【緋彩の瞳】 声が聞こえる END

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

声が聞こえる END

「美奈!!」
「レイちゃん!!!」
携帯電話が鳴る音と同時に、オレンジ色の浴衣姿が見えた。
「美奈!」
「レイちゃん!!」

離れないように、両手でその暑そうな浴衣にしがみついた
着くずれしたとしても、誰も見たりしないだろうし、気にも留めないだろう

頭上でドンドン音が鳴っている
ため息交じりに喜ぶ声ばかりが聞こえてくる


「レイちゃん、ここを離れよう」
「え?」
「いいから、安全なところに行こう」
「無理よ」
「いいから」
汗でべたついたレイの腕を美奈はぐっとつかみ、痛くて歩けないとぼやいていたにもかかわらず、ドンドンと強い力で人を押すようにして、美奈は会場の反対方向へと進み始めた。
「美奈、何よ。まだ、花火が」
「いいから、いいから」
出口と大きく書かれた場所へ突き進むと、嘘のように人がいない。
「美奈」
「帰ろう」
「なんでよ!」
「それじゃ、無理よ。帰りが無理なの」
「………絆創膏貸してよ」
「ダメ、また踏まれるとも限らない。帰りの方が危ないわ」

背後で花火の音がずっとずっと鳴り響いている

ガラガラの一方通行に分けられた道を突き進んでいく。

「美奈、……でも、せっかくだから」
「うん、いや、“花火”が見たいんじゃないんだもん」
「そうかも、しれない、けど」
「わかってるでしょ?」
「………そう、だけど」


言いたいことはわかる
声に出さないでほしいと思っていることも
伝わっている

だから


汗ばんだ腕を掴まれたまま、花火の音を背に
幸せそうに腕を組んで花火を眺めている人を横目に
ガラガラの帰り道を歩く

騒めきはまだまだすぐそばなのに
それも遠くなっていく

待っていた電車から次々に人が溢れ出てきて、始まってしまった花火を1秒でも見たいと言う人の流れが
レイと美奈を透明人間の様に扱っている

空になった電車に乗って座った。絆創膏をもらって、割れた爪に貼っても意味はない。


「病院行かなきゃ、かもね」
「……明日まで様子見るわ」
「うん」


帰り道、タクシーを捕まえる前にコンビニで手持ち花火を買った。神社に帰ってから、美奈の着くずれた浴衣を丁寧に直した。
美奈はレイの怪我を消毒して、ガーゼを巻いてくれた。


まだ、遠くの方で花火の音が聞こえる
マンションや木々に囲まれたこの場所からは見えない


人々の歓喜の声も
苛立つ声も
聞こえてこない





神社の裏手に、水を入れたバケツとろうそくを持って出た。

マッチで付けた火は揺らめいて、美奈の顔を照らす
手持ち花火が、勢いよく火花を拭く
球体ではない火花がチリチリと音を立てる

遠くの空からは
ドンドンと花火が散る音が鳴っている


「綺麗だね!」
「そうね」

レイはベンチに腰を下ろしたまま、同じように手持ち花火に火をつけた。
両手に持った花火を振り回しながら、美奈は大きな花火だと言って笑う。

笑っているのなら、それでいい

「浴衣、汚さないでよ」
「うん!」

鼻緒に食い込んだ指の間に貼られた絆創膏は、赤くにじんでいるのだろう
それでも、楽しそうに花火を次から次に振り回していく



「はい、レイちゃん」
「ん」
ねずみ花火に悲鳴を上げ、パラシュート花火を見失い、線香花火だけが残った


遠くの空で響いていた花火の音はいつの間にか消えていた



ジリジリと
丸い球が小さな火花をちらす

「先に落としたら負け」
「負けたらどうするわけ?」
「勝った人にキスをする」

勝負の意味ある?
言おうと思ったけれど

声に出さなくても
届くものがあるのなら


「あっ」

美奈が火を付けてくれたものをレイに渡してくれたのだから
レイが先に落とすのは必然

「そんなに私にキスしたいんだ」
「……火を付けてからルールを決めたくせに」
「そうだった?」

チリチリと最後の音を立てて
美奈の持っていた線香花火の玉が小さくなって消えて行く

2人を照らすろうそくの明かりと
花火の匂い


「花火、楽しかったね」
「えぇ、そうね」
「浴衣も着れたし」
「学習した?」
「うん」


それと
美奈の汗の匂い


せっかく直してあげたけれど、花火を振り回したりしている間に、また着くずれしている

「……今日、楽しかったわ」
「じゃぁ、よかったよ」
「……謝る気はないけれど」
「そうだろうね。怪我させたから」


声にならないし
選ぶ言葉もわからない


「負けた罰ゲーム、する?」
「うん、して」


小さなろうそくと月あかり


指先で唇の場所をなぞって確かめる
頬は汗が伝っていた
ジワジワとお互いに汗を掻いているけれど

唇は乾いてる

「ん………」

お互いに瞳を閉じないのは、そんな必要なんてないから

感じるものは目を閉じていてもいなくても
同じだから

「これ片づけて、シャワー浴びようか」
「そうね」
「疲れてるのなら、やめとく?」
「………平気よ」


声を
言葉を
届けることができなくても


「今度は絶対、放さないからね」
「そうして」


繋がりを求める想いは
届けることができるって
美奈は教えてくれたから

差し出されたその手を握りしめて
そっと指を絡ませた







一気読みありがとうございます。
良ければ、感想をお待ちしています。
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Date:2015/07/21
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