【緋彩の瞳】 ♭【フラット】 ⑩

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

♭【フラット】 ⑩

「真姫………私が選んだ答えは、正しいですか」
放課後、ユニットを停止させると言う意見は3人の中で一致して、曲は花陽、ことり、穂乃果が引き継ぐことになった。振写しを絵里が担当し、真姫は海未の手を引いて音楽室にあるピアノへと向かった。3人のための曲はそれなりに気に入っていたが、一方通行の恋をテーマにした曲を歌うなど、絵里と海未にも、真姫にも無理だろう。
「海未がすべて自分で選んだのよ。正しいことだわ。ことりと絵里の間に何も生まれないことは、海未のせいじゃないもの。恋なんてそんなものよ」

シ♭

右の人差し指で鍵盤をつま弾く
ゆっくりとやがて消えて行く音

こんな風に絵里への恋情は消えてゆくのだろう
いや、消してゆくのだ

「………ことりは、絵里が私に告白をして下さったことを知ってしまったのでしょうか?」
ことりは知っているだろう。絵里から告げているに違いない。
「確認は取ってないけれど、可能性はあるかもしれない。でも、海未はもう一切関わらない方がいいわ。海未はことりから相談されても、何もできないって言い続けるの。わかった?謝ったりもしちゃだめよ?ことりが絵里と付き合えないのは、海未のせいじゃない。絵里がことりを選ばないっていうだけなの。たとえ絵里が海未を好きじゃなかったとしても、絵里がことりを選ぶと言う選択肢はきっとないわよ」
海未に告白をしたのだって、そういう状況になってしまったからだ。
真姫が言わなければ、きっとずっとあのまま何も言わずに、卒業後に望みを託したままだっただろう。
「そう、ですか。今度はことりが私に気を遣って、絵里に想いを告げられないのではないかと思うと……」
「それはことりが自分で決めること。それで海未を責めるような人じゃないわよ」
ことりが、海未に嘘を吐いたことを正直に言ったら、海未はどう思うだろうか。
怒るのだろうか。いや、きっと、嘘を吐いた事情を問い詰めるだろう。
そして、嘘を吐かせてごめんなさいと、ことりに詫びるのではないだろうか。
海未は優しいから。
「真姫………私は、初めから絵里とお付き合いしたいと言う気持ちは、持てずにいました」
「え?……どうして?」
メトロノームの代わりに鳴る時計の秒針が、倍速で聞こえてくるように感じた。
「勘違いしていたことなので、今更なのですが。……私はことりに好かれていると、何となくそう思っていたのです。中学の頃からそう思われていると感じていて。だから、ことりから絵里が好きだと告げられた時、戸惑いがありました。本当に、いろんな戸惑いが一気に私を襲ってきて、何をどうするべきなのか、わからなくなりました。ことりからの想いは、彼女が私に告げない限り、何もないだろうと思っていました。絵里と出会って、私が絵里に恋焦がれて行くことも、おそらく彼女は見ていたのでしょう。その過程で興味が絵里に向いたのか、それとも、私はことりに好かれていると言う勘違いを何年もし続けていたのか。悩みました。でも、そう、きっと……勘違いだったのでしょう。私はひどく己惚れていただけです」

可愛そうなことり
なんて、可愛そうなことり
海未はちゃんと知っていたのに
ちゃんと気が付いてくれていたのに
最初から絵里と付き合うつもりはなかったのに
ことりのために
ことりに想われているとわかっていたから

「………もし、本当にことりが海未を好きだったとして、ことりが海未に告白をしたら、海未はどうしたの?」

黒い鍵盤に置かれた指先は、音を出せずに小刻みに震えている。
きっと、全員の本当の気持ちを知っているのは、真姫だけになってしまったのだろう。
海未がちゃんとわかっていたなんて、知りたくはなかった。
今になって知っても、もうことりには何もかもが遅い。

「さぁ……きっと何日も寝ないで考えたでしょう。流石に大切な幼馴染とはいえ、同情というものでお付き合いをするなど、ことりは望んだりしませんでしょうから。ですから、彼女に対して、そういう想いを抱けるかどうか、そもそも、恋情を抱いているかどうか、自分自身に問いかけ続けたことでしょう」
「……絵里と出会っていなかったら、どうなっていたのかしらね」
ずっと想い続ける。
そのことだけで心を満たして、いつか、大人になって離れ離れになって行って、それこそゆっくりと想い出になって行ったのかも知れない。
「どうでしょうか。仮定の話をしても仕方ありません。私はことりも絵里も大切で、大好きです。今、こうやってみんなで一緒にいるこの空間も大好きです。何も失いたくないという我儘な私が、きっと一番悪いのでしょう。絵里が好きでいてくれたことはとても嬉しくて、嬉しくて………本当に、嬉しくて。でも、私は……」

ことりが海未に嘘を吐かなくても
そんな嘘を吐かなくても
海未は絵里と付き合うことはなかった
ことりの想いをちゃんと知っていた海未は
最初から、絵里と付き合うということはしないと決めていた
ことりのために、恋を実らせることを早々に諦めていた

「嬉しいって思って、揺らいだ自分が愚かでした。でも、やっぱり……そうですね、知りたくありませんでした。ずっと、知らない方が良かったのです」
「…………もう、終わりにするの?本当に、もう…これでいいの?」
「はい。何かが身体から剥がれ落ちたような想いです。絵里を好きだと言う気持ちを心から捨ててしまえば、とても気持ちが楽でいられます。私はやはり、親友としてことりの傍にいたいのです。絵里が私を好きだと知ってしまったことりが、私を嫌うかもしれません。それでも……私はことりが大切で、大好きなのです」

真っ直ぐな瞳がことりを見つめても
ことりはずっと、息苦しさを抱き続けるだろう
海未を嫌いになりたいと願っても
真っ直ぐな瞳から
視線を逸らせずにいるだろう

ことりが欲しくない想いを携えた
真っ直ぐな瞳


鍵盤に置いていた指で、長い黒髪に触れた。
絡めても、真っ直ぐでいようと、すぐに指の間からはらりと零れ落ちてゆく。

「……私はあなたが好きよ、海未」

真っ直ぐな恋情は、最初から淡い色以上の望みを捨てていた。
その切っ先は最初から淡い色となって、なだらかに消えていたものだった。

「真姫」
「あなたはよくやったわ。きっといつかまた、誰かを好きになる。絵里よりもいい人に出会って、恋をすることができるから」
横並びの海未をそっと抱き寄せても、彼女は抱き付いてはくれない。膝に置かれた両手が真姫を抱き返してくれることもない。
「ありがとうございます、真姫」
「私が守ってあげる。ちゃんと、海未たちがμ’sの仲間として、最後までやり遂げられるように。みんなでずっと一緒にいられるように。絵里だって、このことでμ’sとして活動ができなくなるのは嫌だって思ってる。今はラブライブに集中しましょうよ。そして、優勝しましょう。そのために私はドンドン曲を作るから、海未も沢山歌詞を書いて」
真姫のシャツを握って、ゆっくりともたれかかってくる。
大好きだと思っても、この想いはまだもうしばらく、心に留めておこう。
海未が好きだから、海未を傷つけないために。海未を守るために。
「………どうして、泣きたい気持ちになるのでしょうか」
「海未」


真っ直ぐな想いを、本当は絵里の心に届けて、赤いリボンで固く結んであげることができたら


「……どうして、私は泣いているのでしょうか」
「海未が……絵里を今も、………好きだから」

海未は絵里が好き
好きになっても、何もできないと分かっていて
それでも好きだった

それはことりが海未に恋をしている想いと同じようでいて
まったく別のもの


「それは……どうすれば、消えますか」

真姫が海未に抱いている想いとも
まったく別のもの

「思い切り、声を上げて泣いてしまえばいいわよ。私しかいないから。ぎゅっと抱きしめていてあげるから。だから、いっぱい泣いて、全部吐き出して……そうしたら、また、いつもの海未になれるわ」

どれだけ泣いても
叶えられないと分かっていても
消すと決意したことでも
恋なんて
自分でどうにかコントロールできるものじゃないって
わかってる

海未が好きだから
海未が大好きだから
海未の気持ちがわかるから

両腕できつく抱きしめた海未は、小さな子供が泣きわめくような声を上げて泣いた。
この涙が枯れ果てる頃、真姫の大好きな海未はまた笑ってくれるだろうか。
幼馴染に微笑む、あの柔らかい微笑みを見せてくれるだろうか。

絵里が告白をしてしまったことは、結果的に真姫が告白するチャンスも奪ってしまった。それはもう、仕方がないことだ。真姫が仕向けたことだから。海未が絵里と想い合い、幸せになるのであれば、ことりと言う呪縛から解き放たれるのであれば、ずっとその方がいいって思っていた。それでも、海未はことりという大切な幼馴染を想い続ける道を真っ直ぐに進む。
ことりがそれを願っていないとは知らないで。
こんなに泣いて、泣いて、泣き喚いて、それでも、ことりが大事だと言う気持ちを優先させたいと願っている。


海未らしい優しさが
海未自身を傷つけたとしても

それでも
やっぱり、海未はそういう人だから

だから、大好き



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Date:2015/09/06
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