【緋彩の瞳】 あなたとの約束 END

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・単発もの]

あなたとの約束 END


「レイ、物足りない顔」
「べ、別に!っていうか寒いわよ。上がらないと。美奈子、責任取って、タオル借りてきなさいよ」
「アイドルに命令するなんてね」
濡れた制服はずしりと重たくて、プールから這い上がるのに、ピタリと張り付いたスカートがどうしようもなく気持ち悪い。
「あ~、気持ち悪い」
「自業自得でしょ」
「でも、レイとプールで泳いだっていうことで、1つは夏の想い出を作ったわね」

夏はもう終わった
泳いでもない
想い出っていうか、嫌な事件みたいなものなんだけど


「……そうね。じゃぁ、私はホテルの人に何か、服を借りてもう帰るわよ」
「え?」
「美奈子の想い出作りは終わったのでしょう?」

いつもいつもいつも
レイを困らせて楽しませて
それで満足して
1人だけ楽しんで
勝手に、レイの心を弄んで
寂しいって言わせようとするくせに
寂しいって言わない

「レイ、帰るつもり?」
「一緒に泊まりたいって、可愛くお願いするのなら、泊まってあげてもいいわよ」
「……な、何よそれ?」
「可愛くおねだりでもしてみなさいよ、たまには」

レイの夏の想い出は、毎日、美奈子のことを心配してばかりだった。
東京で行われたライブはすべて行ったけれど、地方が多かったし、イベント関係もテレビの仕事も多かったし、電話をすることはあったけれど、2人きりで過ごす時間は本当に片手で数えるくらいだったから。無理をしていないだろうか、辛くないだろうか、寂しい想いをしていないだろうか、そんな想いだけが勝手に身体の中を駆け巡っては、勝手に落ち込んで、憂鬱になって、会えた日は、1時間だけでもうれしくて。
早く秋になればいい。そんなことを願う夏だった。


「………レイが一緒にいたいんでしょ」
「素直じゃないわね。私はあなたのことを聞いているのよ、美奈子」

髪からポタポタと雫が零れ落ちてゆく。
重たいスカートは太ももに張り付いて、綺麗な折り目も今は頼りない。
濡れた前髪が零す雫を拭うように、美奈子は手の甲で目の周りを擦った。

アイドル愛野美奈子は、たくましくてカッコよくて、誰もが憧れる光

「仕事………頑張ったんだから、労ってよ。癒しなさいよ」
「毎日電話したわ」
「……でも、毎日会えなかった。レイと夏らしいこと、1つもしなかった」
夜中に来て一緒の布団で眠っても、美奈子は本当に気を失うようにすぐに眠りに落ちてしまって。朝に会えたとしても、ホテルの部屋で1時間くらい朝食を取るとか、そう言うことばかりだった。それでも、美奈子は仕事が辛いとは言わなかった。レイも会えないことが辛いとは言わなかった。今をちゃんと生きている、その姿も好きだから。
「それで?美奈子はどうして欲しいの?」
悔しそうな顔をして、本当に子供なんだから。
でもいつも、あんな風な顔をしているのはレイの方。たまには美奈子が言わされる立場に立てばいいと思う。
「泊まりなさいよ、スィートルームなんだから」
「………命令?そこは、お願いじゃないの?」
足元のタイルに落ちて行く雫。レイは頬に張り付いた髪を指で掻き上げて、どうするの?と答えを求めた。美奈子が何を言っても、傍にいたいのはレイの意志だけど、美奈子にも留められたい気持ちがある。

レイが寂しかった気持ちと同じ想いを、ちゃんと美奈子が持っていたと

言葉で聞きたい

「……レイと、一緒にいたい。ちゃんと、キス、してない、し」
「夏、一緒にいられなかったし?」
「うん」
「寂しかった?」
美奈子は何度も、目元を手の甲で擦っている。
滴り落ちる雫は、そんなところを何度も擦る必要はないのに。

泣けばいいのに
寂しかったって美奈子が泣いたら
きっとレイも


レイだって



「………レイは?」
「聞いているのは、私。質問に応えなさい」

馬鹿みたい
言わせてやりたいって思っているのはレイなのに、レイも同じように手の甲で目元を擦っていた。

「………何よ、レイが寂しかったんでしょ。泣いてるくせに」
「は?何言ってんのよ。美奈子、目が真っ赤よ?」
「これは塩素で目が痛いだけよ」
「物は言いようね。まったく、美奈子はそうやって意地張ってばかり。たまには素直になりなさいよ」
「レイに言われたくないわよ」
「そうやって、私を煽って誤魔化して、それで濁そうって言うわけ?」


ぎゅっと裾を握れば、じわりと指の隙間から雫が溢れだす。その湿った制服を引っ張って抱き寄せた。お互いに冷たい身体。それでも、美奈子の方が冷たく感じる。
「私、ちゃんと言わないと帰るわよ?」
「………レイ」
「目を見て言えないのなら、これでいいから。寂しかったのなら、寂しかったって言えば?」
頬に触れる濡れた髪。心臓同士がお互いを温めるように、血を巡らせる音が響く。頼りなくレイの腰に巻かれた腕は、少しずつ力を強めて、言葉じゃなくても、痛くなるほどに美奈子がレイを求めてくれていることが染み渡った。

「……私、仕事は嫌いじゃない。好き。凄く好き」
「知ってる」
「でも、レイも好き」

“私も、あなたが好き”
声には出さなかった

「……知ってる」
「元気になって、レイといろんな想い出を作りたかった」
去年の夏は、儚くて脆くて、消えて行きそうな魂だった。生きて欲しいと願いながら、それが叶わないのだと知った、戦いながら、命を削っていく日々だった。
「夏は毎年来るわよ」
「でも、中学の夏はもう来ない」
「……中学生アイドルの夏も、もう来ないわ」
「うん、だから、やりきったわ」
「美奈子は頑張ったわ」



でも、レイと一緒にいたかった


鼻を啜りながら、大泣きしないのはプライドの高さ何だろうなって思う。それでも、人前で泣くなんてしないであろう愛野美奈子が、レイの胸に顔を押し当てて、肩を震わせている。
「……風邪引くわよ。部屋に行きましょう」
「レイ、泊まるのでしょ?」
「これで帰れるわけないじゃない……」
「ウソツキ」
「たまには、仕返し」

素直じゃないのは美奈子もレイも同じ

ずっと、一緒にいることはできない

でも、何度でも季節は巡る

どんな季節でも、想ってくれていたらいい
いつでも、想っている


「レイ。お風呂に入って、もう一度、キスして」
「……お風呂の中で潜るのは嫌よ」
「当たり前でしょ。ちゃんと、キスしてよ」
「はいはい」
縋るその、耳の近くに唇を押し当てる。上目遣いでレイを見上げるその瞳。
瞼を腫らして、でも、隠す術を失ってしまっていて。

「ほら、行くわよ」
「寒い……」
「自業自得」

夏は終わってしまった。
だからまた、待ちわびたらいい。

そしてまた、会えなかったって言うことになっても
また、待ちわびたらいい。

今は何度でも約束を交わすことができる。
遅れても構わない。いつまででも待てる。
美奈子は必ず、来てくれる。

「……レイ、好き」
「素直ね」
「レイは?」
「さぁね」
「……ムカつく」
「ずぶ濡れにした罰よ」


それでも腕に縋り付く美奈子を振りほどかないのだから
想いなんて隠せるはずもない。

「レイ、今度は、夜に花火したい」
「売ってたらね。っていうか、きっとセールしてるわよ」
「約束ね」
「……えぇ、約束よ」



約束なら、何度でも交わそうと思う

1時間遅れても
1日遅れても
たとえ季節を超えてしまっても

美奈子なら、絶対に守ってくれる

そう思えるから




HAPPY BIRTHDAY TO ME
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Date:2015/08/25
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