【緋彩の瞳】 ♭【フラット】 ①

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

♭【フラット】 ①


その真っ直ぐな瞳に見つめられても

「違うの」

って言いたくなる

大好きという言葉も
ずっと一緒という言葉も

ことりの欲しいものとは何一つ違う

伝わらない
伝えられない


だから






わかりやすい熱のこもった視線が、絵里ちゃんへと向けられている。声をかけるタイミングを見計らい、深呼吸を繰り返している肩の上下。

長い睫が勇気に震えている。

それをニヤニヤしながら見守っているのは希ちゃん。素知らぬ顔をしながらも、様子を伺っているのは真姫ちゃん。
「絵里、あ、あのっ、よろしかったら…」
「絵里ちゃん、一緒にパフェ食べに行かない?」
着替え終わった絵里ちゃんが振り返った瞬間、海未ちゃんの勇気をもぎ取ってみせた。とても綺麗な先輩らしい笑顔がことりに向けられる。
「えぇ、構わないわよ」
海未ちゃんが絵里ちゃんと何を話そうとしたのか、あるいはどこかへ誘おうとしたのか、そんなことは何もわからない。ことりは絵里ちゃんの腕を取って、最高の作り笑顔を見せ付けてみる。
「あ、海未。海未も行くでしょ?」
背中を押して部室を出ようとしたところで、絵里ちゃんは足を止めて、何もできずに立ちつくしているだけの海未ちゃんに声をかけた。
「え?…あ、はい。み、みんなで行きましょう」
絵里ちゃんが海未ちゃんを気にかけていることだって知っている。
絵里ちゃんが海未ちゃんを気に入っているのは、きっと、慕ってくれている後輩としての好きだと思う。

海未ちゃんは恋

ことりが海未ちゃんのことを、幼馴染ではなくて恋をしている好きだけど
海未ちゃんがことりに幼馴染以上の感情を傾けることがないのと
同じなのかどうなのか
確信など欲しくはない


絵里ちゃんと海未ちゃんは、海未ちゃん次第でどんな風にでもなれるだろうけれど
ことりと海未ちゃんは


だから








「海未、ほら、行きましょう?」
ことりが絵里の腕を組むように掴んで、先に部室を出て行った。一応、みたいな感じで声を掛けてもらっていた海未は、一瞬だけ嬉しそうな表情をしてみせたけれど、それでもすぐに視線を落として、なかなか一歩が出そうにない。
「……真姫」
「パフェ食べるんでしょ?」
「そうですね」
「ほら」
8月から始まった期間限定のパフェについて、絵里に熱く語りながら歩いていることりは、絶対に心移りをしたわけじゃない。欲しいものが手に入らないのならば、誰のものにもならなければいいと、まさかそんなことを考えているのだろうか。
好きな人を傷つけたいという感情、それも愛情の一つだと言うのなら、真姫にはそんなことはできないだろうし、誰も幸せになることだってないと分かっている。
大人でもない、割り切れない想いだけが絡まり合って、結ばれることすらできない、小さい世界だけの恋の騙し合いばかり。

ことりは小さい頃からずっと海未の傍にいたのに、どうして。
でも、だからこそ、海未の考えることが全て手に取るようにわかっていて、何か真姫が思いもよらないようなシナリオを用意しているんじゃないかと、疑いたくなってしまうのだ。

「海未、元気ないわね、どうしたの?」
「何でもありませんよ」
まだ、今の真姫は、むき出しになりそうな恋情をコントロールできてしまう。

好きよ、海未
とても好き

ことりが同じ言葉を海未に投げかけても無意味であるのと同じように
真姫の感情も、今の海未には何一つ響いたりしないだろう
絵里以外からの感情なんて
海未には必要なものではないのだから
ただ、困らせるだけだ

「そう言えば真姫、ニコが提案していた新しいユニットですが」
「あぁ……私たちの?」
「はい。絵里も賛成していたみたいなので、打ち合わせをしておきたくて。曲のコンセプトと、衣装も考えないといけません。できれば夏休みが終わる前にPVを完成させたいものです」
真姫と海未と絵里でユニットを組むなんて、無茶を言いだしたのはニコちゃんだ。ニコちゃんはこの奇妙な感情のもつれを知ってか知らずか、各学年1人ずつで女子にモテる人を寄せ集めて、受験をする女子中学生に興味を持たせると張り切っている。
「まぁ、絵里がやるっていうのなら私はいいけど」
「明日、ことりも交えて4人で打ち合わせをしましょう」
「……そうね」
海未の視線の先には、ことりと絵里。2人席にわざと座って、1つのパフェを分け合おうなんて微笑んでいる。ことりが絵里を海未から引き離したところで、恋情という想いは一層積もるだけ。普通に考えれば、ことりはむしろ嫌われていくんじゃないかって思うけれど、海未がことりを嫌いになるなんてことは、どんなことがあってもありえないこと。
だから困らせて、行動を見つめられることに満足しているだけなのかもしれない。
「海未、何食べる?」
「真姫はどうしますか?」
「別に、私は紅茶だけでいいわ」
「せっかくだから、パフェ食べましょう。半分、食べてください」
「……いいけど」
絵里のことをチラチラと気にしながら、やっていることは同じこと。それでも、悪意さえ感じることりのそれと、結果的に海未の傍にいることができる真姫とは違う。
「ねぇ、海未。そんな顔しないでよ。不味くなるでしょ」
「え?」
「チラチラあっち見ても、仕方ないわよ」
「……あ、すみません。そんなつもりは」
追いかけている視線の先は、ことりが営業スマイルをまき散らし、そのわざとらしい態度に気が付かないでたじろいでいる、海未の好きな人。
「嫌なら、ことりと替わってもらえば?」
「え?あ、いえ、別に」
「じゃぁ、放っておきなさいよ」
「……そうですね」
気にしているくせに。真姫は丸いテーブルで向かい合っている椅子を海未に近づけた。視線を遮るように座りなおして、肘がぶつかる距離で海未に寄り添う。
「これでいい?」
「えっと、……はい」
ことりが何かを仕掛けてくると言うのなら、すべて真姫が叩き落としてやろうと思う。
海未が絵里以外の人間に傷つけられるくらいなら、真姫が海未を守りたいと思う。
別に、正義のヒーローぶって、結果的に海未を手に入れたいということじゃない。
ことりのように海未の性格を利用することができるほど、器用な人間じゃないから。
それに、海未を傷つけたいだなんて思わないから。



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Date:2015/09/06
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