【緋彩の瞳】 ♭【フラット】 ④

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

♭【フラット】 ④

毎日、じっとことりの様子をみている。絵里がいないときは、海未にべったりといつもの様にくっついている。そこに絵里が入ってきたら、わざとらしく絵里の傍に寄り添って、可愛らしい笑顔を振りまいて。海未がそれを視線でずっと追いかけることをわかっていて。海未がいない間は、絶対にことりから絵里に近づくようなことはない。
海未の感情を掻き回せば掻き回す程、ことりは海未を苦しめて、ことり自身の首に何重にも糸を絡ませていくだけなのに。

何を、どうすれば、ことりの何かしらの計画が達成できるのだろうか。


1週間ほど、海未は午前中の練習では絵里を視界に入れようともせず、何かことりを気にしてばかりいるし、午後は午後で、絵里が海未に気を遣って様子を探ってばかり。曲のアレンジも大体は決まっていて、今日はことりが衣装のための生地を買いに行くと言うことになっていた。海未はそれに付いてきて欲しいと頼まれていて、腕を組むように2人で学校を出て行く。幼馴染の2人は、いつだってあんな風に仲良く歩いていた。そう言う2人の後姿は可愛らしくて、幼馴染に凄く甘くて優しい海未の顔は好きだった。もう、そんな顔を見ることなんて、穂乃果と2人でいるときくらい。
「絵里、本当にあと半年の間、これを続けるつもりなの?これって絵里の望む、みんな仲良しっていうものなの?傷ついているのは、海未だけよ?わかってんの?」
「わかってるわ」
「………わかっているのなら、もっと最低だと思う」
ダンスが揃わない。噛みあわない。歌もバラバラ。呼吸が全く合わない。練習を覗きに来た穂乃果が言葉に詰まって引きつった笑顔を見せて、逃げるように帰って行った。コメントさえしようがない出来の悪さ。絵里と視線を合わせない海未も、それを何とかしようとしない絵里も。
「でも、海未が何も言ってこない以上は無理よ」
「はぁ、無理?何なの、それ。絵里が海未に好きだと言えばいいだけでしょ?」
2人きりになれば、絵里と真姫は険悪の道を突き進むだけだ。いい加減にして欲しい。お互いに気になる存在ならば、そんな奇跡を平気で逃すなんて。

好きになった瞬間から、友情じゃなくなっているくせに。

「今は余計にダメよ。海未を混乱させるだけよ」
「混乱?かえってすっきりするわよ。両想いで、告白をすれば付き合える関係なのよ?それを周りが祝福すれば、ことりだって空気読むかもしれないでしょ?」
「でも……」

絵里はいつも

でも
だって
仕方がない

そればかり


「………明日の午前中まで我慢する。ことりが衣装を作ってしまえば、このユニットを白紙にし辛くなる。曲は他の誰かにユニットを組ませたらいいわ。絵里は海未に告白をするべきよ。この状態を何とかすることができるのは、絵里しかいないんだから」
「どうして?真姫はどうしてそこまでしたいって思うの?」

部室の空気は、穂乃果や凛がいれば和気藹々と無邪気で楽しい場所だ。海未がよく好む
【今を楽しむ、青春】がここにあって。
真姫にとっても居心地が良くて、楽しそうに幼馴染たちと微笑み合って、時々、絵里をちらりと見つめては胸のリボンをぎゅっと掴んでいる、そんな海未を見ていることも好きだった。一緒に曲作りをしているときに、ラブソングでも書く?なんて言えば、真っ赤な顔をして怒り出して、そうやって海未をからかうことも楽しくて。

「絵里がこのまま有耶無耶にするのなら、もう私は応援なんてしない。海未のことを守るためなら、ユニットも歌も私はいらない」


海未を好きだから


声に出しそうになるのを堪える


「まさか、真姫は海未を好きなの?」
「………そう見える?早くしないと、私がいつまでも傍観者でいるとは限らないわよ」
「待ってよ、それじゃぁことりは?」
ことりのことを気にしている意味がわからない。ことりは最近、わざとらしく絵里に懐いているように見せているけれど、絵里はそれがどうしてなのかと疑おうとすらしないのだから。海未と同じように純粋で馬鹿なところがある。
「知らないわよ。っていうか、海未が絵里を好きだと言う時点でことりは十分傷ついているし、私だって多少なりとも、色々思ったわよ。でも、だからって何?全員が波風たたないように、時が過ぎ去るのを待ちましょう、とでもいうわけ?自分だけ半年後に海未に想いを告げる権利を得ているとでも?ことりがそれまで、じっと何もしないって思うの?」
絵里が卒業したら、今までのように仲良しの幼馴染の関係を維持するなんて、ことりは出来るのだろうか。積もりに積もった恋情は、絵里という目が離れた瞬間、海未に縋り付くように、何もかもを食べつくしてしまうこともあるんじゃないか。
「………ことりに海未のことで相談されていたの。応援していた私が、ことりを裏切って海未に好きだなんて……言えないわよ」
「まんまと罠に引っかかったってことでしょ?絵里にそう言えば、絵里が海未を好きになることはないって、そういう風に絵里の理性を利用されているってことよ」

憎たらしいっていう感情は確かにあるのに
それでも
どんなことをしても、手に入らなくても
絵里のものになることだけは嫌だと言う、ことりの恋情はわからなくはない
素直に好きだと言ったところで、海未の恋心を永遠に手に入れることができないとわかっているから
余りにも長く一緒にいすぎたせいで、誰よりも恋人になれない立ち位置にいるのだと
ことり自身、よくわかっているに違いないだろう

「そうだとしても、だったら……」
「もういい。とにかく、明日の午前中までに何とかしてくれないと、私はこのユニットを降りるから。凛にさせればいいわ」
1年生の誰かに任せてしまえば、各学年1人ずつっていうのはクリアするし、問題はない。こんな鬱々とした、呼吸のしにくいところなどいたくもない。





「おはよう」
早朝、衣装制作のため3人揃って被服室に呼び出された。採寸が終わり、布にはさみを入れてしまえば後戻りはできない。それが真姫の言っていたリミットだろう。
「おはようございます、絵里」
2人に声をかけても、真姫からは軽蔑のような視線を投げよこされるだけだ。そしてそれを受け止めきれずに、逸らすことで逃げるしかない。
「じゃぁ、絵里ちゃんから採寸するね」
「そう?じゃぁ、お願い」
両手を広げて、メジャーが身体に押し当てられていく。
「私たち、部屋の外にいるわ。海未、ちょっと良い?」
「あ、はい」
真姫が海未の腕を掴んで、出て行った。勢いよく開閉された扉の音は彼女の不機嫌を表している。このまま、真姫は採寸を拒否して凛を呼び出してしまうかもしれない。
「真姫ちゃん、どうしたのかな?」
採寸しながらメモを取っていくことりは、海未の姿が見えなくなった瞬間から笑顔が消えた。
「…………真姫は、ユニットを降りるかもしれないわ」
「えっ?どうして?」
「どうしてかしらね。きっと、色々と悩んでいることがあるのでしょう」
「悩み事って、ユニットのこと?曲とか振付?」
髪を指で掬い耳の後ろに掛ける、可愛らしい仕草とは裏腹に強い意志を持った海未の幼馴染。海未のことがとても好きだと絵里に告げたのは、絵里が海未を意識し始めた頃と変わらないくらいの日だった。

“ずっと、小さい頃から好きだった”と。

「さぁ。私のことだと思うわ」
「絵里ちゃんのこと?」
テキパキと採寸を終わらせて、アクセサリー関係を選ぶのは、真姫と海未が気に入ったものを先に取ってもらい、残りでいいからと告げた。
「真姫ちゃんたち、呼んでくるね」
「あ、ねぇ。ことり、少しだけ…いいかしら?」
真姫はきっと、このまま何事もなかったように採寸をさせてくれることはないだろう。ユニットを降りると宣言し、その理由もすべてぶちまけてしまう可能性だってある。そんなことをしてしまえば、ユニットどころか、μ’sというグループそのものの活動が消える可能性だってあるのだ。
「どうしたの、絵里ちゃん」
「……海未のことなんだけど」
「海未ちゃん?」

何を天秤にかけなければいけないのだろうか。

μ’sの仲間たちと楽しく歌っていたいと願っている。
そのために、取りあえず海未を意識しないようにと、気を遣っていた。
ことりから、海未のことを恋愛として好きだと知らされた日からいっそう、自分が何か行動しない限り、妙な空気の中で息苦しさを感じることもないだろう、と。
「そう、海未のこと。あのね、ことり。私はあなたの恋を応援するって言ったわ。実際、応援って言っても何もしてあげられなかったけれど……その……実は私……」


私も、本当は海未のことが好きなの


好きだと言ってしまった瞬間
ことりに泣かれるんじゃないかって思った

「そっか。うーん、何となくはわかってた、かな」
「え?」
「話したいことってそれだけ?」




作り笑顔を崩さないことりを見ていると、すぐにでも海未に気持ちを伝えに行きたくなった。何もかも分かっていて、絵里が海未を好きだと分かっていて、真姫の言う通り絵里を牽制する意図があって、恋愛相談してきたと言うのなら……
別にそれに対して腹立たしいって言う感情が湧いたわけじゃない。でも、きっとことりだってそんなことをしたかったわけじゃないだろう。海未の傍にいたい、そのためにはそうすることも一つの方法だと考えた結果に違いない。
「………ことりの気持ちを知っておきながら、こういうことをするのはどうかと思う。でも、私は海未に好きだと言うわ。もしあなたも、気が変わって海未に気持ちを伝えられるのなら、あなたの後でいい。ことりは海未には伝えられないって言うけれど、言わなければ何も始まらないし、そのことで海未の感情を揺さぶることもあるかもしれないわ。だから……」

例え海未がことりを恋愛対象と見ていなかったとしても。
絵里を好きでいてくれていたとしても。
海未は情に熱いから、ことりの想いを受け止めてくれることだってあるかもしれない。

もしそういう結果になったとしたら、それは海未が決めたことで、絵里はどうすることもできないし、それこそ、ことりから海未を奪いたいと言う感情も沸き立つことはないだろう。
もし、そう言う感情があったのなら、ことりに相談された時に、自分も好きだと告げることができていたはずだ。もっと、海未を好きだと思ったはず。
絵里はあのとき、μ’sの仲間を想った。大切にしたい仲間たちの輪を乱すわけにはいかない、と。自分さえ気持ちをなかったことにすれば、浅い傷にすぐ瘡蓋ができて、やがて剥がれ落ちて跡形も消えるに違いない、と。
「私のことなんて気にしないでいいよ?」
「え?…でも、あなたは…」
ことりは、ずっとずっと好きだったと言っていた。だから、絵里が行動に出なければ、ことりが海未を好きだと言うことだけで、μ’sの活動に支障が出ることもないだろうと分かっていた。海未が絵里に対して、好意を寄せてくれているということに気づいていないフリをして、何事もなくやっていけたらいい、と。

せめて、卒業するまでは。


「海未ちゃんのことは好きだよ。でも、別に絵里ちゃんが告白することを、私が止める権利なんてないよ」
「………海未が私と付き合うようになってもいいの?」
海未が誰を好きか、ことりはわかっているのだろうか。きっとわかっているんだと思う。真姫でさえ知っていた。絵里だって自惚れが過ぎるって何度も思いながら、それでも海未と視線が絡み合うたびに赤くなる頬を見て、好かれている心地よさはあった。だから、きっと誰が海未を好きであろうと、卒業を待てばいいなんて、そんな余裕を持っていたのだ。
浅はかで海未に対して不誠実な想いだというのに。
「そうなったら、仕方ないよ。海未ちゃんがそれで幸せだって思うなら」
「…………ことりは、いいの?」
「うん」

温度のない作り笑顔が、静かに責めたててくる。こんな息苦しさが嫌だから、何も気が付かないフリをしていたはずなのに。これからずっと、ことりに申し訳ないと思いながら、一緒に活動をする覚悟なんて、本当に絵里にあるのだろうか。

だけど

言ってしまった時点で、もう、同じなのだ


「……真姫たちを呼ぶわね」
「うん」


何を天秤に掛けたというのだろうか

真姫がユニットから離れることも、ことりより先に自分が海未に想いを告げることも、左右に離れているものではないはずだ。きっと自分だけが天秤の真ん中に立っているつもりでいた。
正義なんて、秩序なんて、恋という想いを抱いた時点で存在しないのに。


一秒でも早く、海未に想いを告げてしまいたい。
ことりに泣かれたとしても、それでも。
今すぐ言わないとって思わせることりの作り笑顔が、絵里の規則正しい呼吸を乱していく。




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Date:2015/09/06
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