【緋彩の瞳】 2番目の恋 END

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

2番目の恋 END

あの時、レイの口から、はっきりとみちるが誰かとキスをしたことがあったら嫌だって言って欲しかったなんて、思ってしまっている。そして、そう言わないレイが本当にそんなことを一切気にしていないことに、安心するべきなのか不安を覚えるべきなのか、どういう気持ちが正しいのか、わからない。
「何か、食べたいものある?」
「何でも。すぐに準備するの?」
時計は17時前を指している。少しゆっくりする時間の余裕はあった。
「お腹が空いているのなら、すぐ作るわ」
「まだ、空いてないわ」
「そう。何か飲む?」
「いらない」
レイはダイニングをゆっくりと抜けて、リビングのソファーに腰を下ろした。みちるは冷蔵庫の中のものを確認してから、その隣に腰を下ろした。


部屋の時計の秒針と、少し離れた場所の冷蔵庫の音がやけによく聞こえてくる。


「レイ」
「……ん?」
「どうしたの?」
「…………何のこと?」
首を傾げて、やっとレイが視線を合わせてくれた。何でもない風を装うまつ毛がわずかに震えたことを、レイ自身はわかっていない。そっとブレザーのボタンをひとつずつ外してみる。
「いえ、何か怒っているのでしょう?うさぎに対してだけじゃないわよね?」
「……別に」
「別に?」
「怒ってないわ」
「じゃぁ、なぁに?」
そっとブレザーを引っ張ると両腕を真下にしたので、ゆっくりと脱がす。シャツ1枚ではすぐに身体は冷えてしまうだろう。
だから、そっと抱き寄せた。
「……わからないわ」
「そう」
「わからないけれど、私はうさぎの気持ちと同じじゃないわ」
「そうね」
外で触れられなかったレイの髪は、やっぱり冷たい。あの時撫でられなかった分、きつく抱いて、何度も撫でた。貯め込んだ息を吐きだしたレイの“わからない何か”がみちるの肩に当たる。

それは貯め込んだ分、温かかった。

「同じじゃないということを、みちるさんはどう思う?」
「普通のこと、と思うわ」
「………今が幸せと思うから?」
「えぇ」
冷たい髪をなぞり、スカートに納まっているシャツを引っ張り出す。レイの両手がみちるの腰を抱きしめてきた。
「……みちるさんが誰かと付き合っていたんだろうなって言うこと、分かっていたから」
「気づかれていたの?」
「……キス、馴れているなって」
そう言うつもりはないけれど、確かにキスなら何度もしていた。でも今、こうやってレイを抱きしめていることの方が、ずっとずっと幸せだって思っている。過去のすべてはレイに出会うためのものだったと、思っている。

心から、本当に愛しいと思っているのはレイだけ。

「嫌だった?」
「……嫌と言って、うさぎみたいに駄々をこねたら、取り消せると思う?」
「思わないわ」
抱きしめる手の甲を、しなやかなレイの黒髪がサラサラと撫でる。
この唇は、レイと知り合う前に1人だけ恋に似た憧れの男と触れ合っていた。日本に帰ってきてから、彼を恋しいと思ったことは一度もない。会いたいと思ったことも一度もない。レイと知り合ってから今日まで、存在を思い出すことすらなかった。
「でも、嫌だったって拗ねてくれたら可愛いって思うわ」
レイがそういう人ではないと分かっていても、もし嘘でも嫌だったって言ってくれたら、愛していると同じ意味として受け止めるだろう。レイのくれる感情の一つとして、みちるの身体に刻んでおくことができる。
レイの両手がみちるのセーターを引っ張るので、一度離れてそっとセーターとシャツを脱いだ。
「レイ?」
鎖骨にやわらかい感触。
唇がきつく素肌に吸いついてきて、そのあとピリリと痛みが襲う。
「……痛いわ」
「たぶん、みちるさんの身体を誰かが愛したことがあったら、嫌って思ったわ」
そう言って、また場所を変えて歯を立ててくる。甘く感じるようなものではなく、本当にハッキリと痛いと思う。2つ目、3つ目、4つ目。乳房へとゆっくり下りながら、くっきりと歯型を付けるように。それでもやめて欲しいとは思わなかった。

可愛く拗ねる程度では済まさない、レイの想いは、愛していると言う言葉よりずっと重くて。

「レイが奪ってくれてよかったわ」
「……………そうじゃなかったら、私、その人に殺意を抱くと思う。きっと、本当に殺してしまうわ」
胸に痕を刻み付けるその頭を撫で、指で掬い取った黒髪に唇を押し当てた。ゆっくりとソファーに背を預けて、レイが上に乗ってくるのを受け止める。ひんやりした髪が素肌を覆う。
みちるはどう思うだろう。レイの身体を誰かが愛したことがあったのならば、そのことにどう向き合うことになるのだろう。やっぱりその人に対して嫉妬するに違いないだろう。殺意を抱くだろうか。抱くかもしれない。レイが今、みちるの身体に愛を刻んでいるように、同じことをレイの身体にするかもしれない。
「うさぎ以上なのね、レイは」
「………すべてを欲しいなんて思ってないわ」
「そう?思ってくれてもいいわ」
「思ったら、……本当に殺してしまう」
「私を殺すの?」
「じゃないと、すべてを手に入れられないでしょ?」

だから、レイはレイのすべてをみちるにくれたりしないのだろう。


未来の約束も
過去のすべても


「ねぇ、レイ。キスして」

それでもいいって思うのは、惚れている弱みなのか。
愛していると言う言葉よりも深く魂に刻み付ける愛はきっと、みちるを簡単に殺してしまうものに違いない。

「誰かとキスした唇なんて、嫌って言ったらどうする?」
「………泣いて謝るわ」
「悪いと思ってないって顔してる」
「そう?レイだって初めてのキスは私じゃないでしょう?」
「それもそうだったわね」
さらりと言いながら、両の手は乳房を苦しいほどに強く愛撫してくる。
頬を這う舌の感触に、顔に歯を立てられるのは流石に抵抗しなきゃと、少し、焦りを覚える。
「本当は、私だってうさぎみたいに、レイの初めてのキスが自分じゃないことが嫌だって、駄々をこねたいわよ」
「自分を棚に上げて?」
「そうよ。レイが愛していいのは、私だけだもの」
両手で頬を押さえて、少しだけ無理に重ねた唇。
重ね合わせるたびに、窒息するほどいつまででも、こうしていたいと思いたくなる唇。

「………うさぎより我儘ね、みちるさん」
「我儘、もっと聞いてもらえる?」
「………仕方ないわね」

まつ毛が触れる距離で見つめ合いながら、きつく強く抱かれたいと願う。

レイがかつて誰かに恋をしていたとしても
この唇をその人と重ね合わせたとしても
今、みちるだけを見つめて、みちるだけを想って、みちるだけの唇であればいい

みちるだけしか知らないその手で
みちるだけを愛してくれるのであれば

本当はうさぎよりも、ずっとずっとみちるの方が我儘なんだと思う




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Date:2015/12/01
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