【緋彩の瞳】 秋雨前線

緋彩の瞳

その他・小説

秋雨前線

秋雨前線が停滞しているらしい。
週間天気予報では、1週間ずらりと青い傘と雲のマークが並んでいた。
オレンジと灰色の世界が繰り返されるような日々。
夏が終わったと言い切れるほどの涼しげな気温ではないけれど、夏らしい服はもう着られないような9月と言う響き。
制服の上にカーディガンを着ようかしら、と悩みながらも、頭上の傘を鳴らす雨音は湿気を連れてきているから、やっぱり少しムシムシと暑い。

学校から出た頃うるさかった雨音は、火川神社へと向かう坂を上ろうとし始めた頃に、急に静かになった。

雨の粒がとても小さくなってきたようだ。
決して、雨が止んだわけでもない。
それでも水たまりに雫が跳ねる輪っかたちは見えなくなっている。

どうしようかしら

少し悩んだ

傘を差していなければ、びしょ濡れになるほどの雨足ではない。ここ数日は、毎日登下校の時間帯に限って強く雨が降っていた。教室に入っている間、覗く晴れ間を眺めては、夏休みが終わってだるさにため息を吐くクラスメイトのそれとは違うものを、憂鬱になりそうな身体から吐き出していた。

傘を閉じて灰色の世界を見上げてみる。
霧雨が頬に触れた。ひんやりと水分を感じるというより、湿気の多い場所に立っているくらいで、制服の色が変わるほどの濡れ具合でもなさそう。

視界を半分さえぎられて歩いていた数日。
足元ばかりを気にしていたさっきまでを取り戻すように、片手を遠くの空に伸ばしてみた。

何も掴めない
雲が消えてなくなることもない

重たい空気を吸い込んでみる
気管が感じる湿気
肺を満たすものは、爽やかなミントの香りじゃないけれど
それでも何か、柔らかい感情が血液と一緒になって身体を廻る想いがする



「亜美ちゃん?」
「………あ、レイちゃん」
羽が生えたような身体の軽さ、その勘違いを抱いたまま坂を上ってしまおうと思ったら、背後から名前を呼ばれた。
「あら?雨、止んだの?」
「あぁ、いえ、まだ完全には止んでないわ」
赤い傘を差していたレイちゃんは、確認するように手のひらを空にかざしている。傘はレイちゃんの表情を半分隠していた。
「傘を差す程でもないって言う感じでしょうけれど」
「気にしないで。何だか最近、ずっと外にいるときは傘を差してばかりだったから」
「………そうね」

赤い傘が空とレイちゃんの間から消えてゆく。真っ直ぐな瞳が亜美を捉えて。
そこだけが赤く輝いて見えた。

「レイちゃん?私のことは気にしないで」
「いいのいいの。隣を歩くのに、私だけ傘を差すっておかしくない?それに、傘差していたら、亜美ちゃんの顔が見えないでしょ?」

艶のある真っ直ぐな黒髪に落ちる霧雨。
柔らかくて優しくて、笑うのが苦手な彼女の小さな微笑み。

どうか、霧雨よ止まないでほしい
坂を上るまでは

「鬱陶しい天気よね」
長い髪はそれでも、湿気のせいで癖が出てきたりなんてしないのに。レイちゃんは髪を指で梳きながらため息を吐いた。
「………私は雨って嫌いじゃないわ」
「そう?」
「えぇ。季節の変わり目に降る雨って好きなの。あぁ、秋が始まって思えるわ」
「そうなったら、落ち葉をひたすら掃くお仕事が増えるわ」
彼女は、歩きなれた坂道でもスピードを緩めたりはしない。
同じ歩幅で歩きたいと願う亜美は、ただ、それに付いていくだけだ。
「でも、レイちゃんは秋が好きでしょう?」
「そうね、夏よりも好き」
夏の間に葉をたくさんつけた桜の木。葉っぱの先から雫が落ちていて、それを避けるようにして歩いた。車が来たら立ち止まり、お互いをかばうように腕を引っ張り合う。

霧雨がもたらす心地よさ
もう少し、この時間を楽しみたい
傘が亜美とレイちゃんの世界をちぎってしまわないように


「あ……」
「降ってきた。また分厚い雲が来たみたいね」
ぽつりと鼻先にあたった雫。神社を囲む木々の緑は視線の先に見えている。
まだ、この時間を楽しみたいのに。
濡れていたいのではない。レイちゃんを濡らしたくはない。
「走りましょう、亜美ちゃん」
「え?」
「ほら!」
革の鞄に水玉模様がいくつ出来てゆく。その鞄を持っている腕を掴んだレイちゃんは、亜美を引っ張った。
「走るの?」
「ほら、早く!傘を差さなくても、もうすぐだから!」
「えぇ……そうね、急ぎましょう!」


雨脚より早くなる鼓動が心地いい
いつでもレイちゃんと同じ想いでいたいと願う亜美は、その笑顔に惹かれて行く

雨よ、どうか止まないで
この手が離れないように




9月10日は亜美ちゃんの誕生日ですが今日は9月3日です。
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Date:2015/09/03
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