【緋彩の瞳】 ファースト・キス コンツェルト ⑤

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

ファースト・キス コンツェルト ⑤

「ズルい、なんか、むかつくわ」
「はい?」
呟いきながらも、栄養とカロリーを完璧に計算されているようなお弁当が海未らしくて、こんなに気を遣った手の込んだものを花陽に食べさせようと思ったんだってわかったら、何だか、やっぱり腹立たしくて。
「別に、何でもない」
「そうですか。では、真姫のお弁当、頂きます」
海未はモッツアレラのミルフィーユカツを、初めて食べましたと言って、美味しいですとコメントをして、1つ1つのおかずに、イチイチ美味しいですって言ってくれた。真姫が作ったわけじゃないけれど、真姫もありがとう、ありがとうって言い返して、何これって心の中で突っ込みながら。真姫だって海未のお弁当美味しいって言いたいのに、海未ばかり言い続けて、結局何も言えないまま全部食べてしまった。
「お母様に、私が食べてしまったことは伝えられないでしょうが、とても美味しいものでしたよ」
「えっと、うん。あの、伝えておくわ」
「はい」



………


「………う、海未のお弁当、美味しかった」
「そうですか。よかったです」
「うん……あの、馬鹿って言って…ごめんなさい」
「私は馬鹿ですか?それとも鈍いのですか?えっとあとは、ズルいのですか?」

そう言うことを躊躇せずに、真面目にそして純粋に知りたがろうとするところが馬鹿で、鈍くて、あとズルいんだと思う。

「………誰かに何か言われたんじゃなかったの?」
「はい。ことりに、真姫が私を好きだと言われました」


……
………

なんでよ
どうしてことりは知ってるのよ
いや、知らなかったかもしれないけれど、真姫が花陽に嫉妬したからバレてしまったのかもしれないけど。

いや、そうじゃなくて

「…………海未って、1年生にモテモテよね」
「な、何ですか急に?」
「夏休み前にも、アルパカ小屋の前で1年生に告白されてたでしょ」
「のぞき見してたんですか?!」
どうして知っているのかと、のけぞって顔を真っ赤にして驚いている。
1年生は1クラスしかないし、海未先輩に告白したという経験を持っているのは、クラスに半分くらいいる。もう、告白したという経験値を踏むことがステイタスみたいになってるような、そんな雰囲気。だから、誰がいつ海未に告白したかなんて、勝手に耳に入ってくるのだ。
「覗いてないけれど、告白したのはうちのクラスメイトだし」
「あぁ……そういうことですか」
納得したのはいいけれど、海未が5月頃までは全員にOKみたいな内容の返事をして、そのあと騒動になって、今は1人1人懇切丁寧にお断りしているっていうストーリー全部を知っている。
「…………ことりが言ったのは、それと同じ意味よ」
「えっと…」
「海未を好き、ということ」
「…………それは、その告白、ということ……ですか?」
こっちはもう、ことりとか希たち包囲網のせいで、告白するという選択肢しか残されていないというのに、海未ってば本当わかってないんだから。
髪を指先でいじりながら、何だかムッとして海未から視線を逸らした。
「そうだけど!」
「…その、それで、どうしてそんなに怒っているのでしょうか」
「海未が鈍いからでしょ!っていうか、知らない!」
「………つまり、花陽にお弁当を作ってきたことに、真姫が怒ったのは、嫉妬したということですね」
「そんな、冷静に分析したみたいに言わないでよね!っていうか、今わかったわけ?!」

本当に鈍いんだから
なんでこんなに鈍いのよ
真っ直ぐで素直で純粋なくせに

「そうですか、えっと、はい。ことりに言われた通り、確かに真姫に教えていただかなければ、わかりませんでした」
「………何よ、海未の馬鹿」
「はい。そのようですね」

ほら、そう言うところは素直なんだってば

蒸し暑かったから、クーラーは一番温度を低くして、強にしていた。食べ始めた頃は気にならなかったけれど、今は寒いとさえ感じる。

いきなり訪れた静寂の中、クーラーの音だけが耳に届いてきて、でも、真姫も何を言えばいいのかわからないから、次の海未のセリフをひたすら待つしかない。



……
………



「あの………真姫。私はことりからは聞きましたが、きちんと真姫から確認を取っておきたいのですが」


……
………

「言わなくても、返事の仕方ならわかってるもの。クラスメイトが教えてくれたわ。海未のセリフはこうでしょ?“お気持ちありがとうございます。とてもうれしいですが、私は今、特定の方とお付き合いをするというつもりはありません”」

いろんな子が泣きながら、あるいはセレモニーを終えたようなすっきりした様子を見せながら、このセリフを言われたと何度も何度も教えてくれた。海未らしい言葉だし、人によって内容を変えずに徹底しているあたりも、海未らしい。だから、真姫は言わなかった。同じセリフを海未から聞きたいなんて思わない。
「えっと、その、それはえっと…つまり、あまり存じない方に対してはそのようにお答えしていますが」
「別に気にしないでもいいわよ。私だって同じように1年だし、μ’sで一緒だからって気にする必要だってないし」
セリフを変えたところで、内容は同じに決まってる。
聞きたくないのに。ことりは余計なことをしすぎだ。勝手に人の気持ちを伝えて、それで振られる真姫の身にもなって欲しい。
「そもそも、私は真姫に告白されていませんので、言うも何もないです」
「…………だから、言ってるでしょ。振られるってわかってて、告白するほど私は馬鹿じゃないの」
「か、勝手に振られると決めないでください」
「じゃぁ付き合うとでも?それもことりに言われたの?」
ふん!180度以上首が動けばいいけれど、精々+10度くらいしか動かせない、その精いっぱい海未から視線を逸らせた。大体、何でもかんでも幼馴染に言われるがままっていうのが腹立たしい。
凛も花陽もそうだけど、そうやって、幼馴染の言う通りに動くっていうのが、何て言うか…。
「真姫は、その…どうしたいのですか?私は真姫の気持ちがよくわかりません」
「別に……」
ついでに身体ごと角度を変えた。これで海未の何もかもを視界に入れなくて済む。
「別に、ではなくて。こっちを向いて、きちんとお話をしてください。真姫がどうしたいのか、私にきちんと伝えてくださらなければ、私は何も答えられません」
せっかく向きを変えたのに、両肩をがっちり捕まえられて、強引に海未へと身体だけが戻されていく。でも大丈夫、まだ顔はそっぽ向いたままだから。
「ふん、知らない」
「真姫、こっちを向きなさい」
嫌な予感なんて、当たるに決まっているから、頬に両手を添えられて、その暖かい手のひらを感じて、不覚にもドキっとさせられた瞬間、一気に首の力が抜けたのはもう、どうしようもないもので。
「……」
「真姫」
「…………何」
「泣かないでください」
「泣いてないわよ!」
海未の真っ直ぐな髪と、澄んだ本当に海の色のような瞳の色。
嘘とかごまかしとか、適当とか、そういうものをすべて受け付けないし、海未の世界には存在すらしないと言った、そんな透き通った瞳の色。
濁りのない、曇りのない、ひたすらに純粋で素直で綺麗な彩。
「………海未が悪いの」
泣いている自覚はないし、泣きたいって思っているわけじゃないけれど、海未の指が頬を勝手に伝う滴を何度も何度も拭って来て、それが余計涙を出させてしまう。

海未のせい
全部、海未のせい

「えっと、はい。私が悪いと言うのは、私以外の意見が一致しているようですが……」
「凛の頭を撫でたり、花陽にお弁当作ったり、ことりと腕を組んで歩いたり、穂乃果の家に泊まり込んで勉強教えたりする、海未が悪いの!」
「………では、真姫の頭を撫でて、真姫にもお弁当を作って、真姫と腕を組んで歩いて、えっと、真姫の家で勉強をすればよい、ですか?」

鈍感

叫びたくなるのを堪えた。
これじゃぁこの、わけのわからない状況をいつまでも脱することができない。

「っていうか、私は海未が好きなの。海未が誰かに何かをするのを見ているのが嫌なの。嫉妬してるの。そう言うことを誰かとしないでって思ってしまうの。自分でも馬鹿だってわかってるけど、そう思ってしまうの!」

18度に設定されたクーラーが、ゴーゴーと音を立てて部屋を冷たくしようとしている
さっき寒いかなって思ったのに
海未が包み込む頬は熱いし
瞼が熱いって言う自覚もある

涙が勝手に溢れるのも海未のせい
海未が真っ直ぐ見つめてくるせい
海未が澄んだ瞳でまっすぐにみつめてくるせい

すべてが海未のせい

「……えっと、その。ありがとうございます、真姫」
真っ直ぐに見つめてきて、そして真姫の聞き覚えのあるセリフが耳に届いた。
この後のセリフは聞かなくてもわかる。
「とてもうれしいですが、私は今、特定の方とお付き合いをするというつもりはありません、って言うんでしょ?」
「いいえ」
「じゃぁ、何?迷惑ですとか、気持ち悪いとか?」
「いいえ。嬉しいです」

だから、同じセリフじゃない。聞きたくない。振られるくらいなら言わない方がいいってずっと思っていたんだから、それくらいわかって欲しい。
でもこの鈍感純粋園田海未にはそう言う気持ちを汲むなんて、出来るはずもないんだから。

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Date:2015/09/28
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