【緋彩の瞳】 ♭【フラット】 END

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

♭【フラット】 END

海未ちゃんたちのユニットがことりたちに変更になり、慌ててダンスと歌のレッスン、衣装作りをすることになった。早朝練習もさらに時間が早まり、毎朝、ことりは穂乃果ちゃんと花陽ちゃんと一緒にダンスレッスンをしている。絵里ちゃんだけがそれに付きあっていて、海未ちゃんと真姫ちゃんは、μ’sの新しい曲作りに取り掛かり、すれ違う日が何日も続いた。絵里ちゃんは、2人になるタイミングが何度もあったにもかかわらず、何も言ってこなかった。本当にいつもと変わらない。告白をして振られて、それについてことりに何かを話して来るかと思っていたけれど、何も言ってくれない。もうすべて終わったと言わんばかりに、大人の対応をしている。きっと真姫ちゃんは、何も絵里ちゃんに言っていないのだろう。

ことりが嘘を吐いたことも、
海未ちゃんが本当に絵里ちゃんを大好きでいることも。

「ことり」

毎日、海未ちゃんと一緒に登校していたけれど、もう1週間以上も別々に行って、帰りも先に帰っていてくれと言われてしまっている。ことりと会いたくないと思っているのだろうか。海未ちゃんは、μ’sの練習中はもう、いつもと変わらない。何事もなかったかのように、絵里ちゃんのように大人の対応をしている。
絵里ちゃんの隣でカウントを取って、絵里ちゃんの隣で踊る。
いつもと変わらない。
絵里ちゃんを見つめるようなことがなくなっただけ。
意識して、必要以外に目を合わさないようにしているだけ。

ことりの嘘が海未ちゃんをそうさせているのだけれど、そうさせている自分が大嫌いだと思うのに。

海未ちゃんのことを好きな感情は、嫌いへと変化してくれないまま。

「あ、真姫ちゃん」
「どうしたの?みんなと帰ったんでしょう?」
「えっと……うん。海未ちゃんは?」

信愛なんていらない
恋が欲しい
恋をして欲しい
そう願っていたのに


この醜い感情が嫌い


「海未?もう、来るわ」
学校を出たところで、いつも帰りが遅い海未ちゃんを待っていると、先に来たのは真姫ちゃんだった。夏も半分以上終わって、昼間のキツイ日差しが消えた夕暮れは、ほんの少しだけ涼しいと感じるくらいなのに、なぜか寒いとさえ思えた。
「………じゃぁ待っておこうかな」
「海未に何か用事?」
「最近、一緒に帰っていなかったから」
真姫ちゃんの後ろには、こっちに真っ直ぐに向かってくる海未ちゃんの姿が見えた。

真っ直ぐ見つめて欲しいと思う

でも、違うっていつも思っていて

恋をして欲しいって思っていて

「ねぇ、ことり。………あなたが海未を想っていたこと、海未は結構前から気づいていたの。嘘なんていらなかった。でも、……やっぱり結末は変わらなかったと思う」

恋をして欲しいって思っていて
ずっと見つめ続けていて
でも、まっすぐに見つめてくれる瞳は
ことりを見つめてくれる瞳の色は
恋に染まってはくれなくて

「好きなら、好きだって言って、振られたら大声出して泣いて、そうやって終わらせたらよかったのよ。海未が絵里を諦めたように、そうやって、終わらせたらよかったの」
「……真姫ちゃん」

ことりの傍まで来て、小さく微笑む海未ちゃんの優しいその瞳が、ことりの恋を壊していく。

「ことり、どうしたのですか?先に帰ったのでは?」
「あ、うん。最近、海未ちゃんと帰ってないから」
「待っていてくださったのですか?」
「うん」
「では、一緒に帰りましょう。真姫、私は今日ことりと帰りますので」
先に行って欲しいという海未ちゃんを、真姫ちゃんは心配そうな瞳で見つめていた。
「わかった……じゃぁ、明日ね」
「はい、気を付けて」


いつもと同じ景色
いつもと同じ歩幅
ことりに合わせてくれるリズム
ことりのことを大切にしてくれる人

「……絵里ちゃんに告白されて、どうして断ったの?」

ことりのことを嫌いになってくれたらいいのに
傍にいたくもないと

「ことりのためじゃないですよ」
「そんなの嘘だよ」
海未ちゃんは、嘘なんて吐かない。ただ、本当のことを言わないことはある。
「本当です。絵里とことりが付き合うかどうか、そういうことに、私が口をはさむつもりはありません。でも、私がお断りをしたのは、ことりのためではありません」
「嘘だよ、そんなの。だって、両想いだったんだよ?」
海未ちゃんはずっと、絵里ちゃんを恋しい瞳で見つめていた。
ことりが欲しいと希った瞳で、ずっと見つめていた。
傍でずっと、それを見ていた。
「………いいえ、私はお付き合いをしたいという感情ではありませんでした。確かに絵里のことは好きでした。それだけです」
「………嘘だよ。そんな風に言えば、ことりが傷つかないって思っているから言ってるの?」
「いいえ」
嘘を吐けない海未ちゃん。海未ちゃんのはっきりとした言葉には、嘘は感じられなくて。無理やりに嘘を吐こうとしたら、いつも挙動不審になって、結局は全部バレバレの人なのに。
「………どうして」
「ですから、ことりのためではありません。私自身のためです。私はことりが大好きです。絵里の想いに応えることは、大好きなことりを傷つけてしまうことになります。それは一見、ことりのためと思うかもしれません。ですが違うのです。私はことりを傷つける存在になりたくはありません。これは私の身勝手な想いです。私はズルいので、ことりを傷つける自分と言うものが嫌だと、…そう思っただけです」

ズルいよ、本当に。
そうやっていつも、誰も責めたりしない。
胸倉を掴んで、ことりの存在が疎ましかったって、顔も見たくないって、そう言ってくれたらいいのに。

「…………ことりのことなんて、気にしないでよ。そう言うのって嫌だな」
「ですから、これは私がそうしたくてしたことです」
「でも、私がいなければ、絵里ちゃんと付き合えたんだよ?私さえいなければよかったんだよ?」

わざと海未ちゃんの歩くリズムから抜け出そうと立ち止まるのに
海未ちゃんは、それにピタリと合わせるように足音を止めてしまう
そうやって、ずっとことりを大切にしてくれている

「ことりがいなければ、私は絵里とお友達にさえなれませんでしたよ」
「………そうじゃないよ、海未ちゃん」

立ち止まり続けて、海未ちゃんに見つめられて
その優しい瞳で見つめられて
息が苦しい


「ことり」

海未ちゃんが好き
この想いがやがて嫌いに変るのなら
どれだけよかっただろう


「……海未ちゃん?」

片手で抱き寄せてくれるその腕
揺るぎない信愛を感じるその腕に抱きしめられて

そうじゃないのっていつも思っていて

「ことりが泣きたいのであれば、私が胸を貸します。ずっと傍にいたいんです。でも、私が傍にいることで、絵里への想いに苦しむのであれば、私は……傍を離れた方がいいのでしょうか」

凛々しくて、真っ直ぐな瞳で
いつだってことりのことを大切にしてくれている幼馴染

傍にいてくれる
ずっと、傍にいたい

だけど、恋が欲しい
この想いと同じものを、海未ちゃんからも欲しい


「私はことりを苦しめる存在になりたくはありません」
「…………私」

海未ちゃんを苦しめる存在は、ことりだけなの

「ことり、私は、ことりが大好きです」
「うん、私も……大好きだよ」
「私は、大好きなことりの傍にいたいと思っています」
「………うん」

大好きが辛い
大好きという言葉が何度も何度も
ことりの身体から恋を引き剥がそうとする



海未ちゃん
海未ちゃん
海未ちゃん



足元に鞄を落として、ことりは海未ちゃんにきつくしがみついた。

伝えたい想いなんて伝わらない

大好きだと告げるだけじゃ足りない
本当は、気持ちだけを伝えたいわけじゃない

海未ちゃんの気持ちを変えることなんてできないってわかってる。


そして、何よりことり自身の想いも。

「ことり、私はずっと、ことりが大好きだと言う想いは変わりません」



海未ちゃん
海未ちゃん
海未ちゃん



「海未ちゃん、私、本当は……本当は……」



せき止められず溢れるのは、想いではなくて涙。
きつく抱きしめられても、きつく抱きしめ返しても、その想いは永遠に重なることがない。

例え同じ歩幅で歩けても
同じリズムで歩けても
手を繋いでも
抱きしめても
抱きしめられても

大好きだと言われても
大好きだと伝えても


「ことり」

優しく名前を呼ぶ声が耳に残る
胸に届いたその優しい吐息

この涙が枯れ果てて
海未ちゃんへの恋情も、身体からハラハラと流れて消えてしまえばいいのに


「海未ちゃん……大好きだよ……」

零れて溢れる想いが言葉になって
身体から剥がれ落ちてゆく

大好きだよ

本当に大好きだよ


大好きだよ
ずっと、ずっと大好きだったんだよ


溢れ続ける想い
声がかれるまで
涙が枯れるまで

あと何時間、泣き叫べばいいのかわからない






2015年9月6日
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Date:2015/09/06
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