【緋彩の瞳】 恋の果実 ⑯

緋彩の瞳

絵里×海未小説[ラブライブ!]

恋の果実 ⑯

「海未」
「絵里」
「ごめん、待った?」
「いいえ」
絵里を待たせたくないと思い、ダッシュで向かった。ベンチにハンカチを敷いてその隣に腰を下ろす。心臓が痛いのは走ったからではなくて、呼吸が苦しいのもそのせいではないというのは、何となくわかる。
絵里とご飯を食べることは、今までだってあったはずなのに。
意識せずにいた自分が、今更ながらうらやましいとさえ思ってしまう。
「ありがとう、海未」
ハンカチの上に腰を下ろした絵里の横顔から、慌てて視線を逸らした。
「………えっと、た、食べますか?」
「そ、そうね。食欲はあるの?」
「はい。あの、身体は元々鍛えているので、その、もう何も問題はないです。昨日もちゃんと寝ましたので」
「そう」
広げたお弁当は、いつも母に作ってもらっているそれではなく、朝から母の横で張り切ってお弁当を作ってくれていたことり特性のものだった。色使いが可愛らしく、母が絶対作りそうにないタコさんウインナーやら、おにぎりに海苔でパンダが描かれてある。食べるのがもったいないくらい。
「可愛いお弁当ね」
何から口にしようかと悩んでいると、絵里がお弁当を覗き込んできた。
「あ、はい。ことりが作ってくれました」
「ことりが?」
「昨日、うちに来ていたので」
「………そうなんだ」
「あ、絵里にも今度、作ってもらうようにお願いしましょうか?」
「いや、ううん。別に、いい」
「…そ、そうですか」
美味しそうって思ってくれたのかと思ったけれど、そうではないらしい。人の気持ちを読むということで苦労した記憶はあまりないはずだけれど、そもそも穂乃果やことりはわかりやすいし、いつでも一緒にいて、2人が何を考えているかなんてすぐにわかる。

でも、絵里は

気が付くくらいなら……

そんなことを考えてしまうから、顔が火照ってくるのが自分でもわかった。

「海未、どうしたの?」
「い、い、いえ、何も。こ、ことりが作ってくれるお弁当は、その、いつも、美味しいんです」
「そうなの」
「………泊まりに来た時は、朝、作ってくれることがあって」
「仲良しだものね」
「えぇ、幼馴染ですから」
「穂乃果といつも3人一緒よね」
「は、はい!えっと、その、昨日はハンバーガーを食べて帰って、休んでしまった授業の内容を教えてもらって、一緒に寝ました」
話を、何かしないと。
会話をしないと。
そう思って昨日のことを取りあえず話してみようと思ったけれど、一緒にことりと寝て、何を話したのかがよみがえって来て、また顔が熱くなってくる。
「海未?」
「……いえ……その、すみません、絵里には興味のないことでしたね」
「そんなことないわよ」

……
………

お弁当のおかずをつつきながら、何か、もっと話さないといけないことがあったはずだって考える。
いや、考えなくても、この心臓の響きと、呼吸の苦しさでわかっている。


「え、え、え、え、絵里。その…昨日は、その、本当に、ご迷惑をおかけしました」
「………海未は悪くないわ。私が悪いの。海未を好きだって言ってしまって困らせたのは、私だから。謝らないといけないのは私よ」

好きだと言う想いを告げたら
謝らなければいけないことなのだろうか

「……絵里は謝らないといけないことだと思ったのですか?」
「海未を驚かせてしまったんだもの」
「あ、いえ、その、驚きましたが、謝って欲しいなんて全く考えていません」
「でも………海未は恋とかそう言うのは、…そう言うことは。迷惑でしょ?」
慌てて首を振った。本能的に反応したように、強く否定したいと願った。
「わ、わ、私は…その…確かに、今までは、それほど知らない人から好きだと言われても、その、恋とかお付き合いすることなどに、興味はありませんでした。そもそも仲のいい人に告白をされたことがありませんでしたので、その、興味が持てなかったのは仕方がないことだと。……で、ですがっ!」

絵里は

絵里は
よく知っている人で

絵里の笑顔が
好きで

「………海未?」
「絵里には……いつでも、傍で笑っていて欲しいです。ですから、謝ったりしないでください」

真っ直ぐに瞳を見つめられずに、視線が絡み合ったのは赤いタコのウインナー
本当に情けないって思う

「気を遣ってくれて、ありがとう」



優しい絵里の手

そっと頭を撫でてくれる
心臓がバクバク音を立てているのに
呼吸が苦しいって思うのに
心地いい

「………絵里」
「迷惑じゃなかったら、これからも仲良くしてもらえたら嬉しい」
「は、はい!」
「ありがとう、海未………海未は、優しい子ね。ごめんね、気を遣わせて」
「いえ、そんなことは」
撫でられている、その心地よさ。
そっと視線を絵里に向けてみた。


「絵里……なぜ、泣いているのですか?」
「なぜかしらね、散々……朝まで泣いてもう、すっきりしたはずなんだけど」
「絵里……私は、絵里を傷つけるようなことを言いましたか?」
「違うわよ。海未は、私のことを嫌いにならないでいてくれるのでしょう?」
「もちろんです」
「だから、ホッとしたのよ」
「では、朝まで泣いていたのはなぜですか?」
絵里の頬を伝う滴は、ホッとしたと言うような涙には見えなかった。
何か、海未が絵里を傷つけるようなことを言ってしまったらしいけれど、海未は慎重に言葉を選んだつもりだった。
何がダメだったのだろうか。

傍で笑っていてほしいと願うことは、よくないことだったのだろうか。

「……海未に嫌われたって思って泣いてたの。でも、嫌われていないのなら、よかった」
「嫌いになんてなりません!絵里のこと、す…す、す、好きですから」

今まで、絵里に言っていた好きだという言葉と、たぶん感情が違う“好き”
優しい気持ちになれる、“好き”

「ありがとう、海未」
涙を拭ってほしいけれど、ハンカチは手元にはない。絵里は指先で涙を拭って、海未に笑って見せてくれた。

少し、寂しそうに見える。

「ずっと、笑っていてください。絵里が笑っていてくれたら、私は嬉しいです。本当です!」
「そうね。私も海未がそう思ってくれているのなら、嬉しい」
「はい!」

絵里のくもり空のような微笑み
笑っていてほしいのに
今までのように
もっと、今まで以上に

「………えっと、絵里…?」
「ん?何?」
「いえ……」

ちゃんと、ことりに言われたとおりに気持ちを伝えたつもりだけど、伝わっただろうか。
想像が追い付かないことだから、これが正解なのかどうかわからない。
でもちゃんと、海未も絵里を好きだと伝えたと思う。
伝わった、はずだと思う。

たぶん。


「海未ちゃん!」
イベント衣装に着替え終わると、いつものように人前に出ることへの緊張が身体を襲う。ある意味もう、この緊張感は海未の中では恒例行事のようなもので、何度経験しても、新しい場所で新しい衣装で、初めてのお客さんがいる以上、どうしてもそれを意識せずにはいられなかった。かといって、この緊張感は少し心地よくて、たぶん不要というわけでもない。
「穂乃果」
3人で誰もいないステージに立ったあの日から、メンバーが増えてもいつも、ステージに上がる前に穂乃果とことりが海未を抱きしめてくれる。幕が上がった時に誰もいなかった。あの寂しさを共に乗り越えた2人。いつでもどんな時も一緒にいた2人。
「大丈夫、ファイトだよ!」
「はい」
「海未ちゃ~ん!」
「ことり」
抱きしめ合って、頬を寄せる。指先が震えていたのがぴたりと止まった。
「……さぁ、行きましょうか、みんな」
絵里は3人恒例行事を見守っていてくれて、それが終わってから合図を送る。
「はい」
円陣を組む。
海未は絵里の隣を選んだ。
左手で作ったVの指先が絵里のそれに触れる。
ドキッとする。
「………じゃぁ、行くよ!」
穂乃果の合図と、1人1人がナンバーを呼ぶ。肩を組む。絵里に触れるとさっき落ち着かせた緊張感とは違う何かが呼吸を乱そうとする。
「………絵里?」
「行きましょう」
絵里は海未に笑って見せてくれた。

作った笑顔
少し前の、生徒会長として壇上に上がっていた時の、無理している笑顔

「……絵里」

何か、絵里はやはり何か、おかしいままだ


イベントが終わっても打ち上げの時も、絵里はいつも通りのようで、いつもと違うように感じた。作り笑顔に違和感を覚える。
傍で笑っていて欲しいと願ったことが、絵里には辛いことなのだろうか。
週が明けてから、また早朝練習が始まる。
「……お、おはようございます、絵里」
「おはよう、海未」
いつも、絵里は海未に向かって楽しそうな笑みを見せてくれていた。
それが、どうしてなのか、消えてしまったように思えた。
好きだと告げてくれたはずなのに、その想いが嬉しいと伝えたはずなのに。
絵里は今までのように笑顔を見せてくれなくなり、それがなぜなのかもわからない。
わからないのは、海未が悪いのだろう。
でも、わからないと絵里に聞けないのはどうしてだろう。
「絵里、お疲れさまです」
「海未も。また、放課後ね」
「………はい」
すぐに逸らされる視線。
自然と何をするにも隣になることが多かったように思えていたけれど、今は絵里が遠い。
絵里が遠くを選ぶ。
それがわからなかった。
気まずい空気というものは、流石に海未にだってわかる。
ことりは何も言ってくれない。希も教えてくれる様子もない。何となくジワジワと絵里の方から海未を避けている。
傍で笑っていて欲しいと願うことは、彼女を傷つけることだったのだろうか。






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Date:2015/07/08
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