【緋彩の瞳】 2番目の恋 ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

2番目の恋 ①

「前にね、雑誌で読んだの。初恋の相手と結婚する確率は全体の1%なんだって。1人のことをずっと想っていたってことでしょ?唇も身体も、その人だけって、ロマンティックだよね!うさぎもそうなんだけど!」

学校帰りのうさぎと偶然出会って、一緒にクラウン・パーラーにやってきた。クリスマスが近づいてきて、店内はちょっと前までハロウィン色だったのが、赤や緑にデコレーションされている。暖かいココアとパフェというよくわからないチョイスのうさぎと、みちるもたまには甘いものをとココアを頼んだ。うさぎと2人きりなんてめったにないことだけど、彼女の話題はいつも、誰がいても、衛さんのことだと分かっているし、惚気を聞くことが嫌とは思わない。
「そうね、うさぎはそうなるわね」
「うん」
衛さんは違うかもしれないわよ、なんて声に出さないで、みちるはココアを口に含む。彼はみちるよりも年上だし、ルックスもいい。うさぎと知りあうまでに誰かほかの女の子とデートをしたり、あるいは恋をすることだってあっただろう。だけどそれはうさぎが知る必要なんてないことで、確認するべきことでもない。前世から結ばれるために生まれてきた2人なのだから。
「うさぎは幸せね」
「えへへ~~そう見える?みちるさんだって、ラブラブじゃないの?」
「さぁ、どうかしら?」
ラブラブっていう響きがレイに似合わない気もする。みちるは嫌な響きじゃないとは思いながら、レイがムッとした顔を思い浮かべて心の中でちょっとだけ笑った。
「レイちゃん、今日は会わないの?」
「約束していないわ」
レイは今日、どこで何をしているのかしら。何も聞いていないし、言ってこない。仲間の誰かと会うつもりでいるのなら、ここに来るのかも知れない。
「みちるさんとレイちゃんは初恋同士だっけ?」
「さぁ、どうかしら?」
「え~。みちるさんはレイちゃんが初恋じゃないの?」
「ご想像にお任せするわ」

海外で知り合った、憧れのヴァイオリニストに恋をしたことがある。言葉も簡単に通じない関係だったがそれなりに楽しい子供の恋だった。みちるは初恋の人がファースト・キスの相手だった。相手が日本人じゃなかったし、初めてのキスに特別なものを感じるようなことはなかった。今思えば才能に憧れていただけで、人柄を好きだったのではなかった。息すらできないほど、苦しいような恋とは程遠い、ただ、恋に恋をしているような恋愛ゴッコみたいなものだったのだろう。それも経験の一つだし、想い出ではある。ただ、レイには過去については何も話をしていない。レイはそもそも、みちるの過去に興味があるようなことを聞いてきたことがない。聞いてこない以上、自分から言うのも何か違うし、言わなければいけないと言うものでもない。
「レイちゃんはどうなんだろう?」
「さぁ」
「あ、これってみちるさんに聞くのはダメなんだね、ははは」
溶け始めたアイスをスプーンで掬い、冷たそうな表情を見せるうさぎは、特にみちるとレイに興味があるわけじゃなく、ただ、何となく聞いただけなのだろう。この話の先で、衛さんはどうなのかということに思い当たると知ってか知らずか。みちるは話題を逸らした方が無難だと思い、クリスマスの予定を聞いて、時間を潰すことにした。



「わぉ、みちるさんがいる」
「あら、美奈子。お帰りなさい」
 うさぎがパフェの半分を食べた頃、レイが美奈子と一緒にお店に入ってきた。ここにいると結局連絡をすることができなかったから、偶然と言うことになる。美奈子の後ろから顔を出したレイは、無言だったが明らかに眉間にしわが寄っていた。なぜ連絡を入れないのかと言うアピールをされても、タイミングがなかったのだから仕方がない。美奈子はうさぎの隣に座り、レイはコートを脱いでみちるの隣に腰を下ろした。
「お帰りなさい、レイ」
「ただいま。珍しい組み合わせね」
「偶然、うさぎに会ったのよ」
「そう」
外の空気で冷やされた、その艶やかな髪を撫でたくなる衝動を抑え、身体のどこにも触れずに、ただ微笑むしかできない。レイはいつも通りのすました顔。オンとオフの間に分厚い鉄板が入っている。
「私、ミルクティ。レイちゃんは?」
「コーヒー」
注文を取りに来た宇奈月ちゃんに美奈子が注文して、ため息の間、少し沈黙が続く。うさぎと、クリスマスに何をするかと言う話をしていたのが一度中断されたが、結局は衛さんへのプレゼントをどうするかという、惚気を聞いていた。それをまた、続けた方がいいとも思えない。

「それで、うさぎとみちるさんは、お互いに惚気の言い合いでもしていたわけ?」
美奈子が場の空気を読んだのか無視したのか、うさぎとみちるを交互に見て聞いてきた。
「そうそう!あのねぇ、結婚した人の中で、初恋の人と結ばれた割合って、美奈P知ってる?」
「え~~何なの、それ。初恋って幼稚園とかじゃないの?その時から付き合っていた人と結婚するってこと?」
うさぎはついさっきまで、クリスマスの話をしていたはずなのに、最初の話題に戻してきた。きっと本当は、その知識を手に入れてからいろんな人に言いたくて言いたくて仕方がなかったのだろう。まことや亜美が来たら、また一からこの話題になるのかも知れない。
「でも、初恋の人としか付き合っていないと言うわけじゃないんじゃない?」
提供された氷の入った水に目もくれず、うさぎに疑問をぶつけるレイ。みちるがあえてそれに触れなかったことだ。あと一口で飲み干してしまうココアのカップを両手で持って、黙って3人が会話するのを聞いておくべきなのか、レイの足を蹴って、余計なことを言うなと伝えるべきなのか悩んだ。
「え、どう言う意味?」
「だから、初恋相手じゃない人と色々付き合ったけれど、最終的に初恋の人と再会して、結婚したっていうのも含まれての割合じゃないの?」
「あぁ、そっか。そう言うことか。女の子はずっと片想いしてその人が好きだったとしても、男の人はその間に、それなりに恋愛していて、偶然街でばったり再会、みたいなこととかもありそうよね」
美奈子は合点がいったようで、そのうえで何割なんだろうと腕を組む。出されたコーヒーにミルクを注ぎながら、レイはうさぎの質問の答え自体に興味はないと言った様子だ。
「え~!初恋の人と結婚って、そう言うのも含まれているの?お互いに唇も身体も、お互いだけって言うことじゃないの?ずっと想い合っていて結ばれることじゃないの?」
「うさぎちゃん、それは1%すらないんじゃない?何だかんだ人生いろいろあったけれど、初恋の人と結ばれたということでしょ?それに、片方は初恋だったとしても、相手がそうとは限らないじゃない。初恋同士じゃなくて、初恋の人との結婚、のことでしょ?」
それも、みちるはあえて指摘せずに聞き流したことだ。惚気を邪魔したくなかったし、がっかりさせたくもなかった。ただ、楽しくお茶をするには指摘しない方がいいと判断したのだ。
「じゃぁ、初恋で結ばれた人が1%っていうのは、嘘なの?」
質問の答えを言ってしまったところで、その数字にはレイも美奈子も反応するつもりはないようだ。最初からそれくらいって思っていたのだろう。
「嘘じゃないでしょ。初恋同士とは限らないって言うのと、恋愛経験がお互いだけとは限らないっていうだけで」
湯気の立つコーヒーを飲み、レイは淡々と変わらない。うさぎは不服そうに頬を膨らませているけれど、本当はうさぎの認識が甘かっただけ。いや、最初にみちるが丁寧に教えてあげればよかったことなのだろう。今更そんなことを思っても、仕方がない。
「そんなの意味ないよ!そんなことを雑誌で紹介する意味ないもん。だって100組に1組がそうだっていうけれど、じゃぁ、本当に初恋同士で他に誰とも恋愛しないで結婚した人って、実際どれくらいいるの?」
うさぎが駄々をこねたところで、それが普通の世の中の男女の恋愛事情なのだと伝えても、きっと、納得してくれることでもないだろう。恋や愛がロマンティックという言葉に惑わされてはいけないものだと、確かにみちるも思う。でも、うさぎみたいに一途に1人だけを想うことは、否定することでもない。
「1%の中からさらにお互いってなったら、0.5%もないんじゃない?そもそもお互い他の人と付き合わず、でしょ?」
「美奈、それならもっと低いと思う」
「まぁ、今更そんなことを気にしても仕方ないわよ。だって、何だかんだ言いながら、結婚する相手と巡り合えたわけでしょ?世の中、お互いに初恋同士と結婚してばかりいたら、失恋ソングが流行ったりしないわよね」
「そうね」
うさぎのふて腐れた頬を無視して、2人は納得して勝手に話を終わらせようとしている。そもそも、興味がある話題ではなかったのかも知れない。美奈子はうさぎみたいに、こういうことに興味があるのかと思っていたが、結婚事情となると、やっぱり興味を持つほどの事柄でもないのだろう。

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Date:2015/12/01
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