【緋彩の瞳】 明日、雨でも

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

明日、雨でも

「美奈、何してんのよ?」
「いやだ、見てわかんないの?」
ティッシュをいくつも引っ張り出しては手のひらで丸めている。
白い布でそれをくるんで輪ゴムで留めて。
「何でそんなものを作っているの?」
「だって、明日雨だったら嫌じゃない?」
布に滲んでいくマジックペンで描かれた目が、ちょっと薄気味悪い。真っ白い布に描かれた目がこちらを見つめてきて、思わずレイはしかめっ面でにらみ返した。
「イマドキ、幼稚園児でもそんなものを作らないわよ」
「願掛けくらいさせてくれてもいいでしょ。神社のお守りと大して違わないわよ」
全然、違うと思うんだけど。言い返したところで、へらへら笑うことしかしないだろうと分かっているから、呆れているという表情を見せつけることくらいしかできない。
「ちょっと、人の家に付けないでよ」
「明日のことなんだから、今やらなきゃでしょ?」
当たり前のように首に付けた紐を廊下に出る襖の角にひょいとひっかけてしまう。普通は窓の近くとか、外の景色が見えるところに吊るすはずなんだけど。
「そこなの?」
「うん、なんかほら、見ていたいじゃない?」
「何がしたいのよ、何が」
「だってさ部屋の外に飾っても、つまらないんだもん」
手先が器用とは言えないちょっとゴツゴツしたてるてる坊主は、部屋を見守るようにぶら下がっていた。まるでレイの機嫌を伺うみたい。
それが狙いとでも言いたいのだろうか。
「明日、晴れたらいいね」
「……そうね」
身体に感じる湿度も、新聞で読んだ明日の予報も、晴れとは程遠いものだ。久しぶりに2人きりでちょっと遠くまで遊びに行きたいと言う美奈のリクエスト。桜と違って、一晩の雨で綺麗な紅葉が無くなってしまうわけじゃないけれど、涼しい秋晴れの空気に包まれて、人の少ないところまで遊びに行って、何も考えずにぼんやりといられたらいいね、と。レイも多少は楽しみにしていた。
「晴れなかったらどうしようか?」
「傘を差してまで、どこかに行きたい?」
「うーん。じゃぁ、レイちゃんと一日ずっとイチャイチャしてようかな」
“どうするの?”と言わんばかりのてるてる坊主と、うっかり視線が合ってしまう。さっきの薄気味悪い表情は消えてきて、なんだか美奈みたいにちょっと意地悪な感じに見えてきたのは気のせいなのか、そう見える自分の感情がメンドクサイことになっているのか。
「それもいいんじゃない?」
「………う、うわ!予想外のコメント」
小言を言われる準備をしていたらしい美奈は、本当にちょっとのけぞって、見開いた目でレイを見つめてくる。ただ、冷静に考えて雨が止まなくて、何もやることがなくて、外に出るというのもちょっと遠慮したいなって思ったときに、美奈と何ができるのだろうって思ったら、美奈のアイディアを受け入れることくらいしかないのだ。
「何だったら、今からでもいいけど?」
「えっ、えっ?何、よ、酔ってるの?」
いつもは、背中に抱き付いてくる美奈を受け止めるのがレイの役割。歌うようにキスをしてくるのも、愛を身体に塗り付けるのも、美奈ばかり。それが愛を紡ぐにはきっとお互いに心地がいいことなのだろうとは思っている。それに美奈が不満を感じているなんて、レイは考えたこともない。
「お酒なんて、一滴も飲んでないわよ」
「じゃ、じゃぁ……熱でもある?」
「平熱だけど」
レイからキスなんて、本当にほとんどしない。したいと思うよりも先に、いつも美奈がしてくるから。飢えたことも乞うたこともない。潤いはいつも、呆れるほど与えられている。
だからこれは、本当にちょっとした気まぐれ。
そう言うことにしておこう。
「……そんな珍しいことしたら、明日警報出るくらい、土砂降りだよ?」
「かも知れないわね」
畳にそっと押し倒した亜麻色の髪を持つ愛の女神は、少しだけ頬を引きつらせたままレイを見上げてきていた。こんな風に美奈を見下ろすことも普段ないから、あぁ、綺麗な人って心の中で改めて思ってしまう。

とても、綺麗な人。

「雨降るのも嫌だし、でも、この状況を逃すのも惜しい気がするわ」
「どうする?」
唇が触れるまでわずか1センチ。頭を掻き抱いてその身体の上に預けた時点で、答えがどうであっても構わない。
「………晴れても雨が降っても、私はレイちゃんと一緒にいたいんだもの」
「だから、して欲しい?」
「うん」
暖かいと感じる唇にキスを落として、首筋を甘く噛んだ。瞬間に震えるまつ毛が期待している。
「ん………わぁ、レイちゃんが久しぶりにやる気だ」
照れを隠す精一杯の美奈の呟きが、おかしくて。
美奈は立場が逆転すると、本当にこれだから。
「美奈の作ったてるてる坊主は、すでに願いを叶えてくれそうにないから。可愛そうに思っただけよ」
「………今、もう、叶っちゃったよ」
「何?遊びに行ったところで、されたかったの?」
亜麻色の髪の上に落ちた黒髪。混じり合わない、正反対の髪の色。
重なって絡み合って。
美奈はレイの髪を引っ張って愛が欲しいと縋ってきた。

「レイちゃんって、本当に意地が悪いよね」
「じゃぁ、私のことを嫌ったらいいわよ」
「ははっ。星が滅んでも無理」
「知ってるわよ」

誰かの視線を感じながらも、明日、雨でもいいわと思ってしまう。


愛しい女神の身体に、しっとりとキスを降らせた。




関連記事

*    *    *

Information

Date:2015/11/08
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/642-a1fcacf9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)