【緋彩の瞳】 可愛くねだって ②

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・単発もの]

可愛くねだって ②

「何か、美奈子ちゃん顔赤くない?」
「……知らないわよ」
「照れてるよね、あれ」
「さぁ」
「いや、あれ、凄く照れているように見えるんだけど。あんな可愛い歌、レイの前で歌うのが恥ずかしかったから、レイを連れてくるなって言ってたんだろうね」
「………変なの」
何が、“ポッキーの端と端から近づくキスの予感”、だ。それって脅迫って言うんじゃないのかと突っ込みたい。にしても、いつもイベントを見に行くと美奈子はレイに向かって堂々と手を振ってきたり、視線を合わせてくると言うのに、今日は絶対にこっちを見たくないというアピールをしている。決められた台本をこなしていますみたいな、アピールまでしてきて。
「いや、あれはさ、レイとポッキーキスしたいんだよ」
「はぁ?」
「照れているんだよ、絶対」
「………なんで」
今更って言いそうになるのを飲み込んだ。キスなんて普通にすれば、って危うく声に出しそうになってしまう。うさぎにだけはバレるとまずいのだ。背後の黄色い声と、手の代わりに降られる赤いパッケージ。ファン参加型のじゃんけん大会では勝者が5人程檀上に上がって、美奈子と一緒に記念撮影をしてもらっていた。全員が泣きだすし、美奈子はアイドルらしく肩を抱いてあげたり、頭を撫でてあげたりしているのを、ただ、見ているだけ。じゃんけんには最初から参加しなかった。うっかり残りたくないからだ。あんな風に美奈子に抱かれた子は、美奈子に恋してしまうだろうなんて冷静に考えながら、あんまりサービスしない方がいいわよ、って本人に助言してあげたくなる気持ちを押し殺す。ファンとのふれあいが終わった後は、マスコミの撮影が始まった。ここからはファンたちは帰ろうが美奈子のマスコミ対応を見ていようが自由らしい。


『美奈子ちゃん、こっちにポッキーを銜えてポーズを取って』
『可愛く、唇をもっとキュッとして見せて』
『目をつぶって、カレシが反対から迫ってくるみたいなのを1枚』
『ちょっと上目遣いみたいなのも撮らせて』
『キスして欲しそうにね』


「……グラビア撮影みたいね」
「いや~、可愛いね、美奈子ちゃん」
へぇ、美奈子はカレシが反対からポッキーを食べて近づいたら、そういう顔をするのね。って本人に嫌味の一つでも言えたらいいのだけれど、思いのほか可愛らしいから、ムッとしたような、ドキッとしたような、よくわからないモヤモヤした想いが心を撫でた。いい歳した男の人たちがカメラを構えて、その中央に立っている美奈子は、一体どんなことを考えながらポーズを取っているのだろう。いつもいつも関心するし、ムッとすることもある。この感情はもう、アイドル愛野美奈子の傍にいる以上、切り離せないものなのだというのはわかっている。でも何か、今日はいつもと違う変な感情。何かが違うんだけど、どう違うかよくわからないって言うか。
「美奈子ちゃん、可愛いな~。何だか初々しい恋している感じが出ていてさ」
「……そうね」
初々しい恋をしているって、どういう感じなのかしらって聞いてみたくなる。
そういうのわからないし。
今更ながら、美奈子の初恋ってどんな人だったんだろう。その人の前であんな顔をしていたのだろうか。レイはあんな表情の美奈子を見たことがないかもしれない。

何か、こう、むず痒い

「レイもそう思う?」
「いやまぁ、何て言うか、よくわからないんだけど」
「レイが見てるからだね、きっと」
「あなた今、初々しい恋って言わなかった?」
「え?いや、だから、レイのことだろう?」
「………はぁ?」
「あ~ぁ、このバカップル」

まことは呟いて、照れたような顔で撮影を続けている美奈子にポッキーの箱を振って見せた。ちらりと視線が合った美奈子は、銜えていたポッキーをポトリと落とした。







夕食後、勉強机に置かれたままのポッキーの封を何となく開けてみた。お腹はソコソコ一杯になっていたけれど、温かい紅茶を手に部屋に戻って来て、目に付いたから数本くらいって思っただけ。パッケージには特別仕様で愛野美奈子がポッキーを銜えた写真が印刷されている。今日の美奈子はなんとなく、から回っているって言うか焦っているって言うか、レイを見ようとはしないし、撮影中に何度もポッキーを落とすし、挙動不審だった。レイに来て欲しくなさそうだったと言うのは、何かそう言うところを見られたくなかったのかも知れない。

ポキポキと食べ進めて行くと、何となく反対側から美奈子が迫ってくるような、あの撮影の時の顔が思い浮かんだ。

「………いや、別に」

また、何かこう、むず痒い。思い出そうとしたつもりはないのに。1本食べて、これを食べるたびに、変な痒さを感じなきゃいけないのかしらって思うと、なんだか身体のためにやめた方がいいのではないかと思えてきた。でも、それなのに、パッケージの美奈子が食べてと言っているような気がして。
「……何なのよ」
どうやら、変な汗まで掻いているみたい。



「まったく!まったく!………ちょっとレイ!!!」


ズンズンと音が近づいてきて、勢いよく開けられた襖に、レイはただ固まってポッキーの端を銜えたまま、その人物を見あげた。
「何で見に来たのよ!恥ずかしいでしょう?!!」
なんで、って言われても。まことが勝手に連れて行ったから。なんて説明をしようにも、口に銜えたばかりのポッキーが邪魔で何も言えない。
「レイにあんな恥ずかしい姿見られたくなかったのよ!」
やってることは、別にいつもと変わらなかったような気はする。美奈子が恥ずかしいというのはイベントそのものより、レイに見せるということ限定だったと言うのは、今の赤い顔を見ていればなんとなく想像はできる。自惚れかも知れないけれど。
「………何で、そんなことしてんのよ、レイ」
「………食べていただけ」
レイは咥えていたポッキーを手に取った。赤いパッケージが自己主張してくる。

『大好きなあなたに、ポッキーを渡してキスをねだろう』

書かれてある言葉を思わず心の中で読んでしまった。また変なむず痒さ。

「………」
「………」

……
………
…………

「………美奈子、今日、変じゃない?」
「べ、別に」
「そう?この仕事、決まった時は楽しそうにしていたのに」
「いや、まぁ、イメージ・ガールという仕事自体はね」
イベントの時みたいに、美奈子は何だか瞳を左右に動かして、レイから視線を外したくて仕方ないと言わんばかりだ。

『大好きなあなたに、ポッキーキスをねだろう』

勢いよく襖を開いたわりには、レイに近づこうとしないその少し赤い頬の恋人と、パッケージのポッキーを銜えて見つめてくる美奈子を交互に見て、何となく自分の心のむず痒さの原因がわかってきた。

そして、美奈子が照れくさいって言っていることの意味も。
なんとなく。

そして、それが美奈子らしくないって言うことも。
まぁ、らしくないから美奈子がこんな風になってしまっていることも。

「………美奈子、やっぱり今日は変よ」
「何よ」
「……可愛いっていうか」
「はぁ?可愛いのに変って何それ?!」
「褒めてるでしょ、なんで怒るのよ」
美奈子って、照れたりする人だったかしら。振り回すだけ振り回して、もう何て言うか、可愛くレイにおねだりなんて回りくどいことをしない人だと思う。常に命令形だし。
「お、怒ってないわよ」
「美奈子、自分らしくないことをしているから、照れていたんでしょ?」
ポッキーを小道具にしてキスをねだるなんて、愛野美奈子という人物からは想像もできない事態だけど、なんだかパッケージの美奈子はいつもそんなことしています、みたいな表情。
このレイの心に襲ったむず痒さはきっと、見慣れていないものを見たせいなのだろう。

そう言うことにしておきたい。

「キャラじゃないとか、勝手に決めるの?」
「へぇ…美奈子は可愛くねだる人なの?初耳」
「……」
「………」
「何よ?って言うか美奈子、寒いから閉めて」
身体半分が部屋の外に出たままの美奈子は、レイに手招きされて後ろ手に襖をしめた。言いたいことを言うためだけに来たのか、仕事終わりに会いに来たのか、どっちなのだろう。

「………レイ……レイは……CM見た?」


『大好きなあなたに、ポッキーキスをねだろう』


「美奈子が会場に姿を現すまで、モニターにしつこく出てたわよ」
目を閉じてポッキーの端を銜えたまま、恥ずかしそうに“何か”を待っているアイドル。うさぎやまことが可愛いっていう言葉を連呼していて、正直、ドキッとするというよりも、初めて見る顔だわっていう感情が先だった。

美奈子のこんな顔を初めて見るんだと思うと、それが全国放送されているのに、妙なむず痒さも覚えた。

「あぁ、そうだった……」
「で?」
「………別に。自分で見返して、私、締まりのない顔だわって思って」
「そう?みんな、可愛いって言ってたわ」
「………そう言われても、嬉しいっていう気持ちはあんまりないわ」
「そうなの?」
「当たり前でしょ?」
「なんでよ?」
「なんでって…」



……
………
…………


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Date:2015/11/12
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