【緋彩の瞳】 2番目の恋 ②

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

2番目の恋 ②

「………じゃぁ、まもちゃんはうさぎ以外の人とキスしたことあるっていうこと?うさぎと知り合う前に、誰か好きな人がいたってこと?」
うさぎはようやく、衛さんの初恋が自分ではないかもしれないと言うことに気が付いたみたいだ。
「そんなこと、知らないわよ」
「だって、そう言うこともあるかもってことでしょ?」
「だから?」
「そんなの嫌だよ!だって、私はまもちゃんしか好きじゃないし、まもちゃんとしかキスしたことないもん」
「それが何なのよ。本人に聞けば?」
今にも泣きそうなうさぎは、視線を逸らして知らないと言うアピールをするレイに、甲高い声を上げて否定して欲しいと願っている。レイは衛さんの過去を知るはずもない。それでも余計なことを言ったのはレイと美奈子。
「うさぎちゃん、大丈夫よ。前世から生まれ変わって、もう一度同じ人と結ばれるなんていうのは、この地球上でうさぎちゃんと衛さんだけだから」
美奈子はカラカラと笑う。確かに地球上を探しても、前世をしっかり持っていて、その時に恋をした人と再び巡り会えたなんて言うことは、うさぎと衛さん以外はいないだろう。遠い未来もずっと、2人は永遠に結ばれると魂に刻まれている。
「そうだけどさ……なんか、嫌じゃん。レイちゃんだって、みちるさんが誰かと付き合ってたら嫌でしょ?」
肘をついて顎を乗せて、完全に違う方向に視線を向けて話がひと段落するのを待っていたレイは、無言でじろりと視線を美奈子に向けた。何とかしろ、というアピールに違いない。
「みちるさんは、嫌だよね?レイちゃんがみちるさん以外の人とキスしたことがあったら、嫌だよね?!」



嫌、って言ってもいいのかどうか。
みちるには判断が付かなかった。
嫌かどうかと聞かれたら、“嫌”に決まっている。でも、嫌と言えば消えてしまうものではないことも、重々承知している。うさぎをなだめるためには、何をどう言ってあげたらこのやり取りは終わるのだろう。うさぎは嫌だと言う気持ちを共有し合えたら、それで終わらせてくれるのだろうか。

でも、嫌だと言えばレイが機嫌を損ねてしまうような気がして仕方がない。
レイはみちるとのことを会話のネタにされることを、極端に嫌がるから。

「……さぁ、どうかしら。そう言うことを考えたりしないわ」
無難なことしか、やっぱり言えない。
考えたりしないのではなくて、考えたくはないことだから。
「じゃぁ、考えてよ。ねぇ、みちるさんはどう思う?結局、みちるさんとレイちゃんは初恋同士なの?」
さっきはぐらかして、無かったことにしたはずなのに。同じことをもう一度聞いてくるのは、1度目に欲しい答えをあげなかったせいなのか、ただ、聞いたこと自体すでに忘れてしまっているのか。
レイが横にいるって、わかっているのか、いないのか。
「どうって言われても。過去は過去よ。大事なのは今、想い合っていることだと思うわ」
「でも、たった1人じゃないんだよ?」
「私はそう言うことを考えないわ。本当に、今、幸せだと思っているの」

左の足首にレイのローファーの固い踵がぶつかった。止めろというアピール。無言でそっぽ向いてはいるけれど、オーラが少しずつ不機嫌になってきているのは、十分に感じている。それでもうさぎをなだめてあげないと、この話は終わらないだろう。それに、みちるは嘘を吐いていない。

「……でも、まもちゃんの今も過去も、未来も、全部うさぎだけじゃないなんて、そんなの寂しい。どうしてみちるさんは、寂しいって思わないの?嫌だって思わないの?」
「どうしてと言われても……」

コツンとまた、さっきより強く足首に痛み。みちるは眉間にしわを寄せて、美奈子を見つめる。同じように眉間にしわをよせて、美奈子が困った顔を返してくる。睨むように見つめたあと、美奈子が致し方ないと言わんばかりにため息を吐いた。
「じゃぁ、もう、衛さんに直接聞いたら?大体、衛さんの過去なんて、本人に聞かなきゃわかんないじゃない。わからないことで、今、ここでメソメソしたってしょうがないでしょ」
美奈子は手をパンと叩いて見せた。終わり。そういうアピールを形にして見せている。
レイはその音に少し反応して、うさぎへと視線を戻した。
「そんなの、嫌だ。聞いて、本当にもし、他の人を好きになったり、キスしたことがあったら、嫌だもん」
「じゃぁ、聞かなきゃいいわね」
「でもさ、でもさ」
恋する乙女は口の周りに付いたクリームを拭い、零れる前の涙をゴシゴシと手の甲で擦った。もしかしたら、これくらいが、10代の普通の考え方なのかもしれないって、思えてくる。可愛げがあると思う。冷めたように過去の恋愛を受け入れるなんて言うことは、もっと20代30代の人たちが考えることなのかもしれないって。

ちらっと、レイの横顔を見つめてみた。視線が注がれていると分かっているようだけど、みちるへと視線を投げかけてくれることはなかった。


「あ~ぁ、まもちゃんは誰か好きな人いたのかなぁ」
「うさぎ、そんなくだらないことでメソメソする暇があったら、来週から始まるテスト勉強を死ぬ気でした方がいいわよ。赤点まみれだと、1000年の恋も冷めて、衛さんに捨てられるかもしれないし、衛さんの周りには、頭が良くて料理もできて美人なんて、きっとたくさんいるわ」
レイは飲み干したコーヒーカップの中を覗き込んで、間違いなく空っぽだと言うことを確認すると、丸めてあるレシートを2枚とも摘まんで立ち上がった。
「レイちゃんのいじわる!くだらないことじゃないもん。レイちゃんはみちるさんが誰かとキスしたことあっても平気なの?そんなの愛じゃないよ」
「はいはい」


うさぎのレイへの質問の答えを、みちるは知りたいって思った。少し位嫉妬するかもなんて言ってくれたら、あるいは平気じゃないって言ってくれたら、と、どこかで期待している。
彼女は火野レイだから、もちろんそんなことをこの場でうさぎに言うはずなんてないのに。
「レイ、帰るの?」
「元々、美奈と1杯だけお茶したら帰ろうって言ってここに来たし。もぅ、馬鹿馬鹿しくて付き合っていられない」
「そう」
スクールコートを着て、レジに向かうその背中を追いかける。美奈子に後を任せると、目くばせをすると、小さく頷いてくれた。

「私が払うわ」
うさぎと美奈子、みちるの分を払おうとしていたその手を止めて、代わりにお金を払った。レイは財布を鞄にしまい、先に階段を降り始める。おつりを受け取ったみちるは、駆け足で階段を下りて、信号で立ち止まっていたその隣に並んだ。
「今日、美奈子と何か約束でもあったの?」
「別に。本当にお茶して帰ろうって立ち寄っただけ。特にその後のことは何も」
「じゃぁ、うちに来て」
「………そうね」
鞄を左手に持ち、右手はコートのポケットに入れられたまま。外で手を繋いで歩いたことなんて一度もないから、いつものことだけど、少しやっぱり寂しい想いはぬぐえない。
「夜、泊まって」
「えぇ」
鞄を持っているその腕を掴んで、信号が変わる前にその通りを渡らずに1分ほど歩いた。タクシーを捕まえで、みちるのマンションの住所を告げる。外の景色へと視線を逃がす、いつも通りのレイは、何を考えているのだろうか。いつも以上に何もわかってあげられないのだと、思い知らされるだけだ。
でも今日は、なぜか少し寂しい。


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Date:2015/12/01
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