうね。そうしましょう。私も海未に迷惑、かけたから」
「め、め、迷惑なんて……」
「お昼休み、ね。急いで。チャイムが鳴るわ」

優しい温もりが、海未の頭を撫でてくれた。


優しい

そう感じた


ことりが言ってた優しい気持ちは、こういうものなのだろうか

「あとでね」
「はい」


呼吸がまた、苦しくなってきた
それなのに
嫌だという気持ちが襲ったりしない








「……海未ちゃん?」
「うん、昼休みに話がしたいって」
「そうなんや。2人のことやし、もう、何も言わんでおくけどな、明日が本番って言うことだけは忘れたらあかんで」
「わかってるわよ」
「えりちが泣き腫らそうが、海未ちゃんが真っ赤になろうが、明日は人前に立つんやで」
「わかってるわよ」
「にこっちに怒られるで、プロ意識大切にしな」
「わかってるってば!」
昼休み開始のチャイムが鳴ると、サンドウィッチを手に持って、絵里は小走りになってアルパカ小屋の前に向かった。渡り廊下を抜けると、真姫がみんなと食べる場所へと向かう姿が見えた。
「あ、真姫。ごめん、私、お昼は…」
「海未?」
「えぇっと、うん」
「エリー、あの後、何があったの?」
「その………色々、かしら」
一言では何も語れない。勢い余って好きだって言ったことも、そのせいで海未が閉じこもってしまって、出てこなくなったことも、ことりが助けに来たことも、一晩泣き明かしたことも。
「その、“色々”はなんとなく想像できるんだけど」
髪をいじりながら視線を逸らすいつもの癖。
真姫はいつも通り、仲間を心配してくれている。
「……ごめん、まだ、朝は目の腫れが引いてなかったから」
そう言えば、真姫にも気持ちはバレバレだった。
まぁ、あれだけ取り乱したのなら、嫌でも気づくに違いない。
「海未はエリーのこと、好きだと思う」
「………え?」
「言いたいこと、それだけだから」
「え?何よ、ちょっと」
走って行ってしまった真姫の、その言葉をもう一度聞こうと思っても仕方がないかもしれない。
「……どういう意味でよ」
海未はあと50歩もしないところにいるのだから。

”海未はエリーのこと、好きだと思う“

「……真姫が嘘を吐く理由もないけど。真姫がそう思っているって言うことだろうし」
散々泣いて出した結論は1つだけだ。海未に嫌われてしまったとしても、μ’sの仲間として傍にいたい。
海未がどう願うかはわからない。でも、許してもらうしかない。
傷つけたかったわけじゃないって、ちゃんと伝えなきゃいけない。




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Date:2015/07/08
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