【緋彩の瞳】 ♭【フラット】 ⑤

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

♭【フラット】 ⑤

「……真姫」
海未の腕を取って被服室を出ると、海未が肩を掴んできた。左右に揺れる瞳は、胸を締め付けられるような痛みを与えて、そのまま抱きしめてしまいたくなる。
「どうしたの、海未」
「お話をしたいことがあります」
「じゃぁ……少し歩きましょう」
被服室の扉をちらりと見て、海未は声にさえならないような、小さなため息を吐いた。
なるべくあの2人から離れた方がいい。そう思った真姫は、腕を引っ張って歩き始める。廊下を進み、静かな階段の踊り場へと向かった。
「真姫……今回のユニットですが、その…ことりと私をメンバーチェンジさせてもらえませんか?」
「……え?なんで?」
降りたいのは真姫なのに。どうして海未が降りたいと願ったのだろう。ことりは一体、海未に何を吹き込んだのだろう。真姫の知らないところで、誰が何をしたのだろう。
何も考えつかなくて、それでも心苦しいと言わんばかりの海未の表情。
「……その、色々と。歌詞の内容は私には向いていませんし、その、えっと、とにかく私よりも、ことりが入った方がずっと、良いと思います」
「全然、良いとは思わない」
「ですが………すみません。どうしても、私は……私にはできないのです」
その表情は本当に今にも泣き出しそうで。困ったように眉が垂れ下がり、いつものような凛々しい瞳の色は消え去っていて。
「………どうして、ことりなの?だったら私と絵里2人でやってもいいわ」
「いえ、ことりを入れてあげてください」
その言葉にやっぱり引っ掛かりを覚える。

いれて“あげて”

「ことりに何か頼まれたの?」
「いえ、別に」
視線は何度も左右に揺れる。きっとことりはそんなお願いをしない。するとしたら、海未と2人になれる方法を選ぶはず。どうして海未が抜けてことりが入る必要があるのだろう。

海未はことりに、一体何を言われたというのだろうか。


「海未……歌詞が嫌ならちょっと変えたらいいし、っていうかそんなに歌うのに困るほどの内容でもなかったでしょ?3人で作った時に海未は何も言わなかったわ」
いつもは背筋をピンと伸ばして、人と会話をするときはじっと瞳を見つめてくるのに。そうしてくれない、何かを思い悩みもがいている肩に両手を置いた。いつもは見つめられて、逸らせない視線にドキドキしていたのに。
じっとうろたえる視線を追いかけて、真姫を見つめて欲しいと願う。
「………はい」
「だったら、正当な理由をちゃんと話して」
「ごめんなさい、真姫。あなたには…いいえ、誰にも言えないこともあるのです。ただ、私自身のことで言えるのは………私はことりのことがとても大切で、大好きで、ずっとこれからもそう思い続けたいのです。穂乃果とことりと3人で、ずっと……」


意味がわからない
真姫の知らないところで、誰かが何か海未に言ったとでもいうのだろうか。

絵里はまだ、海未に何も言っていない。さっきまでの態度を見ていればわかるし、海未だって絵里に好きだと言われた様子もなかった。ましてや、絵里からことりが海未を好きだなんて言うはずもないだろう。
ことりだってそうだ。ことりは一番、海未に好きだと言うに言えない人物のはずだ。ただ、それは勝手な真姫の想像でしかなくて、ことりが海未に好きだと想いを告げていたとして、だったらなぜ、海未がユニットを抜けるなんて言うのだろうか。絵里を好きな感情と、ことりからの想いに挟まれて、いたたまれなくなったとでもいうのだろうか。
海未はそう言う人なのだろうか。海未なら、ことりから好きだと言われたのならば、真剣に考える人ではないのだろうか。付き合うにしても付き合わないにしても、ことりを傷つけることもせず、自分自身の感情を偽ることもせず、向き合うような人ではないのだろうか。
それは、真姫がそう思っていたに過ぎなくて、そう思っていれば、自分が振られた時のシミュレーションになるとか、そんな都合のいいことを考えていたにすぎないのだろうか。

自分の都合のいいように、海未はそういう人だと理想像を作り上げていただけなのだろうか。

「海未………ことりに告白されたの?」
ついさっきまでの絵里の様子だと、絵里が海未に想いを告げた様子はないと言い切れる。
だとしたら、やっぱりことりなのだろう。
今更になって、どうして海未に想いを告げたのかはわからないけれど、ユニットで一緒にいることが多くなった2人を見て、どうしようもなかったのだろうか。あれだけわざとらしく絵里にベタベタしていたのは、一体何の目的だったのだろうか。絵里と海未が近づくことを、阻止したかっただけだとでもいうのだろうか。
「……真姫は……知っていたのですか?」
信じられないものを観るかのように、海未の戸惑いの瞳が真っ直ぐに真姫に注がれた。真姫よりもわずかだけ背が低い海未から見上げられて、ごくりと覚悟のようなものを喉の奥にのみ込んだ。
「だって、それは。でも、ことりは海未には言わないだろうって思ってて……」

あぁ、ことりは海未に想いを告げたんだ。

「………ことりは真姫に、気持ちを告げていたのですね」
「あ、いや。見ていて気が付いたわ」
「そうですか……」
何を言えばいいのだろう。それで、海未はどういう返事をしたのだろう。ことりは振られたのだろうか。さっきの海未の言葉では、ずっと穂乃果と3人で仲良く、みたいに言っていたということは、想いを受け取らなかったのだろう。それとも、そう願っているけれどそう答えられなくて苦しんでいるのだろうか。
「海未……」


海未のことが好き


今にも泣きそうな海未の表情は、それでも簡単に泣くわけにはいかないと強い意志を貫こうとしている。ずっと傍にいられるはずだった人から、思わぬ恋を打ち明けられ、それでも海未は、絵里が好きだと言う想いを、それだけでは消すことができなかったに違いない。
友情と恋情。
狭間で揺れ続けるくらいなら、何か状況をひとつだけでも変えたいのだろうか。
「………海未……もぅ、ユニットの企画、やめましょうよ。私が白紙に戻すように言うわ。ユニットがないからって、μ’sがなくなるわけじゃないんだもの。ね?」



海未がこれからどういう風に、ことりからの恋情と絵里への恋情と向かい合っていくのか

わからない

真姫は何もできない

ただ、じっと今までの通り見つめていることしかできないのだろうか


「いいえ。真姫、あなたもことりの想いを知っているのなら、絵里と同じユニットで歌わせてあげた方がきっと……あの子も喜ぶと思いませんか?」


………


「海未?」

涼しげに、寂しげに、それでも致し方ないと言わんばかりの無理やりの笑顔。
その笑顔が真姫の心臓のすぐそばを突き刺した。

何か、話が違うのかもしれない。

「……私は愚かなのです。ことりから絵里が好きだと告げられたあの時、一瞬だけ、なぜだか、絵里を取られたくないと、醜い考えがよぎりました」




「……………う………そ」





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Date:2015/09/06
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