【緋彩の瞳】 ♭【フラット】 ②

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

♭【フラット】 ②

「海未ちゃん」
「ことり、ごきげんよう」
新しいユニットを組んで、PVを作る。その打ち合わせに呼ばれていた。日曜日の午後、学校じゃなくて真姫ちゃんの家に行くことになって、待ち合わせ場所には海未ちゃんが待ってくれている。いつものように抱き付いて自然と零れる笑みを見せても、少しだけ困ったように眉をひそめるだけ。
「絵里ちゃんは?」
「絵里とは真姫の家で落ち合いますよ」
「そうなんだ。ねぇ、お菓子買っていく?」
「絵里が用意しているみたいなので、私たちは特に何もいりません。遅れますから、行きましょう」
「はぁい」
海未ちゃん、海未ちゃん。
何度も名前を呼ぶと、控えめに、楽しそうですねって返ってくる。
腕に頬を摺り寄せて、歩幅を合わせてくれるその優しさに縋る。
昨日、絵里ちゃんと一緒に楽しんでいるところを見せつけて、困った顔をした海未ちゃんは、どんなことを考えたのだろう。
絵里ちゃんは何も気づかなくて、おいしそうにパフェを食べるだけだった。海未ちゃんが見つめていたことも、全然わかっていない。そして、真姫ちゃんが見かねて海未ちゃんの視線をブロックしてしまった。
絵里ちゃんはことりでも希ちゃん相手でも、とってもかわいく笑えるって知ってる。
でも、海未ちゃんに対してはもっともっと優しく笑うって知ってる。
突けば、簡単に恋に落ちることだって知ってる。
だから、絶対本人に自覚されたくはない。
「海未ちゃん、海未ちゃん。どんな衣装がいい?」
「そうですね。真姫も絵里も綺麗なので、可愛いというよりは綺麗めがいいかと思います」
「海未ちゃんも綺麗だしね」
「いえ、あの2人に比べたら」
「そうかな。綺麗だよ。スリットとか入れたスカートも似合うと思うよ」
「いや、そんな…」
腕を掴んで胸に押し付けても、拒否をされることはないけれど、ドキドキされるようなこともない。それでもしがみつく。
「ことりは、海未ちゃんのことならよく知っているから。似合う服のことなら、任せて」
「……そうですね。ことりなら、綺麗な衣装を作ってくれると思います」
幼馴染として信じ切っている瞳なんて嫌い。

そんなの欲しくない

「あ、絵里ちゃん」
「あら、ことり。海未も、時間通りね」
「そうですね」
先に来ていた絵里ちゃんの姿が見えたから、ことりは海未ちゃんから離れすぐ隣に腰を下ろした。ことりと海未ちゃんのために椅子を空けてくれていても、それをわざと無視してみせる。海未ちゃんは何も言わない。ただ、じっと見ているだけ。
「海未、コンセプトはさっき真姫と話をしていたのよ。真姫がいくつかメロディを作っているから、それに合わせて3人で歌詞を付けていけたらって思うの」
「構いません。私もその方が助かります」
ことりはノートを取り出して、真っ白いページに“まきうみえり衣装案”と書いてあるページを開いた。昨日パフェを食べているときに、絵里ちゃんがずっと衣装のイメージを語っていたのだ。口説くつもりがあったわけでも何でもないから、全部それは覚えている。
「あ、2人とも」
「真姫ちゃん」
「真姫、お邪魔しています」
リビングに入ってきた真姫ちゃんは、一度ことりを睨み付けた。そんな風に感じたのは、ことりが座っている場所が、きっと真姫ちゃんが座っていたところだからだろう。人が座っていた痕跡は、冷たくない椅子の温度で知っている。
海未ちゃんの横に腰を下ろした真姫ちゃんは、ことりと同じようにノートを広げた。
「海未、絵里、一応ね、歌詞の雰囲気として、こういうのがいいと思うのよ」
「へぇ、ラブソング?」
絵里ちゃんが海未ちゃんの様子を伺う。苦い顔をしたまま、海未ちゃんは頭を抱えるだけだ。
「ニコちゃんと穂乃果が、青春系はタブーって言うんだもの」
「……私も言われました。だから、絵里と真姫に書かせますって返事をしたんです」
「海未を悩ます時間がないから、ある程度はこっちでやるわよ」
話し合いと言っても、結局頭の回転の速い真姫ちゃんと、まとめるのが上手な絵里ちゃんがいるし、邪魔をするような人もいないから、ドンドンと物事が決められていく。
「ことり、今回のセンターは真姫にしますから」
「うん、わかった」
「どうしてよ、海未がやりなさいよ」
真姫ちゃんと海未ちゃんがセンターを譲りあうという、ある意味このメンバーらしい言い合いを見つめながら、注意することなく、じっと真姫ちゃんの歌詞を読みながらパート振りを考えている絵里ちゃん。ことりは絵里ちゃんの腕に身体を押し当てて見せた。
海未ちゃんが、あっ、っていう声を押し殺すのが良く見える。
「ねぇ、絵里ちゃん、真姫ちゃんにする?」
「え?あぁ、真姫でいいわよ。3人だけだから、センターって言っても、基本立ち位置なんてすぐ変わるだろうし、平等に歌も振り分けるだろうから」
「うん、じゃぁ、一応真姫ちゃんセンターの衣装にするね」
「えぇ」
真姫ちゃんは、頬に空気を貯め込んだままこっちを睨んでくるけれど、抗議してこない。ことりはにっこりと笑って見せた。ぎゅっと絵里ちゃんの腕にしがみついて、海未ちゃんに見せ付けてみる。
「ことり……ちょっと、近い、かしら」
胸の膨らみに腕をこすりつけると、絵里ちゃんが困ったようなため息をことりの前髪に吹きかけた。
「あ、ごめ~ん。なんかいつも、海未ちゃんと穂乃果ちゃんにやっちゃうから」
「仲良しだけにしないと、いろんな人にやったら、誤解されるかもしれないわよ」
「え~?絵里ちゃんならいいよ?」


数秒間の沈黙で、あからさまに変な空気が流れて。
その秒数の間、ことりは海未ちゃんからの視線をずっと受けていた。
欲しい想いの欠片もなくて。


「う、海未~、ことりを何とかしてくれる?」
「え?あ、はっ、はい。ことり、絵里を困らせないであげてください」
腕を抜けきれない絵里ちゃんは、声を荒げて怒ったりしない。この空気にいち早く清涼スプレーをまいて、なかったことにしてしまいたいのだろう。
「ことり、ほら」
「はぁ~い」
真姫ちゃんはただ、じっと見てくるだけ。何を考えているのか読み取ろうとしてきている。
真姫ちゃんだって、好きなんでしょう。
そのくせ、何もしない。
真姫ちゃんの想いは、きっとその程度なんだと思う。
「早く、全部歌詞を完成させましょう」
「そ、そうですね」
絵里ちゃんは海未ちゃんとことりを何度か見比べた後、抱きしめていた腕を摩った。困ったような眉の形は、それでも海未ちゃんほどじゃないけれど、素直で真っ直ぐな性格らしいって思える。


「………ことり、あまり絵里を困らせてはいけませんよ」
「そんなつもりなんてないよ」
何かあれば、わざとらしく身体を寄せて絵里ちゃんの様子を伺ってみても、絵里ちゃんは意識しないように徹底的に視線を逸らしたままだった。途中で真姫ちゃんが絵里ちゃんを呼んでピアノの部屋に閉じこもったり、海未ちゃんも何度も部屋を行き来し始めて、3人は真面目に曲作りに取り込んでしまったから、ことりはそれをじっと見ているだけ。絵里ちゃんに熱のこもった視線を送りつける。海未ちゃんに見えるように。
海未ちゃんに見せつけるためだけに。
そうやって、今日の作業は終わった。
「……そうですか」
真っ暗な帰り道、幼馴染の慣れ親しんだ手繫ぎには感情なんて込められていない。
きつくしがみついても、何も思われていないし伝わることもない。



「海未ちゃん、私、実は絵里ちゃんが好きなの」

「………………ことり?」

「絵里ちゃんが好き。海未ちゃん、色々相談に乗ってくれないかな?」

握りしめている指から、いたたまれないくらい震えが伝わって来て、大きく見開かれた純粋な瞳に映し出されることり自身が、灰黒く罪に汚れて見えた。
「えっと………ことりは、絵里が、好きなのですか?」
「うん。ちょっと前から、その、片想いしているの」
「…………絵里に、恋をしているのですか?」
「うん」
歩く気力を奪われるように、まっすぐ立っていることもできなくなるほどに。
「海未ちゃん、どうしたの?」
「………いいえ」
「ことり、どうしたらいいかな?」
「どう、というのは?」
引っ張るように歩き、海未ちゃんの腕を掴んでも、血の気の引いた身体は状況を飲み込めないし飲み込みたくないと、夢の世界に閉じこもっていたいと本気で思っている表情だ。

そんなに、絵里ちゃんが好きなの?

「絵里ちゃん、ことりと付き合ってくれるかな?」
「………すみません、その、私は…恋とかそう言うのがよくわからないので、お役に立てそうになくて…」
「じゃぁ、応援してくれたらそれでいいし、何かあったら言うね」
「え?あ、はい……」
「誰にも秘密だよ?」

海未ちゃんの揺るぎない信愛の眼差しは
ことりの望むものじゃない

その瞳で見つめられるたびに
違うの、そうじゃないのって

違うって


「約束します」
「信じられるのは、海未ちゃんだけだから」


信じるっていう言葉
海未ちゃんが好きなもの


海未ちゃん自身を縛りつけるもの



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Date:2015/09/06
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