【緋彩の瞳】 ♭【フラット】 ③

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

♭【フラット】 ③


「海未、どうかしたの?」
「……あ、いえ。何も」
しばらく午前中はμ’sの練習、午後はユニットの練習をすることになった。部室で鏡を見ながら振付の確認をしている間、朝からずっと何かがおかしい海未に、先に痺れを切らしたのは絵里だ。
「暑いし、体調でも悪い?」
「いいえ」
「3人のユニットに不安でも?」
「いいえ」
「……元気がないのは、どうして?」
「いえ、私は元気です」
そう言って、絵里が近づこうとする同じ歩数、後ずさりしていく。それは照れていると言う様子には見えなかった。いつも、恋情をにじませた瞳で見つめているのに、困ったと言うか怯えていると言うか。
恋が消えた様子ではなさそうだけど、何か別の感情を抱えているようだ。
「絵里、海未、ほら、もう一回確認しないと」
リズム取りのメトロノームの速度を上げて、真姫は手を叩いて見せる。
このままだと絵里が海未を問い詰めて、もっと苦しませるだけだろう。
何があったのかはわからないけれど、絵里のことだというのは明らかだし、それを本人に告げるなんて言うことも、海未はできない人だから。
「……あとで、話をしましょう」
「別に何もありませんよ、本当に」
「……そう。じゃぁ、もう一度最初から」
ダンス経験のある絵里と、運動神経のいい海未、真姫はセンターだからそれほど難しい振りでもない。ピアノで仮録音したメロディにすぐに3人で振りを付けて、怖いくらい順調そのもの。海未がブレーキを踏まなければ、滞りなくPV撮影も夏休み中に終わるに違いない。
ぎこちなく、あからさまに絵里に気まずい態度を見せたままの海未。それはたぶん、朝からだった。何となくそんな風に見えるだけだったし、真姫も自分の練習やほかのメンバーたちとのパート練習もあって、ずっと気に留めていたわけじゃない。
何があったのだろう。

ことりが何か余計なことをしたのだろうか。

ことりは絵里に何をしようとしているのだろうか。
モーション掛けたふりをして、海未を困らせて様子を伺っているだけじゃ済まない“何か”をしたのだろうか。



「真姫、ちょっといいかしら?」
休憩に入ると、海未は屋上のメンバーたちがサボっているかもしれないと、様子を見に出て行った。水分補給をしながら、真姫もそれを追いかけるついでにことりの様子を確認しようとしたところで、絵里に腕を掴まれてしまう。
「何?」
「……海未、おかしいって思うんだけど」
「そりゃ、まぁ、そう思うわよ」
「心当たり、ある?」

答えは一つしかない

海未が絵里を好きだから

「………何となく」
「真姫は知っているの?相談とか、乗ってあげているの?」
「何も聞かされてないわ」
「……でも、心当たりはあるのよね?」
そう言う聞き方はズルいとおもう。本当は知っているのではないかって思いたくなる。
海未の気持ちを絵里は……。
「あったからって?絵里に言わなきゃいけない義務なんてないわ」
「そうね、でも海未の態度がおかしいのは、私に対してだわ。教えてくれたら何か対応ができるかもしれないし、練習もしやすくなるわ。明日も明後日も、私たちの練習は続くのよ。真姫はこのままでもいいと思う?」


恋なんてしなければ
海未が絵里を好きにならなければ
ことりは片想いだけで満足してくれていたと思う
ずっとずっと、小さい頃から海未に恋をして、その想いを淡く抱いたままで


「ねぇ………絵里は海未のこと好き?」
「は?な、何よ、急に」
「好きかって聞いているの。人としてじゃないわ、恋愛対象として」
きつく睨むように見つめる。YESでもNOでも、きっと真姫の欲しくない答えなのだろう。海未が傷つく答えでも、海未が喜ぶ答えでも。

でも、たぶん

真姫が本当に嫌なのは、海未が傷つくことだけだ。
自分が傷つくこととか、海未以外の誰かが傷つくことなんてどうでもいいって思う。
それは優しさじゃなくて弱さだろう。

本当に弱い。

だから

「恋愛対象?どうしてそう言うことを聞くの?」
賢い絵里の視線は、何かに気が付いたんだってわかる。
「………気づいてないの?」
「何のことよ?」
言わせて確かめたい。
「………海未の気持ちよ」
左右に揺れる視線が、海未のことだけを考えているわけじゃないっていうのは明らか。
「言わせておいてはぐらかすのね、絵里は」
「ちょっと待って」
「別に、私は関係ないことだけど。でも、海未だって色々想うこともあるんだから、そっとしておいてあげたら?」
自分にそう言い聞かせているから、出てきたセリフに違いない。それでも、海未のために出来ることなんて、真姫にはない。
「………ことりは海未が好きよ」
「それがどうしたのよ」
「………嫌なのよ、その。私が海未を好きになったら、ことりが悲しむわ」

ことりが悲しむ?
海未が悲しむよりも、そっちを取ると言うの?
9人仲良くずっとお友達でいようっていう、一線を超えない絵里の気持ちは、多少なりとも責任感の強い性格だから、わからなくもない。


でも、好きにならないようにしている?
何よそれ
意味わかんない
好きだと言う感情なんて、そんなに簡単にコントロールできるものなのだろうか

「恋愛なのよ?そんなの、仕方ないでしょ」
「μ’sでいる間は、そういうイザコザを起こしたくないの。知らないフリをしておけば、海未と私が恋人になることもないと思う」
絵里は気が付いていたみたいだ。何もわかっていないフリをして、海未の視線を浴びながら、それでもいつもと変わらない態度で。
「まさか、海未が諦めてくれたらいいのにとか思ってるの?」

ことりと海未の友情のために
そんなきれいごとのために
仲間で楽しい時間を過ごすために

「そこまでは……でも、卒業まであと半年だから」

絵里は結局、好かれていたいという気持ちまで、捨て去ったわけじゃない
それってかなりズルい感情だと思う

今は応えられない、そんな、優等生な態度を見せながらも
好きでいて欲しいだなんて
海未の気持ちを振り回しているのは、ことりもそうだけど、絵里だってそうなのだ

誰も、海未が幸せになることについて考えてあげられない


「絵里ってズルい人ね」
茶番だと思う。絵里が海未を気にしているのなら、好かれていたいと願っているのなら、結局は両想いと言うこと。それならば、2人が幸せになれる道は開かれているのに。

心臓の周りがぎゅっと痛くなる。苦しいと思ったけれど、それを悟られたくはない。
別に絵里と海未が両想いだからって、真姫が海未を好きでいることを諦めなければいけない理由にはならない。

「……待ってよ。だって、じゃぁ、ことりと海未の友情に亀裂が走ってもいいの?あの2人はμ’sの要だわ。私が海未を好きになってしまえば、ことりだって黙っていないと思う。ことりのことだから、海未が誰を好きかは……真姫だって知っていたのでしょう?」

ことりが海未と絵里の間を引き裂こうとしている時点で、もうすでに友情なんてない。
淡く大切に恋い焦がれるくらいなら、ずっと仲良しでいられたのに。
きっとことりは、絵里のせいにするだろう。
その仲良しでいられなくなったのは、絵里のせいだと。
海未が絵里を好きになったからだと。


「絵里がことりの前で、海未に告白したらいいじゃない」
「いや、話聞いていたの?私は海未をそう言う風に……」
「好かれていたいくせに」
そんな心地よさだけで、絵里が満足する人とも思えない。
「………そうね。きっと私もズルいんでしょね」
じっと、絵里が見つめてくる。ズルいってわかっているのなら、絵里は一番優位な場所から関係ないフリをしているばかりじゃなくて、この状況を変えるべきだと思う。変えられるのは絵里だけなのに。
「私はそう言うの、嫌いだから。あんまりにも海未が辛そうなら、私は黙っているつもりもないし」
青く澄み渡る瞳の色。海未が恋を携えていつも見つめている瞳。
理性で感情をコントロールしているつもりでも、それが他人のためだと言いながらも、誰かを傷つけることが怖いだけの、臆病者。
「………真姫、私たちは仲間よ」
「だったら、何?乱しているのは誰?」
外された視線が答えだ。真姫は部室を出て、屋上へ向かった。




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Date:2015/09/06
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