【緋彩の瞳】 ファースト・キス コンツェルト END

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

ファースト・キス コンツェルト END

「どうかしましたか、真姫」
「………別に」
「1人でニヤニヤしていましたが」
「別にって言ったでしょ、ちょっとね」
絵里たちは明日卒業する。μ’sとしての活動もそれと同時に終わる。卒業をするのは真姫じゃないのに、あのダメンズ3人が傍からいなくなってしまう寂しさって言うか、楽しかったなって、何となく過去を思い出していた。
「陽が落ちてしまいましたよ。そろそろ帰りましょう」
1人で音楽室に籠って、作曲をしていた。μ’sとしての活動を今はしていないし、今後の方針をどうするかっていうのは、まだまだこれから考えないといけない。でも、何となくあと1曲だけ、作りたいって思ってしまっている。歌詞もない、歌う人もいない。これはたぶん、自分へのけじめなのかもしれない。ありがとう、楽しかったねって、言葉で言えなかったから。
海未は最後のライブが終わってから、ほとんど毎日弓道部の活動をしている。
部活終わりの海未が音楽室に入って来ても、何となく立ち上がらずにピアノを弾いていた。海未はいつも何も言わずに、真姫の隣に座ってじっと聴いていることが多い。
「うん、そうね。帰りましょうか」
「明日、いい式になるといいですね」
「そうね」

過ぎ去ってしまったことは、すべて楽しかったって思える。
今はそう思える。
振り返りたいと思う過去の風景の中の真姫は、拗ねたり怒ったりしていたことが多い。
でも、それも全部、きっと楽しかった。

「あの、何かいいことでもありました?」
「ん?」
「ずっと、ニヤニヤしています」
「……変なことを思い出していたの」
ピアノの蓋を閉じて、ゆっくりと伸びをする。少しだけひんやりしている部屋。あの時もクーラーがよく効いていて、寒かったような、でも、身体は熱かったような。
「変なこと、ですか?」
「そう。海未の唇を奪った日のこと」
「……この部屋で奪われましたね。でも、それは変なこと、ですか?」
「あれは変なことなの。あの日起こったことのすべてが、変なことだったの」
今は思い出して笑えるけれど、あの日は本当に人生で一番いろんな感情が身体を襲った。すべて海未が悪い。

海未を好きになってしまったことが悪い。


「そうですか?」
「そうなのよ」
不思議なものを見るような海未の表情。もうすっかり慣れた。立ち上がれば、同じように立ち上がった海未が真姫の鞄とマフラーを手にする。
「はい」
「ありがとう、海未」
マフラーを巻き付けてくれて、大きくてしっかりしている優しい手の平が頭を撫でた。ゆっくりおろされたその手を掴んで握りしめる。
「……海未の手、冷たい」
「すみません」
指と指を絡めるようにして、海未を引っ張った。弓道の道具を抱え、鞄を手にしている海未は重たそうなそぶりも見せない。
「明日、朝は?」
「生徒会は7時半に集まりがあります」
「そっか」
「式のあと、片づけと打ち合わせがあります。部活はありませんが、真姫はどうしますか?」
「ん~。希たちと一緒にいる最後だし、みんなで見送りたいわ」
「では、終わったら連絡をします。待っていてください」

あの騒動の次の日から、海未と朝、待ち合わせをすることになった。ランチも放課後も一緒にいるようになった。暗くなると必ず家まで送ってくれる。それは、絵里とことりがそうしろってあの日に勝手に言ったせい。真姫は言われたからするって言う海未が嫌だったけれど、いつの間にか、それが自然になってしまっていた。
「ねぇ、海未」
「はい」
手を繋ぎ、ライトアップされた桜を眺めながらゆっくりと歩く。繋がれた手はしっかりと握りしめてくれている。
「私のこと、好き?」
「はい、好きですよ」
「……照れたりしないのね」
「はい?」
「別に」
どこが好きとか?どうして好き?とか、そういうことを聞いたりする乙女な気持ちを持ったって、どうしようもないことなんだろうって思う。
「真姫のこと、好きですよ」
「………あ、りがと」
「はい」
嘘を吐けない人っていいな、って思う。何も偽らない。無垢でまっすぐで清らかで、その感情はとても優しい。
「真姫の歌も、真姫の作る曲も、真姫の想いも好きですよ」
「………ありがと」
「はい。真姫が恋人で、私は幸せだと思います」
にこりと微笑んだ海未は、夜桜よりも綺麗。言わないけれど。
好きだって言う感情を押し付けてしまったのは真姫だから、その結果として、海未が付き合ってくれるという結論を出したと言うことを、不満だと思うことは間違いなのだと、絵里に言われたことがある。真姫の唯一の恋の悩みと言えばそれくらいだけど、それは真姫自身が乗り越えるしかないものだ。どんな告白も一切受け取らなかった海未が、唯一選んだのが真姫なのだから。そもそも、どうして真姫を選んだのかっていうのが、ただ、ファースト・キスを奪ってしまったっていうだけなんだけど。
「ねぇ、海未」
「なんですか?」
「キスしたのがことりだったら、ことりと付き合ったわけ?」
「……怖いこと聞きますね。ことりをそんな風に見たことはありません」
「じゃぁ、絵里がしてきたら?」
「絵里ですか?絵里がキスをですか?」
「うん」
なぜ、そこで真剣に考えているんだろう。本当、嘘とか吐かないんだから。
「絵里がどういう意図でキスをしてくるかによります」
「なんでよ」
「真姫みたいに、私のことを好きでキスをしてきたのであれば、私も考えなければいけませんし」
「そこは、真姫以外は考えられませんって言うべきでしょ?」
「ですが、これは仮の話ですよね?」
「そうだけど」
本当にどこまでも、馬鹿正直すぎる。
「それに、実際は真姫が私のファースト・キスを奪ったわけですし、真姫は私を好きだとあの時点で知っていましたし、ですから、私は真姫とこうして付き合っているわけです」
「……そうだけど。なんか、むかつく」
「何故ですか?」
「いや、もういい。海未が今、私を好きならいい」
「好きですよ。真姫が私を好きでいてくれて、嬉しいです」

そうやって、偽りのない笑顔をくれるから
不安という感情の方が馬鹿馬鹿しいって思わせてくれるから

「今度、海未の家に遊びに行ってもいい?」
「はい」
「その時、キスしてもいい?」
「はい」
ぎゅっと握りしめたら、もっとぎゅっと握り返してくる。
「いっぱい抱きしめてもいい?」
「はい。じゃぁ、私も真姫を沢山抱きしめます」
「……うん」

海未を抱きしめたら、またあの日のドキドキを思い出してしまうんだろう
好きだって言った日のことを
あの日の出来事を

今はみんなに感謝できる
あの1日の出来事を




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Date:2015/09/28
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