【緋彩の瞳】 tender ⑯

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

tender ⑯


「私があの子を好きでいなければ、こんなことにはならなかった」
「それは違います……悪いのはベリルです」
「……言えなかった。ほんの些細な違和感を覚えたくらい、きっと大したことではないのに。そもそも、チョーカーの色が前と違うと指摘したくらいで、何だと言うの。それなのに私は……躊躇したせいで、何の罪もないヴィーナスを傷つけることになるなんて」
健康的な顔色で寝息を繰り返すヴィーナス。
マーズはその綺麗な首筋にうっすら残る傷跡をなぞった。
「マーズがヴィーナスを助けたことは事実です」
「それに、やはりあれは私を殺すために仕掛けた罠だった。グローブの上からでも皮膚に食い込もうとする感触は確かにあったわ。私を潰し、あわよくば月も潰したいとでも思っていたのよ。ヴィーナスはただ、私をおびき寄せるために利用されたのよ」
「長寿が手に入れられないならば、長寿の人間を全て排除すればいい、ということですか?自分の手を汚さずに……まさか、ベリルはそこまで考えていたと?」
だとしたら、第2第3の攻撃もきっとあるに違いない。
いずれ、地球と戦わなければならなくなるだろう。マーキュリーは想っても言えなかった。それを加味して月の配下になるのなら、賢明な判断かもしれない。
「……私は永遠に罪を背負い続ける。今度こそは彼女の放つ光を守るわ。憎まれ続ければ私はそれを強さに変えられる。罪がもっと私を強くさせる。二度とつまらない感情に惑わされたりはしない」
「マーズ様、これ以上傷つく必要はないのに?人としてごく当たり前なことよ」
「いいの。言ったでしょう?私は過ちを犯した責任を取らなきゃいけないの」
マーズは聖石のついた自らのチョーカーをはずし、その石に願いを込めるように唇を押しあて、そしてヴィーナスの首に付けた。
「……マーズ様。憎しみは……愛よりも根深いものです」
「だからこれは、私に必要な……希望なのよ」



二度とこの感情があなたを傷つけないように
二度とこの感情が私を惑わさぬように




レイちゃんの記憶を改ざんさせられないかと美奈子ちゃんが言ってきた。何をどう改ざんさせろと言うのだろうか。聞いて驚いた。マーズがヴィーナスに恋をしていたことそのものを記憶から消せ、という。
「そもそも……記憶の改ざんができるのであれば、そうしておけばよかったのよ」
「マーズの生きがいを消せ、と?」
「生きがいっていうか…人は何度でも誰かに恋をするわ。私じゃない誰かをいずれ好きになれば、マーズもまた違った生き方ができた」
すぐさま亜美は美奈子ちゃんの頬をひっぱたいた。
「違う……亜美ちゃん、話を聞いてよ」
「殺さないだけ、マシ」
本当に殺されてしまいそうな視線が突き刺さってくる。だけど、美奈子が伝えたいのはそうじゃない。
「そうじゃなくて……。レイちゃんが背負っている重たいものを何とか軽くするには……そりゃ、私と言う存在が消えればいいけれど、そうはいかないし。だったら、レイちゃんの記憶から私というものを丸々消してしまえば、レイちゃんは前世にとらわれずに生きていける。こんな風にならなくてもいいんじゃないの?」
「自らに架した罪を下ろしてやれ、と」
「………やり直すしかないよ。私は想いを知った以上、同情しか持ちえない。今は憎しみというより、同情。ありがたいとは思う、でもだからって愛せるわけでもない」
もう一発、来るかもしれない。美奈子は身構えたが、それは来なかった。
「マーズが恐れた“同情”を持ってしまったのね。美奈子ちゃんの記憶を改ざんした方がいいのかしら…」
「そうね……できれば私の記憶も改ざんしてもらえるとありがたいんだけどさ」
マーズを憎んでいたこと、レイちゃんを憎んでいたこと。そして、みちるさんを好きだと思っていた感情も。
「美奈子ちゃん、みちるさんを好きだったことも消し去るの?」
「都合がいい、みたいな顔しないでよ……。また好きになる可能性だってあるんだし。ただ、レイちゃんと私の記憶をリセットするのなら、何もかも、愛も憎しみも全てをフラットにするわ」
それで何になると言うのかわからない。戦いが続けば、マーズが戦い続ける限り、ヴィーナスに触れ、身体を回復させなければならないのは確かだ。
その時がきたら、どう説得をして手を握りしめてもらえばいいのだろう。殴ってでも美奈子ちゃんを連れて行けばいいのだろうか。
「……いいわ。その代わり、失敗だと思ったら、また記憶を改ざんさせるわ」
「お願い」
ようやく、レイちゃんの顔色も落ち着いてきた。目覚めるまでにはあと少し日数をかける必要もあるだろうが、必ずまた、目を覚ましてその両目に光を浴びることができるだろう。




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Date:2013/12/08
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