【緋彩の瞳】 可愛くねだって END

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・単発もの]

可愛くねだって END

……
………
…………



美奈子は頭を抱えそうになるのを堪えて、そっと膝をついてレイに近づいた。レイは鈍感と言うほどじゃないけれど、美奈子があの撮影の時にどこの誰を想い浮かべていたのか、そしてそれがばっちりと、ありありと、自分でも嫌になるくらい表情に出てしまっているのを目の当たりにして、馬鹿じゃないかって思うくらい、照れくさくて仕方がなかったということなんて、わかったりしないだろう。
「今日みたいに、CMとかポスター撮影の時も、カメラマンにいろんな声掛けられながら撮ったのよね。最初は表情が硬いっていわれて。好きな人を想像して、とか、好きな人がポッキーの端っこ銜えているよ、なんて言われて」
「……あぁ…」
ため息とともに説明をすると、同じようにため息が返ってくる。言いたいことはきっとわかったんだと思う。レイもちょっと顔が赤くなって、視線が泳ぎ始めたから。
「いつもは仕事中にレイのことを考えないわけじゃないけれど、今回の仕事は何て言うか、ちょっと、変な気分っていうかさ。好きな人を想像してポーズを取るとか、なんか、私、向いてなかったわ。これ、本当……恥ずかしくなるほど馬鹿な顔って自分でも思う。しかも……それを可愛いって言われてさ」
パッケージに印刷された自分の顔は、もう、嫌って思うくらい。いつもレイに送り付ける写真と明らかに違うように見える。レイとキスなんて、何度もしたことがあるのに、キャッチコピーに過剰に反応している自分が写っていて。

「“大好きなあなたに、ポッキーキスをねだろう”って、美奈子はこれを想像していたの?」
言ってレイは手にしていたポッキーを見せつけてきた。
「…………いや、…その」
「素直すぎる反応をされると、美奈子じゃないみたいで痒いんだけど」
「……あの、さ……その、それで」

レイの手にある少しチョコの部分が溶けているポッキー
キスをねだるって、こんなにドキドキするものだったかしら
いや、可愛らしくキスをねだったことなんてないから、こういうのわからない。
むず痒いって言うか、本当に照れくさくて。
「可愛くねだったら?CMみたいに」
ぷいっと視線を逃がしても、レイの手のポッキーはちょっとだけ震えていて。
いつもはこんなレイを見たらからかってしまうパターンなのに。

「えっと、あの、レイ……ポッキーを銜えて。私が近づくから、えっと、動かないで」
「………ポッキーキス?」
「うん」
「私としたいの?」
「いやまぁ、その、せっかくだし?レイとキス、ポッキーキス、してみたい」
「………今日の美奈子、可愛くて気持ち悪い」
一言余計なんだけど、正直自分でも、何かいつもの愛野美奈子らしくないって思う。
「じゃぁ、レイは私がしたみたいに、可愛らしく上目遣いしてみてよ」
悔しいから同じように一言余計をつけたしてみる。
「………」
ポッキーを銜えたレイが無言で睨み付けてきた。
そうそう、レイがそう言う表情でいてくれたら、美奈子もいつも通りに戻れるから。



ポキ

ポキ


目を閉じてくれたらいいのに、じっと見つめてきて
美奈子もゆっくりと近づくその震えるまつ毛を見ていたくて


「……」
「……………っ」



ポッキーキスって怖い

ドキドキする心臓のせいで
互いに触れる直前でポッキーをへし折ってしまった。


「……レイが可愛すぎるんだもの」
「美奈子でしょ」
「……レイ、今日おかしくない?」
「美奈子がおかしいのよ。何、私のことそんなに好きで、キスしたかったの?」

そうだけど

そうじゃないけど


「………なんかさ、可愛いシチュエーションよね。ポッキーキスをねだるって。そう言うドキドキみたいなのって可愛らしい」
「悪かったわね」
「……でも、レイにドキドキして失敗しちゃったわ」
「美奈子って、案外ヘタレね」
「うるさいわね」
「失敗するとか」
「………いい。もうやめておく。最後までたどり着く前に、絶対に折れるっていうことが実証されたわけだし」
「美奈子が下手なのよ」
「じゃぁ、レイが近づいてくる?」
「遠慮するわ」
悩む仕草も見せずにばっさりと断ったレイだって、本当は照れているんだって思うことにしておこう。
口の中から消えた甘いチョコと、後からくるしょっぱさの口直しに、その身体に抱き付いて、いつものように唇を塞いだ。ひんやりとした感触。
やっといつもらしい何かを取り戻せた。
「………はぁ。こんな仕事、もう嫌だわ」
「ヴァレンタインもあるんじゃないの?」
「あぁ、もう……嫌」
「私も、あんな美奈子を見せつけられるのは、痒いからもう嫌だわ。私の知らないところで終わらせなさいよ」
3か月後も一緒にいるって、レイが信じてくれていることが素直にうれしいんだけど、それを言うと、またムッとされそう。
可愛くおねだりなんてしないで、勝手に唇を塞いで髪を撫でる。やっぱりこの方が落ち着くなって思う。
「………可愛くない美奈子、いつも通りに戻ったわね」
「可愛くないレイも、いつも通りよ」
可愛くポッキーを銜えてキスをねだるなんて、美奈子にはできないけれど、レイだってできない。されたとしても、失敗するということがわかった。練習する気もさらさらない。せっかく健康になったんだから、心臓に悪いことはごめんだわ。
結局、当たり前のようにキスをすることができる関係っていうのが、美奈子とレイにとっては一番いいんだと思う。

この美奈子が写っているパッケージ、レイはどうするつもりなんだろう。
気づかれないうちに持って帰らないと。




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Date:2015/11/12
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