【緋彩の瞳】 Love & Peace ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Love & Peace ①

ドキドキしながら、昨日買ったばかりのランジェリーを付ける。隣で身体を拭いて、同じようにランジェリーを付けたレイは、まったくもってみちるの方なんて見る気配すらなく、さっさとシャツに腕を通して、ドライヤーの準備をしていた。
「………ねぇ」

これ、昨日買ったのよ。

その言葉を紡ぐ前に、勢いよくドライヤーの熱の音がレイの耳を塞いでしまったようだ。
「あ~、……暑いんだから」
レイの文句は聞こえてくるけれど
「レイ」
みちるの声なんて全然聞こえていない。
かといって、いつまでもランジェリー姿で立っているのも、何だか違う気がする。
聞こえないのならと、盛大なため息を吐いてみた。


………

無駄なことだって、わかっていたのに、そのため息が全部自分の身体に吹き付けられた思いがする。



「明日、学校終わったらクラウンに行って、神社に帰るわ」
「そう」
「仕事は?」
「20時くらいに終わるわ」
「ん。みんな、うちに泊まると思うから」
「……そう」
時計は11時を回ったところ。いつもよりも早い。夏はみちるの仕事が少し減るから、比較的時間も空けやすいし終わるのも遅くない。一緒に夕食を食べる回数も多い。要するに、精神的な余裕があるということ。

何よりも、つい最近まで死の淵に立ち、戦い続けていた敵をやっと倒し、かけがえのない平和が訪れたのだ。
一睡もせずに戦うことも、授業中に飛び出すことも、身体に傷を負うことも、悪夢にうなされることも、食欲を削がれることも、

すべてが終わった、平凡な世界

愛しい、ありふれた日々が待ちわびている世界

「みちるさん、来る?まこちゃんがご飯作るって」
「いえ、次の日が少し早いの」
「そう?わかった」
クイーンサイズのベッドで隣り合わせに並び、レイは軽く髪を束ねると、さっと寝転がる。
戦いに明け暮れていた頃、悪夢に魘されて息苦しそうな表情を見せていた、もうすっかりその表情は消えている。
「もう、寝ていい?」
「え?……えぇ」
眠れない苦しさを背負っていた頃が嘘のように、レイは目を擦りながら甘えた声を出す。
小さく頷くと、あっという間に目を閉じて眠る体制に入ってしまった。

敵を倒してから1か月
平和な世界で
優しい愛に満ちた世界

1か月
レイはみちると身体を重ねてくれないでいる

「レイ?」
「…………ん……」
寝つきがいいわけじゃないはず。でもそう思い込んでいたことが間違いだったのかもしれない。レイと出会ってから、敵は絶え間なく現れ、落ち着いた日々なんて本当に隙間を見つけるようなものだった。
その隙間を見つけて、レイと恋に落ちて、レイと寄り添って生きて行こうと思った。ささやかな幸せは、憎悪を浴びせられる身体の穢れを洗い流してくれて、生きなければならない意味を与えてくれていた。
「……お休み」
「ん……」
頬に唇を寄せても、さらに眠りを深いものにしようとする姿勢は変わらない。

ランジェリー姿のままでいればよかったのかしら、なんて。
そもそも、こんなランジェリーを思い切って買ったところから、きっと間違いだった。




「ごめんね、夕食に付き合わせて」
「いいわよ。みちると2人でご飯なんて、本当に久しぶりよね」
「えぇ」
あれから、レイは神社に帰ってしまって3日くらいみちるのマンションに来ていない。電話は必ず掛けているし、お互いに忙しい時は普通のことだった。仕事で遠征があったりしたら1週間くらい会えないこともあった。
でも、今、お互いにそれほど忙しかっただろうか、と思う。レイの家には頻繁に誰かが遊びに来ていて、馬鹿騒ぎをして、誰かが泊まって帰っているようだ。学期末テストも終わり、暇を持て余しているみたい。
「美奈子は?」
「レイの家じゃないの?知らないけど」
「知らないの?」
「知らないわよ、把握なんてしてないもの」
「そう。あなたたちはそうだったわね」
お互いに束縛をしないし、美奈子の好き勝手をせつなは何も思っていない。デートをすることもあるようで、ないという不思議な2人。それなのに、不安定さを1mmも感じない。
「せつなは、美奈子と変わらず順調?」
「どうしたの?興味のあるような面白い話題なんて、何もないわ」
「じゃぁ、ずっと同じなのね」
「………レイと、どうかしたの?」
レイがいつ来てもいいように、冷蔵庫の中はある程度揃えてある。今日は久しぶりに、手料理をせつなに振舞う。レイは5人揃って今頃何をしているのかしら。
「別に……何も」
「何?喧嘩でもした?」
「いいえ、まったく喧嘩なんてしていないわ」
「そう?声が落ち込んでいるわよ」

平和な世界になったら
戦うことがなくなった世界になったら
レイは苦しみから解放されて、魂を縛る使命から解放されて
ありふれた恋人関係を続けていけるって

平和なんだけど
心が満たされていないわけじゃないけれど

レイと毎日電話はする
会えないわけじゃない
会いたくないって言われたわけでもない

「………そんなことって、言われるかもしれないけれど……あの子、私に興味を持ってくれていない……気がしてね」
「どういう意味?」

求められることも
求めることも

「……触れてくれないっていう意味よ」
「セックス?」
ダイレクトにその言葉を言われて、息が詰まりそうになった。
「……1か月以上」
「レイと会ってないの?」
「会ってるわ」
「泊まらないの?」
「隣でぐっすり眠っているの。あんなにぐっすり眠れるレイも、珍しいくらい」
「誘ってみたの?」
「………嫌って言われたらって思うと、誘いにくくて」
誘えないかと言われたら、出来ないことじゃない。
悪夢に怯えるレイがみちるに縋り付き、激しく求められたこともあれば、みちるから誘ったことも何度もあった。言葉を口にせずに、流れでセックスをすることも普通にあった。
愛しているし愛されている。
でも、お互いに特殊な環境の中にいて、求められるわずかな時間を惜しんでいただけなのだろうか。



なんて、考えたくない。


「レイ、何かあった?」
「ないと思うのよ。レイの表情は別に悩んでいるようでもないし、私が嫌いって言う感じでもないの」
「じゃぁ、セックスレスって言うほどじゃないんじゃない?誘っていないのでしょう?誘って、嫌だって言われてから悩めばいいんじゃない?っていうか、嫌だと言われたら理由を聞けばいいし、あなたは誘う権利があるわよ」
「………そうかしら」
最初の1週間は、疲れ切った身体を休めさせたかったし、みちるもレイが隣で落ち着いて眠ってくれることに安堵していた。2週間経って、おはようのキスくらいしかしていない毎日のような気がして仕方がなくて。
身体に触れてみようとしても、完璧に眠る姿勢を崩そうとしないし、レイより先にベッドルームで待っていようとしても、そう簡単にはいかなくて。
試しに普段は絶対に付けないような下着を買って、レイの隣で付けてみたけれど、見向きもされず。早目に起きて、レイを起こそうと試みたけれど、幸せそうな顔で眠るのを起こすということに、良心が傷んで諦めた。
「したいって言いなさい。愛してるのでしょう?」
「………せつなは言うの?」
「言うわけないでしょ。あの子は元々が気まぐれだから。元が違うのよ、レイと美奈子は」
でも、美奈子は放っておいてもせつなの元に帰って来て、セックスを求めるんだろうなって思える。
「そうね。……レイと話してみるわ」
「よく1か月もウジウジしていたものね」
レイが何かに悩んでいるとか、体調が悪いとか、明確に見える理由があれば、ウジウジせずに済んだ。
隣で眠るレイは、本当にホッとさせるくらいスヤスヤ寝息を立てていて。
眠りが浅くて、セックスして寝かせたことだって何度もあるくらいだったのに。
でも、いつだってそういうセックスしかしてこなかったわけじゃない。
まさか、みちるだけがそう思っているなんてこと……
「はいはい、勝手に1人でいろいろ悩まないの」
あれこれ考えていると、手をパンと叩かれた。ハッとして顔を上げる。
「ごめんなさい、せつな」
「せっかくのみちるの手料理よ」
「そうね」
「どうしようもなかったら、あなたの彼女が欲求不満って私からレイに言うわよ?」
「ちょっと待って、別に欲求不満だなんて……」

あながち、そうでもないような気もするけれど
ただ、レイの体温が恋しい

「言われたくなかったら、みちるが誘うことね」
「……そうするわ」
「今は、食事を楽しみましょう」


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Date:2015/07/11
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